PNH患者さんに多くみられる症状を紹介。

PNH患者さんに多くみられる症状を紹介。

総合監修:

筑波大学医学医療系 
医療科学・血液内科 
教授  小原 直 先生

発作性夜間
ヘモグロビン尿症(PNH)

患者さんに
あらわれる溶血

PNH患者さんの体のなかでは、
血管内で持続的に
赤血球が
壊されており、
これを「溶血」といいます。

正常な赤血球の寿命は約120日です。通常、古くなった赤血球は、脾臓や肝臓で破壊されます。
PNH患者さんの場合、体のなかで補体(→参考:免疫と補体の役割)の攻撃から赤血球を守るタンパク質である 補体制御タンパクがないPNHタイプ赤血球がつくられているため、 寿命を迎える前の若い赤血球が補体の攻撃を受けて血管内で壊されてしまいます (溶血が起こる場所によって分類するために、「血管内溶血」とも呼ばれます)。

PNH患者さんにあらわれる
さまざまな症状の主な原因は、
溶血です。

PNH患者さんの体のなかで起こる溶血の程度は、それぞれの患者さんの血液のなかのPNHタイプ赤血球の量と、補体が活性化されている程度によって変わります。

青い鳥

青い鳥

PNHでは患者さんごとに溶血の程度が違うために、
患者さんによってあらわれる症状は多様なものになります。

補体は感染症、激しい運動、疲労、妊娠・出産、睡眠、手術などを
きっかけとして活性化します。

そのため、PNH患者さんは、感染症などをきっかけに、短時間で大量の溶血(溶血発作といいます)を起こしてしまうことがあります。

溶血発作が起こる主な要因

  • 感染症感染症
  • 激しい運動激しい運動
  • 疲労疲労
  • 妊娠・出産妊娠・出産
  • 睡眠睡眠
  • ⼿術⼿術

溶血によって起こる症状1)

ヘモグロビン尿
PNH患者さんは、血管内での溶血によって赤血球が急激に壊れてしまい、ヘモグロビンが大量に尿に出てしまいます。 そのため、尿の色がコーラ色になることがあります。血尿も赤い尿ですが、ヘモグロビン尿とは異なる症状です。
ヘモグロビン尿はすべての患者さんに必ずみられるものではありません。
PNHの診断を受けたときにヘモグロビン尿がみられる方は、患者さん全体の約1/3と報告されています2)
コーラ色の尿が出る
よくある症状

コーラ色の尿が出る

コーラ色の尿が出る

PNH(発作性[paroxysmal]夜間[nocturnal]ヘモグロビン尿症[hemoglobinuria])の病名は、 PNH患者さんでヘモグロビン尿の症状がみられる場合、多くは朝一番であることが由来となっています。
寝ている間に溶血が起こるメカニズムについては、よくわかっていません1)

青い鳥

PNH(発作性[paroxysmal]夜間[nocturnal]ヘモグロビン尿症[hemoglobinuria])の 病名は、PNH患者さんでヘモグロビン尿の症状がみられる場合、多くは朝⼀番であることが由来となっています。
寝ている間に溶⾎が起こるメカニズムについては、よくわかっていません1)

貧血

赤血球が壊されてしまうため、多くのPNH患者さんに、貧血の症状がみられます。
PNHはゆっくり進行するため貧血もゆっくり進行し、貧血の症状に気づかない方も多いです。また、貧血の状態が日常的となっているために気づかない方も多くいます。日常的に疲れやすい、息切れがする、倦怠感があるなどの症状がみられる場合には注意が必要です。

よくある症状

体がだるい、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ など

体がだるい、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れなど

体がだるい、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れなど
黄疸(おうだん)、胆石症

ヘモグロビンの一部は、肝臓で代謝されて黄色い色素(ビリルビン)になります。
PNH患者さんは、溶血によって赤血球が大量に破壊されるため、血液中のビリルビンの量が増えてしまい、黄疸があらわれることがあります。
また、肝臓でつくられる胆汁(たんじゅう)という消化液が、何らかの原因により固まってしまったものを「胆石」といいますが、 胆汁の成分にはビリルビンが含まれており、PNH患者さんは溶血によりビリルビンの量が増えることで、 胆汁の成分のバランスが崩れてしまいます。
これが原因となり、胆石ができやすくなると考えられています。

