患者さんの治療に関する意思決定
治療法決定のプロセス
治療法は、薬や治療法がその病気にどの程度効果があるか、薬による副作用や治療による生活への影響がどの程度かなどによって、医師や患者さん、あるいは医療者と患者さんが相談しながら決定します。
例えば、有効な治療法でくすりの副作用の心配や生活への影響が小さい場合には、医師が説明をして治療法や薬を選ぶことがあります。一方、有効な治療法であっても、くすりの副作用や費用も含めて生活への影響の可能性が高い場合には、医師から受けた説明に納得した患者さんが治療法を決定します。これをインフォームド・コンセント(informed consent)といいます。
最近では、シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making:SDM)といって、患者さんと医療者が協働して治療の意思決定を行うプロセスがあります。SDMでは、治療法は患者さんが決めるのでも医師が決めるのでもなく、患者さんと医療者がコミュニケーションをとることで、患者さんと医師が一緒に治療法を選択します。
インフォームド・コンセントとは
インフォームド・コンセント(informed consent)とは、「説明を受け納得したうえでの同意」という意味です。医師が病気や容態、つまり患者さんの体の中でどのようなことが起こっているかということや、検査、治療の内容、処方される薬について十分な説明をし、患者さんは内容をよく理解し、納得した上で同意して治療を受けるということです。薬剤師から薬を受けとる時も同様のことがいえます。
インフォームド・コンセントの効果
検査や治療、薬の必要性や効果がわからないと、自分で判断して治療や薬の服用を途中でやめてしまうなど、効果が出にくくなってしまうケースがあります。
インフォームド・コンセントを受けることで医師、薬剤師とのコミュニケーションがよくなり、信頼関係が高まるほか、治療や薬の必要性が理解できるので、患者さんがより積極的に治療に参加できるようになる効果もあります。医師の考えがわかれば患者さんも意見をいうことができ、不安感をなくすことにもつながります。結果として治療効果を高めることも期待できるのです。
インフォームド・コンセントが困難なケース
◆未成年の場合
幼児に対しては保護者の同意のもとに治療が行われます。
◆意思の疎通ができない場合
意識障害や認知症などにより、本人の意思が確認できない場合は、家族など代理人の同意を得て治療が行われます。
◆精神科の病気の場合
患者さんの症状によっては説明を理解し、治療に関して同意を行うことが困難な場合もあります。病名を正確に告知することで本人がショックを受けるなどということが予想される場合や、患者さんに病気の自覚がない時などは、家族など代理人の同意を得て治療が行われることがあります。
◆救急の場合
生命の危機に瀕しているなど時間的な余裕がない場合、治療を優先させてから事後の説明を行うことがあります。
◆がんの場合
がんの告知の場合、家族にのみ病名を告げるという習慣が長く続いていましたが、最近では本人に正しい病名を告知することが増えてきています。ただし、病状や本人の性格、精神状態、家族の理解などに十分に配慮する必要もあります。
インフォームド・チョイスとインフォームド・ディシジョン
インフォームド・チョイス(informed choice)は、「説明を受けたうえでの選択」という意味です。
例えば、手術と化学療法の予後に大差がないと考えられる場合のように、選択可能な治療方針が複数ある場合は、医師から十分な説明を受けたり、情報を集めたりしたうえで治療方法を選択するということです。
さらに、その選択した方法で実際に医療を受けるか否かを自己決定することを、インフォームド・ディシジョン(informed decision)といいます。患者さん主体の医療が求められる中、インフォームド・チョイス、インフォームド・ディシジョンの重要性が増しているといわれています。
シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making:SDM)
シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making:SDM)とは、現在推奨されている治療方針決定のアプローチで、日本語では「共同意思決定」といわれています。患者さんと医療従事者がコミュニケーションを重ね、共同で治療目標の設定やそのための意思決定を行います。
医療従事者が主に医学的情報や最善についての根拠に基づく情報(evidence-based)を患者さんに提供し、患者さんやその家族が本人の生活と人生に関わる個人の個別情報を伝えます。互いに医学情報と個人的な情報を共有したうえで、患者さんと医療従事者が一緒に治療方針を決定します。
SDMは、標準治療が確立されていないケースや、複数の治療法で優劣が付けられないようなケースに活用されます。
患者さんが注意すること
◆医師、薬剤師にまかせっきりにしない
医療の主人公は患者さん自身です。治療に積極的に参加しましょう。
◆病状やくすりに積極的に関心をもつ
医師・薬剤師から説明を受けて、それを理解するには、情報収集などの努力も必要です。まず、病状や薬に関心を持ちましょう。
◆理解できるまで説明を求める
医療関係者はつい専門用語を口にしてしまいがちです。分かるまで説明を求めることが必要です。メモをとるのもお勧めです。
監修: 慶應義塾大学名誉教授 望月 眞弓先生