くすりが患部に届くまで
くすりとからだの関係
一般的な飲み薬の場合、食べ物と同様に、食道から胃へ、胃から腸へ行き、吸収されて、さらに肝臓へ運ばれます。その大部分はそのまま血液中に入り、血管を通って患部(病気のある部位)へ届けられます。
特に重要な働きをするのが肝臓です。肝臓は薬を代謝※する機能を持っています。多くの薬は代謝によって、形が変わり作用を失います。1回、2回と肝臓を何回も通るたびに代謝を受け最後には尿や便、汗などと一緒に体外に排泄されます。
※代謝:生体内で、物質が化学的に変化して性質が変わること、また、それに伴ってエネルギーが出入りすること。
くすりは、次のような流れで患部まで運ばれていきます。

くすりの効果を高める工夫
薬を飲むと成分が吸収されて全身に運ばれます。薬は、「必要な時に、必要な量を、必要な部位に」到達させるのが理想とされています。そこで、薬をもっとも効率よく、かつ安全に患部へ届けるための工夫や技術が考え出されています。大きく分けると、3つの考え方があります。
1.剤形技術
注射薬をのみ薬や貼り薬にしたり、子供や高齢者には唾液により口の中ですぐに溶ける速溶性の薬を開発するなど、薬の形を工夫する技術です。
【くすりの形の一例】
細かい穴をあけるなどの工夫がされている
口腔内崩壊錠

見た目は普通の錠剤と変わりません。口の中の唾液ですぐに溶けるように工夫されていて、飲みやすい薬になっています。
二重構造になっている
糖衣錠

苦い薬を飲みやすくするための役割のほかに、薬を二重構造にすることで、胃での分解を避け、腸などの目的の場所で効くように工夫した形になっています。
2.安定化技術
成分や性質が不安定な薬を、体内で上手に働かせるための技術で、溶ける速度が違う層を重ねた多層構造の錠剤やマイクロカプセルなどがあります。
3.ターゲッティング技術
病巣を狙い撃ちするための技術で、ミサイル療法とも呼ばれています。
◆ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)=薬物送達システムの考え方
薬の成分によっては、途中で胃に影響を与えたり、反対に胃酸などの作用で効果が弱まってしまうものもあります。また薬は、患部に運ばれる途中、肝臓などで代謝されて必要な量が患部に届かないこともあります。そこで、例えば薬を膜などで包むといった工夫により、必要な量を患部に届ける技術「DDS」が考え出され、現在、注目されています。「DDS」は、薬の治療効果を高めるだけでなく、副作用の軽減も期待できます。
量・時間とくすり
一般的に、飲み薬が吸収された後、肝臓を通過して血液中に入り効果を発揮し始めるまでには早くても、15〜30分程度かかります。薬を飲んだ時、すぐに効かないからと続けて飲み足したり、他の薬を飲んだりしないようにしましょう。
監修: 慶應義塾大学名誉教授 望月 眞弓先生