黄疸(おうだん)、胆石症

よくある症状

【黄疸と胆石症に共通】白目や皮膚が黄色くなる、尿の色が濃くなる、体がかゆくなる など
【胆石症の症状】吐き気、嘔吐、右上腹部痛 など

黄疸(おうだん)、胆石症

溶血により血液中の一酸化窒素(NO)の
消費量が増えて
起こる症状1)

溶血により赤血球から
流れ出したヘモグロビンが
血管のなかの一酸化窒素(NO)と
結合することで、
PNH患者さんには
さまざまな合併症があらわれると
考えられています。

溶血が起こると、赤血球の外に大量のヘモグロビンが流れ出てしまいます。
ヘモグロビンは酸素だけではなく、一酸化窒素(NO)や一酸化炭素などとも結合して体内に運ぶ役割があるため、 赤血球から流れ出た大量のヘモグロビンは血管のなかの一酸化窒素(NO)と結合してしまいます。
その結果、一酸化窒素(NO)の消費量が増えてしまい、さまざまな合併症があらわれると考えられています。

一酸化窒素(NO)にはどんな役割があるの?

赤血球

赤血球

青い鳥

青い鳥

一酸化窒素(NO)には、血管や筋肉を柔らかくしたり、血管のなかに血のかたまり(血栓)ができるのを抑える役割があります。

血栓症
一酸化窒素(NO)は血管のなかに血のかたまり(血栓)ができるのを抑える役割があります。PNH患者さんの体のなかでは、一酸化窒素(NO)の量が減っているため、血管のなかに血栓ができやすくなってしまいます。

血栓症

正常に血が届かなくなった部位や臓器は壊死してしまったり、正常な機能が失われてしまったりします。
血栓が心臓の血管に詰まると心筋梗塞、脳の血管に詰まれば脳梗塞です。

血栓症の症状

よくある症状

血栓が詰まる場所によって異なる場所に症状があらわれます。
詳しいことは医師に相談しましょう。

慢性腎臓病、急性腎障害

PNH患者さんでは、一酸化窒素(NO)の量が減ることで血管が硬くなるため、腎臓の血流が悪くなり、腎臓に障害が起こりやすくなります。
また、溶血により赤血球から流れ出たヘモグロビンが腎臓を通るときに腎臓を傷つけてしまい、腎臓の機能を障害してしまいます。

よくある症状

疲れやすい、食欲低下、息切れ、皮膚のかゆみ、尿量が減る、
むくみ、体がだるい など

慢性腎臓病、急性腎障害

慢性腎臓病、急性腎障害
肺高血圧症

心臓から肺に血液を送る肺動脈の血液の流れが悪くなり、肺動脈の血圧が高くなった状態です(高血圧とは異なる症状です)。肺動脈の血圧が高くなると、心臓に負担がかかってしまい、さまざまな症状があらわれます。
PNH患者さんでは一酸化窒素(NO)の量が減ることで血管が硬くなるため、肺高血圧症も合併しやすいと言われています。

よくある症状

体がだるい、めまい、むくみ、体重の増加、息苦しい、
動悸 など

肺高血圧症

肺高血圧症
嚥下困難・嚥下痛
(えんげこんなん・えんげつう)

PNH患者さんの体のなかでは、一酸化窒素(NO)の量が減ってしまい、全身の血管が硬くなりやすくなっています。そのために、嚥下困難・嚥下痛があらわれます。

よくある症状

食べ物や飲み物をうまくのみこめずにむせる、
のみこむときに痛みが出る など

嚥下困難・嚥下痛(えんげこんなん・えんげつう)

嚥下困難・嚥下痛(えんげこんなん・えんげつう)
そのほか:男性機能の悩みや腹痛など

これらの症状も、一酸化窒素(NO)の量が減ってしまい、全身の血管が硬くなってしまうことであらわれる症状です。

PNH患者さんには、溶血や、血液中の一酸化窒素(NO)が減ることによってさまざまな症状があらわれます。 しかし、PNHの症状は患者さんごとに多様であるため、それらすべての症状があらわれるわけではありません。
治療中も体調の変化に気をつけて、気になる症状があらわれた場合にはすぐにかかりつけの先生に相談するようにしましょう。

  • 1)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ. 発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. 2023年3月.
  • 2)Nishimura J, et al. Medicine (Baltimore). 2004; 83: 193-207.
総合監修
筑波大学医学医療系 
医療科学・血液内科 
教授  小原 直 先生

2024年5月作成