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“抗体研究の中外”だからこそ、できる仕事。

寺本は、日本におけるバイオインフォマティクス(生物学のデータを、情報科学を用いて解析する研究)の黎明期から、人工知能の一つである機械学習技術を用いた生物情報処理の研究に携わってきた。「根っからの理系ですが、実験が大の苦手。学生時代は、数学を使って現象を説明できるモデルを考える、理論物理学をやっていました」。就職したのは、ちょうどヒトゲノムが解読され、公開され始めた時期だった。「エレクトロニクスメーカーに就職した私は、研究機関から委託されて、DNA配列を解析する仕事に携わりました。そのうち、自分も研究する立場になりたいと思うようになり、製薬会社に移った後にバイオインフォマティクスを専門とする大学の研究室に、共同研究員として派遣して頂きました」。そこで、機械学習技術を使って、遺伝子やタンパク質の情報を解析する研究があることを知る。

「当時、その領域に取り組んでいる会社はほとんどありませんでしたが、学会でたまたま、中外製薬が発表しているのを聞きました。中外製薬が力を入れている抗体研究やがん治療の領域では、特に可能性を秘めた技術だと思います。『この分野を手掛けている会社があるのか』と新鮮さを感じて、ぜひ、働かせてほしいと志望しました」。

研究の意図を、アルゴリズムに反映させる。

入社後4年間は、アカデミアの研究機関と協働して、次世代シーケンサーを使って疾患の原因となる遺伝子を見つける仕事に携わった。「遺伝子や転写因子(遺伝子の働きを制御するタンパク質)の解析によって、創薬の標的を見つけるという意義のあるものでした」。現在は、研究者が薬づくりをする過程に、機械学習技術を用いた予測モデルを活用する試みをしている。この仕事は、寺本らのチームがつくったものだ。「新しい分野なので、最初は『こういう使い方もできますよ』というのを、研究者に提示する必要がありました。実験データをもらってきて、まだ実験していないことについて予測したり、実験結果が計算機内でも再現できるかどうかを検証したり。実績を一つずつ積み重ねて信頼関係を深めてきたことで、今はいろいろな研究者から相談を受けています。最近は、機械学習技術を適用しやすいように、研究者が実験データの取り方を変えてくれるようになりました」。

たとえば、中外製薬が注力する抗体研究。抗体が結合するときに、どこのアミノ酸を変えるとより強く結合するかを予測することもできる。「前例がほとんどない分野だったので、どういうアルゴリズムが良いのか、最初は一から模索していきました。そこは、大変というよりも、機械学習の研究者としては、無条件に面白い部分です」。実験研究者との協働なので、研究の背景や目的を議論することに時間をかける。「そこがずれると間違った要素が入ってしまうので、『相手が言わなかったことも察知する』くらいの気持ちが必要です。研究論文を読んで勉強しないと、すぐにはモデルをつくれないものもありますが、専門分野は細かく教えてもらいながら、密に連携して進めています」。

先進的なテクノロジーの力で、創薬のスピードを上げていく。

寺本の挑戦はまだ始まったばかり。機械学習技術を応用している研究課題は、まだ限定的だという。「技術を確立しながら、創薬での活用場面を抗体医薬品の開発に留まらず広げている段階です」。機械学習技術が、中外製薬の創薬基盤を、より強固にできると信じている。研究には時間と費用がかかるが、この技術を使えば、計算機の中でバーチャルな実験ができるからだ。「物質の探索範囲を広げたり、研究のどこが間違っているかを突き止めたりできます。実験に行き詰って打ち手がなくなったときも、計算機上で、どこをどうすれば良いか予測できます。また、費用や時間を鑑みて実験の失敗を避け、保守的にならざるを得ない場面でも、バーチャル実験なら、費用や時間の制約なくトライできる利点があります」。世界的に注目されている分野ながら、日本で従事している技術者は、まだ少ない。

「薬の知識は、入社してから勉強したり教えてもらったりできます。プログラミングや数学が好きで、勉強してきた人には、とても面白い仕事だと思います」。近い将来に、創薬研究から臨床開発の様々な課題や過程にも、技術を活用していきたいと思っている。「私が人工知能や機械学習技術を開発する根底には、自分の好きな技術を使って会社や人の役に立ちたいという思いがありました。この技術を活かせる業種はいくつかあると思いますが、創薬研究は、人の命を救うことにつながっていく。患者さんに、よりスピーディに薬を届けられたらと思っています」。

※本記事の内容は取材当時のものです。
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