
子どもの「自立」を促す親の「自分育て」。
その具体的な方法とは?
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将来を見据えると、思春期の子どもの「自立」を促すことは大切です。しかし、病を抱える我が子に「無理をさせたくない」あまりに、その一歩を踏み出せない方もいらっしゃるのではないでしょうか。病と向き合う現実を踏まえた上で、子どもが思春期に差しかかったとき、親自身にも意識的な変化が必要になってきます。その具体的な3つの方法を、コーチングの専門家であり、25年以上、子どもの幸せな自立を目指す子育てを提案し、啓発してきた菅原裕子さんに伺いました。
その1. まずは「助けの手」を意識的に止めること
思春期を迎えた我が子の自立を願うならば、まずは助ける手を意識的に止めることです。そして、見守ってください。親が手を出さない状況が、子どもを主体的に動かします。今まで親がやりすぎていたと思うことは、子どもに素直に伝えることが必要です。
例えば朝、子どもが自分で起きられず、毎日親が起こしている場合。「お母さんが起こさなくても、あなたは十分起きられる力があるのを知らなかった。ごめん。明日から自分で起きてみよう」と話してみてはいかがでしょうか?
抵抗されるかもしれませんが、「お母さんの仕事は、あなたができることを増やしていくことなのに、なんでもお母さんがやっちゃって、ごめんね」と説明すれば、子どもは翌日から自力で起きてくるでしょう。中には難しい子もいますが、目的は起こさないことではなく、自立を促すことです。
「明日から自分でやりなさいよ!」なんて言ったら、子どもはやる気を失います。きちんと筋道を立てて説明し、状況を仕切り直しましょう。その代わり、一度子どもに任せたら、親は口を出さないようにがんばることが大切です。
その2. 状態と状況を周囲に説明し、集団生活をしやすい環境作りを
病を抱えるお子さんには、できることとできないことがあると思います。学校などの集団生活の場で、そのことをきちんと説明していますか? 病があることは、決して恥ずかしいことではありません。隠したりせず、学校側にはもちろんクラスや部活動の保護者にも正直に伝えるようにしましょう。
我が子の「できないこと」だけではなく、「できること」も説明することが大切です。オープンに伝えることで、まわりも状況を一律に把握できて、協力しやすくなるからです。きちんと説明することなく集団生活を進めると、噂だけが一人歩きしたり、周囲が遠巻きに見ているだけの状況が発生したりする可能性も。
また、我が子のために環境作りをしている過程を子ども自身に見せることも大切です。どう働きかければまわりに受け入れてもらえ、サポートをしてもらえるのか、子どもは親の姿を見ながら学ぶことができます。その経験は、将来、子どもが自分で生きやすい環境を作る際の助けとなり、自立後のコミュニティの中で発揮されることでしょう。

その3. 人生を楽しむ親の姿が子どもにとってよいロールモデルに
ここまで子どもの自立をお伝えしてきましたが、実は親自身の自立がとても重要だと考えます。「どうして我が子は病を抱えて生まれたのか」という罪悪感を手放し、病を受け入れた上で、親自身が人生を楽しむことです。親が「生きること、働くことは楽しい」という姿を見せると、子どもに「生きることへの動機づけ」が生まれます。「我が子の病があるから、私の人生は思い通りにならない」ではなく、「何がどうであれ、私は自分の人生を生きて、楽しむ」という姿が「自立」です。親の自立が子どもにとってのロールモデルになるのであれば、もう一粒おいしいですよね。
親の自立は、子どもを自由にすることでもあります。手放されると、子どもは自分で試行錯誤ができるもの。自分で判断してやってみて、失敗したらリカバーし、成功して、初めてチャレンジすることや生きることの楽しさがわかります。少しずつで構いません。時に応じて手を離す親の姿勢は、子どもの健全な成長に欠かせないことだと思います。
あるがままを受け入れ、我が子が幸せに歩むための道を考えよう
私が講演の最後に朗読するのが、インドの民話『ひび割れ壺』です。ひび割れ壺は水を汲んでも、いつもひびから水がこぼれ、うまく運べないことを恥ずかしく思っています。でも、実はそのこぼれた水のおかげで道端には美しい花が咲き、その花がご主人さまの食卓を彩ってきました。ひび割れ壺があるがままの姿でなければ、そのようなすばらしい連鎖も起きなかっただろう、というお話です。その朗読をYouTubeでアップしているので、ぜひ一度、聞いてみてください。
人はみんな“ひび割れ壺”。つぼの“ひび”は性格や気質であり、病です。親はひびを完璧に修繕するのが使命だと思い込んではいないでしょうか。ひびから漏れる水が花を育てるように、ひびを閉じることではなく、その漏れる水を生かすにはどうすればよいか、子どもと一緒に考えていくことが親の使命だと考えます。
病をもった我が子のあるがままを受け入れて、世の中でどう幸せになれるかを考える。同時に子どもには、「病を抱えたあなたこそがあなたであり、そのあなたが幸せになるのよ」と伝えましょう。一緒に自立の道を歩むことは、親子にとってかけがえのない経験なのです。
