横浜市戸塚区に建つ、中外製薬の研究所「中外ライフサイエンスパーク横浜」。その研究所内にある「バイオラボ」は、小学生から高校生を対象に、科学やバイオテクノロジーへの興味・関心を高める機会を提供する実験体験施設です。今回は、バイオラボの運用を担当する加藤正人(ESG推進部社会貢献グループ)が、バイオラボの取り組み、そして、中外製薬が挑む次世代育成に向けた想いを語ります。

生物が好き、バイオテクノロジーに関心がある子供たちを、ひとりでも増やしたい

「バイオラボでの体験を通して、子どもたちが早い段階から科学の面白さに触れ、自分自身や社会の未来を考える機会を提供したい」と語る加藤。バイオテクノロジーに強みをもつ研究開発型の製薬企業である中外製薬は、将来の健やかな社会づくりの担い手となる人財の育成を重要な社会貢献活動と位置付けて、長年その活動に取り組んでいます。中でも、科学教育を通した次世代の育成は、中外製薬にとっても大変重要な意味を持つ取り組みです。中外ライフサイエンスパーク横浜の設立時は、この理念を形にするため、小中高生向けの実験体験施設を研究所の中につくるというアイデアが生まれました。その構想の当初から、加藤はバイオラボの立ち上げ・運用をリードしています。

「先進的な創薬技術に取り組む企業として、理系人財を育てることは私たちの責務です。座学だけでなく、実際に手を動かし、五感を使って科学を体験することで、子どもたちの好奇心を刺激し、科学への興味を深めてもらいたい」と加藤は説明します。

本物の研究者になれる、充実したプログラムと施設

本格的な実験の醍醐味を体験できることが、バイオラボの特徴です。バイオラボでは、中外製薬の研究員が創薬研究を行うものと同じ、最新の実験機器や安全設備が整えられており、参加者は研究者になったつもりで実験に臨みます。

バイオラボでは、主に2つのプログラムを展開しています。

 

      1. 地域貢献プログラム(小学生〜中学生向け)

        身近な生物の観察から、学校ではなかなか体験できない実験まで幅広い実験教室を通じて、科学好き・生物好きの裾野を広げることを目指しています。例えば、顕微鏡を使った水生微生物、花粉の観察、イカ・エビの解剖からブロッコリーのNAの抽出実験やPCR法などの実験が人気です。

      2. バイオ人財育成プログラム(高校生向け)

        中外製薬が強みとする抗体エンジニアリングをテーマに、中外製薬の研究員が企画したより高度な実験を体験できます。これまでにタンパク質の改変やその精製といった実験を行っています。

 

小中学生向けの実験教室は、学校の授業を補完できるよう、身近な生物の観察などに加え、学校の理科の授業では扱いが難しい、専門的な内容や最先端の技術にも子どもたちが抵抗なく触れられるような工夫をしています。夏休みの宿題として親子で訪れる参加者も多くいます。2024年は34回のプログラムを提供しました。

 

高校生向けのバイオ人財育成プログラムは、中外製薬の研究員が企画し、講義や実技指導も務めます。PCR法を応用した遺伝子変異導入から既存のタンパク質を改変し、それを精製して取得するという、実際の創薬研究で使われている実験手技を、まる1~2日かけて行います。2024年はトライアルも含め3回実施しました。更に実験だけでなく、研究者との対話の機会も大事にしています。「実際に第一線で活躍する研究者の話を聞き、創薬のしくみを知ることで、バイオの研究者という職業をより身近に感じてもらえます(加藤)」。

高校生向けのバイオ人財育成プログラムの講義。中外製薬の研究員が講師を務める
高校生向けのバイオ人財育成プログラムの講義。中外製薬の研究員が講師を務める

外部の専門家や大学との連携で、多様なキャリアモデルを示す

バイオラボの活動は、地域社会との連携を重視しています。地域貢献プログラムでは地域の学校とも連携し、より多くの地域の小中学生にバイオラボを知って、親しんでもらえるよう取り組んでいます。

 

外部の専門家や大学との連携も欠かせません。例えば、中学生向けプログラムでは、関東学院大学と協働し 、大学教員が講師を務め、学生が実験教室のアシスタントとして参加することで、参加者たちにキャリアモデルを示す工夫もしています。
さらに、STEM教育における多様性や男女共同参画の観点から、横浜市立大学、男女共同参画センター横浜との協働で、女子中学生向けの特別プログラムも実施しています。女性教員が講師を務め、女子学生がアシスタントと、女性がライフサイエンス分野での活躍をイメージしやすい環境で、実験に取り組んでもらいます。
「大学生のアシスタントは、参加者にとって年齢が近く、親しみやすい存在です。将来の自分の姿をイメージしやすくなるでしょう(加藤)」。また、大学との連携により、最新の研究トピックスを取り入れたプログラムの開発も可能になっています。

ここでの経験をきっかけにバイオの世界に進んでもらえるとうれしい

2023年4月にバイオラボの活動が始まってちょうど2年。「リピーターが増えていることが嬉しい」と加藤は話します。無料開催ということもあり、人気のプログラムでは高い倍率になることもあるそうです。「ニーズの高さを実感しています。できるだけ多くの子どもたちに参加してもらえるよう、プログラムの拡充を検討しています(加藤)」。

 

参加者からのフィードバックも非常に前向きです。「実験が楽しかった」「将来、研究者になりたいと思った」といった感想が多く寄せられています。保護者からも「子どもの科学への興味が深まった」「家でも実験について話をするようになった」といった声が聞かれます。

 

今後の展望について加藤は「参加してくれた小学生が中学生になっても継続して参加し、さらに高校生向けのバイオ人財育成プログラムにつながっていく、一貫したプログラムを作っていきたい」と熱く語ります。

 

「バイオラボでの体験が、子どもたちの未来を考えるきっかけになればと思います。将来、ここでの経験をきっかけにバイオの世界に進み、ノーベル賞を受賞するような研究者が出てくれば、こんなに嬉しいことはありません。科学の楽しさ、生物の不思議さを知ってもらい、ワクワクする体験を提供し続けていきたいと思います(加藤)」。

加藤正人(ESG推進部社会貢献貢献グループ)

中外製薬のサステナビリティ活動において次世代育成プログラムを担当。バイオ/科学に対する興味・関心の醸成や学生向けキャリアビジョンの形成に取り組んでいる。