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薬という側面から、命に関わる仕事をしたい。

2018年7月、中外製薬が10年以上の年月をかけて開発した抗悪性リンパ腫の治療薬が、ついに規制当局から承認された。「多くの方々の努力の積み重ねで、患者さんにこの薬を届けられることになりました。ありがとうございました」。上田は、チームを代表して挨拶をした。共に担当したメンバーが泣いていた。「新薬承認までの道のりは、言ってみれば、長い旅路です。第1相~第3相まで、いくつものステップを経て、治験が進められていく。承認通知を手にしたときは、先人がつないできた襷(たすき)を途絶えさせることなく、ゴールできた安堵感と達成感が溢れてきました」。上田が中外製薬を目指したのは、近親者にがんやリウマチに罹患している人がいたことも、きっかけだった。

「心は健康なのに、体がうまく動かない。まだ生きられたはずなのに、残された家族が悲しい思いをする。そういう姿を見て、自分にも何かできないか、薬という側面から命に関わる仕事がしたいと思うようになりました」。中外製薬を志望したのは、がんやリウマチの分野で特化した開発をしており、抗体医薬の技術に優れていたこと。新しい治療薬を創出しており、ロシュ社との戦略的アライアンスによって更なる成長が期待できる環境で、自分も成長できると考えたからだ。今回の承認取得で、入社時の思いを、また一つかなえることができたと思っている。

意志を持って、薬と患者さんの可能性を広げる。

上田が所属する臨床開発部門は、大きく企画部、推進部、情報部、業務部に分かれている。「企画部が治験のプロトコルを作成し、推進部がそれに則って治験を実施します。そこで得られたエビデンスを基に、企画部が承認申請に必要な資料をまとめていきます」。プロトコルとは、治験の目的や根拠、統計学的設定や「どのような患者さんに対してどのような投与を行うか」をまとめた、緻密な計画書のことである。「主に治験の最初と最後を企画部が担当し、治験の実施を推進部が担当しますが、治験の設定は妥当なのか、この患者さんは該当するのか、といった医療機関からの問い合わせにも対応しますし、常に意見交換をしながら連携して進めています」。治験で結果が得られ、承認申請をした後も、規制当局からさまざまな照会がある。「『この患者では、どのような点が有効だと思うのか』『この副作用が現れた理由は何か』というような質問に対して、事実を基にロジックを組んで相手がいかに納得できる形で説明できるか。タフな作業ですが、やりがいと責任を感じる部分です」。

今回、承認された抗悪性リンパ腫の治療薬は、上田が入社する前から開発が進められていた。「この病態では、長年にわたって標準療法(科学的根拠に基づき現時点で最良として推奨されている治療薬)のトップに君臨する競合製品がありました。それを上回る結果を出した治療薬は、まだなかったのです」。上田が臨床開発チームに加わったのは、第3相と呼ばれる、有効性と安全性を検証的に確認するステップの途中。「過去の膨大なデータから前出の薬剤を上回る治療効果があることを示せていた。いよいよ最後の第3相に入るというとき、アンカーの役目を受け継ぎました」。失敗すれば、10年以上の年月が水泡に帰すことも考えられた。「責任の重さを感じると共に、『必ずや患者さんに届けてみせる』という闘志が湧いてきたのを覚えています」。そして、競合製品を上回る結果が得られて、患者さんに更なる治療効果のある薬剤を届けることができた。自分のやってきたことが報われる瞬間でもあった。

いつかは、完治するがん治療薬の開発を。

「人の役に立つのであれば、忙しさも苦にはならない」と、上田は言う。研究プロトコルを立案し、治験で得られた結果にどう考察を加えていくか、どう解釈するかを試行錯誤する部分は、大学での研究と共通する面白さがあると感じている。一方、物事を追究する想いと集中力は、学生時代とは比較にならないくらい強くなった。「その先にいる患者さんを想えば、簡単にはあきらめられません。今回、患者さんの身体への負担を軽減するために、投与時間を短縮することも目指していましたが、度重なる交渉の末、承認申請時には見送らざるを得ませんでした。それでよかったのかどうか、ずっと悩んでいたのですが、再度、治験の実施を検討しています」。

仕事に必要なものは数あれども、最後は“想い”だと思っている。「患者さんの延命につながる薬を連続的に開発して、いつかは完治するがん治療薬の開発に携わりたい。病気で悲しむ人がいなくなる世の中をつくるのが、究極の夢ですね」。

※本記事の内容は取材当時のものです。
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