PNH患者さんの体のなかで起きていること。

PNH患者さんの体のなかで起きていること。

総合監修:

筑波大学医学医療系 
医療科学・血液内科 
教授  小原 直 先生

発作性夜間
ヘモグロビン尿症(PNH)を
発症した患者さんの体で
起こっていること

PNH患者さんの体では、
異常な赤血球(PNHタイプ赤血球)
がつくられてしまいます1)

PNH患者さんの体では、赤血球などの血球のもとになる造血幹細胞の遺伝子に後天的に変異が起こることで、PNHタイプ赤血球という異常な赤血球がつくられてしまいます。
PNHタイプ赤血球とは、正常な赤血球の表面にある、補体の攻撃から赤血球を守るタンパク質(補体制御タンパク)がない赤血球です。

補体は外敵(病原体)から体を守る免疫機能において重要な役割を果たす血液中のタンパク質で、病原体に対して主に3つのはたらきをします(→参考:免疫と補体の役割)。

補体には主に9つの成分(C1~C9)があり、細胞やウイルスなどの外敵(病原体)が体内に侵⼊するとそれぞれ順番に活性化して、体を病原体から守ります。
なかでも、C3とC5が重要な役割を果たしています。

補体のはたらき(イメージ)

補体の活性化による3つの働き 1.白血球が病原体を処理する働きを促す 2.感染したところに白血球を呼び寄せ、活性化させる 3.病原体の細胞膜に穴をあけて破壊する
監修:筑波⼤学医学医療系 医療科学・⾎液内科 教授
 ⼩原 直 先⽣ ※補体について詳しく知りたい方は、「参考:免疫と補体の役割」をご覧ください。

PNH患者さんの赤血球(PNHタイプ赤血球)は補体の攻撃から赤血球を守るタンパク質がないため、補体の3つのはたらきのうち、「③病原体の細胞膜に穴をあけて破壊する」はたらきを受けることにより、赤血球が壊されてしまいます。

そのため、PNH患者さんの体のなかでは、赤血球が補体の攻撃を受けて破壊され(=溶血)、さまざまな症状があらわれるのです1)

正常な赤血球と
PNHタイプ赤血球の違い
(イメージ)

横にスライドするとご覧いただけます

PNHタイプ赤血球の溶結機序

監修:筑波⼤学医学医療系 医療科学・⾎液内科 教授
 ⼩原 直 先⽣

遺伝子の変異が病気の原因なら、PNHは生まれつきの病気なの?

PNH患者さんの造血幹細胞の遺伝子変異は、生まれつき(先天性)ではなく、生まれた後に起こるもの(後天性)です。
PNHは生まれつきの病気ではなく、どんな人が、いつ発症するかわからない病気です。

PNH患者さんは、溶血がきっかけとなり、さまざまな症状があらわれます。

PNH患者さんにあらわれる
症状の例

  • ヘモグロビン尿(尿の色がコーラ色になります)
     

  • 貧血(疲れやすい、息切れしやすい
    などの症状がみられます)

  • 血栓症(血栓が詰まる場所によって
    異なる場所に症状があらわれます)

  • 慢性腎臓病、急性腎障害(疲れやすい、尿量が減るなどの
    症状がみられます)

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ.
発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. 2023年3月.より作成

症状については、「PNHはどんな症状があらわれるの?」に詳しく紹介しているよ。

PNHはゆっくり進行する病気です。

PNHは慢性の病気で、ゆっくりと進行します。
健康な方の体のなかでも、ごくわずかな溶血は起こりますが、PNH患者さんの体のなかでは、持続的に起こっています。

PNHによる溶血は、適切な治療によってコントロールすることができます。
PNH患者さんは治療を継続することが大切です。 「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)はどんな治療をするの?」をご覧ください。

参考:血液に含まれる細胞と赤血球の役割

血液に含まれる細胞には3つの種類があります。
そのうちの1つが赤血球です。

PNH患者さんの体のなかでは、血液のなかに異常な赤血球(PNHタイプ赤血球)がつくられてしまうことにより、赤血球が壊されてしまいます(詳しい説明は「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を発症した患者さんの体で起こっていること」をご覧ください)。
血液に含まれている赤血球はどのような役割を果たしているのでしょうか。

血液は、心臓や血管のなかを循環する液体であり、生命の維持に重要な役割を果たします。
人間をはじめとする動物の体に流れる血液は、液体の成分(血漿[けっしょう]といいます)のなかに、血球が混じったものです。
血球は全血液量の約45%を占める血液の細胞部分であり、赤血球、血小板、白血球という役割の異なる3種類があります。

血液中の血球の割合、
血球中の赤血球の割合

血液中の血球の割合約45%、血球中の赤血球の割合99%以上血小板+白血球1%未満
病気がみえる vol.5 血液 第2版.
メディックメディア; 東京,
2017, 3.より作成

私たちの血液が赤いのは、血球の99%以上を占める赤血球の色が赤いためです。 赤血球が赤い理由については、「赤血球に含まれるヘモグロビンは全身に酸素を運ぶはたらきをします」をご覧ください。

これら3種類の血球はすべて、骨髄のなかで、「造血幹細胞」という血球のもとになる細胞からつくられたものです。造血幹細胞が役割の異なる赤血球、血小板、白血球になる過程を「分化」といいます。造血幹細胞から分化して赤血球、血小板、白血球になると、骨髄から血管のなかに移動します。

造血幹細胞からつくられる
3つの血球

横にスライドするとご覧いただけます

赤血球、血小板、白血球が作られます

病気がみえる vol.5 血液 第2版.
メディックメディア; 東京, 2017, 6-7., .
がん情報サービス 骨髄異形成症候群.
https://ganjoho.jp/public/cancer/MDS/index.html
(閲覧日:2024年4月22日)より作成

赤血球に含まれるヘモグロビンは全身に酸素を運ぶはたらきをします。

赤血球は、真ん中にくぼみがある円盤型をした赤い色の細胞です。
赤血球が赤いのは、赤血球に含まれているヘモグロビンというタンパク質が赤い色素をもっているためです。ヘモグロビンは酸素と結びつく性質があり、体のなかに酸素を送り届けるとともに、体のなかでつくられた二酸化炭素を肺にもち帰るはたらきをします。

赤血球の形(イメージ)

真ん中にくぼみがあります。

赤血球(ヘモグロビン)の量が減ると、体内に十分な量の酸素を行き渡らせることができなくなり、体のだるさ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れなどの貧血の症状があらわれてしまうことがあります。

参考:免疫と補体の役割

血液に含まれる「補体」は、免疫機能において重要な役割を果たす一方で、
過剰に活性化することでさまざまな
病気の発症に
かかわってしまうことがあります。

私たちの体には、体内に侵入した細菌やウイルスなどを外敵(病原体)として攻撃し、感染症などから体を守る免疫機能があります。

免疫機能にはさまざまなタンパク質や細胞がかかわっており、血液のなかの血漿に含まれている補体も、免疫機能のなかで重要な役割を果たすタンパク質です。

補体は、病原体が体内に侵入していない状態では血液のなかに落ち着いた状態で存在していますが、病原体が体内に侵入すると、病原体から体を守るためのはたらきをします(活性化)。

補体のはたらき(イメージ)

補体のはたらき(イメージ)補体成分の段階的な活性化と免疫反応における3つの役割
監修:筑波⼤学医学医療系 医療科学・⾎液内科 教授
 ⼩原 直 先⽣

免疫機能は外敵(病原体)から体を守るためにはたらくシステムです。
そのため、通常は補体をはじめとする免疫にかかわるタンパク質や細胞が活性化しても、外敵ではない私たち自身の体が攻撃されることはありません。

PNH患者さんの体のなかでつくられるPNHタイプ赤血球の表面には、 補体が過剰に活発化したときに補体の攻撃から赤血球を守るタンパク質(補体制御タンパク)がないため、 補体の攻撃を受けると破壊(=溶血)されてしまいます (→発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を発症した患者さんの体で起こっていること)。

補体によってPNHタイプ
赤血球が溶血してしまう仕組み
(イメージ)

横にスライドするとご覧いただけます

PNHタイプ赤血球の溶結機序

監修:筑波⼤学医学医療系 医療科学・⾎液内科 教授
 ⼩原 直 先⽣

細菌やウイルスなどの外敵(病原体)から体を守るのは、 血液のなかの白血球の役割じゃないの?(→参考:血液に含まれる細胞と赤血球の役割

白血球は免疫の柱となる役割を務める細胞です。
補体は自分で直接病原体を攻撃するほか、白血球を活性化させたり、病原体にくっついて攻撃の目印となったりすることで、免疫にかかわるほかの細胞やタンパク質のはたらきを助ける役割も果たしています。

補体による病原体の破壊(イメージ)
補体は体内に侵入してきた病原体に取り付き相手を破壊します
監修:筑波⼤学医学医療系 医療科学・⾎液内科 教授
 ⼩原 直 先⽣

補体による病原体の破壊
(イメージ)

補体は体内に侵入してきた病原体に取り付き相手を破壊します
監修:筑波⼤学医学医療系
 医療科学・⾎液内科
 教授
 ⼩原 直 先⽣

1)難病情報センター. 発作性夜間ヘモグロビン尿症
(指定難病62).
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3783
(閲覧日:2024年4月22日)

総合監修
筑波大学医学医療系 
医療科学・血液内科 
教授  小原 直 先生

2024年5月作成