事業等のリスク

当社グループの業績は、今後起こりうる様々な要因により重大な影響を受ける可能性があります。以下において、当社グループの事業展開上のリスク要因となる可能性がある主な事項を記載しております。
当社グループはこれらリスク発生の可能性を認識したうえで、発生の予防及び発生した場合の対応に努める方針であります。
なお、これらは当社グループにかかるあらゆるリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。また、文中における将来に関する事項は当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

当社グループの「リスク管理」についてはこちらをご覧ください。

1. 経営戦略に関連する潜在リスク(戦略リスク)

(1)技術・イノベーションについて

当社グループは、ロシュとの戦略的アライアンスのもと、自社の強みであるサイエンス力と技術力をさらに強化することで、革新的な医薬品の創出に努めております。特にこれまでの低分子・抗体医薬では解決できなかったアンメットメディカルニーズ(有効な治療方法が見つかっていない疾病に対する治療薬への要望)を満たす中分子創薬技術の開発に注力するとともに、デジタル技術を活用し研究プロセスの効率化に積極的に取り組んでおります。

しかしながら、医薬品には研究開発の不確実性(自社創薬・技術開発の遅れや失敗)が常に存在しており、さらにサイエンス、創薬技術、デジタルという日進月歩の分野では、競争優位性の高いソリューションの出現などにより、自社技術・製品の価値低下や開発計画の見直しなどのリスクがあります。

また、当社グループは業務活動上様々な知的財産権を使用しており、それらは当社グループ所有のものであるか、あるいは適法に使用許諾を受けたものであると認識しておりますが、当社グループの認識の範囲外で第三者から侵害を受けたり、第三者の知的財産権を侵害する可能性があります。当社グループの業務に関連する重大な知的財産権を巡って係争が発生した場合、期待される収益の減少、製造販売・技術使用の停止や使用料の発生など戦略遂行に重大な影響を与える可能性があります。

こうしたリスクに対しては、最先端のサイエンス・技術へのアクセスを怠らず、経営資源の選択と集中により自社技術の優位性を高めるとともに、外部連携の強化により多様性を高めることに努めております。さらに中分子医薬の開発にあたっては関連する社内組織(創薬・開発・製薬)の連携強化、知的財産権については知財戦略のさらなる強化を図ってまいります。

当社グループはリスクアペタイトに基づき、リスクをとって積極果敢にイノベーション創出の機会を追求するとともに、職場環境や組織文化、人財育成などの面からもイノベーションを奨励する仕組みを強化し、イノベーション創出を妨げるリスクの低減に努めております。

(2)医療制度・薬事規制について

当社グループは、アンメットメディカルニーズに応えるべく、ファーストインクラス(新規性・有用性が高く、これまでの治療体系を大幅に変えうる独創的な医薬品)、ベストインクラス(同じ分子を標的にするなど、同一カテゴリーの既存薬に対して明確な優位性を持つ医薬品)となりうる革新的な新薬の連続的な創製に注力しております。

一方、国内外において高齢化の進展や医療費高騰などによる財政逼迫を背景とした薬剤費引き下げ政策の強化が進められています。さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う多額の財政出動により、各国が進める医療費抑制は加速することが予想されます。日本においては昨今の安全保障政策の強化に伴う防衛費の増大等により、医療等の社会保障財政への影響も懸念されます。既に2年に一度行われる薬価改定に加え、2021年度に導入された中間年改定が2023年度も実施される中、こうした薬価引き下げ政策やバイオシミラー(バイオ後続品)等の振興政策が拡大すると、これまで以上に収益の低下を招き、研究開発への投資を妨げるリスクがあります。

また、こうした政策により今後ますます「Value Based Healthcare(価値に基づく医療)」が進展し、患者さんにとって真に価値のあるソリューションだけが選ばれる傾向がより一層強まると考えております。日本のみならず、海外の制度・薬事規制改革の内容や環境動向を適時適切に把握する海外インテリジェンス機能の強化に取り組むとともに、引き続き、イノベーション追求により新たな価値の提供と収益構造の強化を図ってまいります。

(3)市場・顧客について

I.市場・顧客の変化

近年、競合品や後発品/バイオシミラー(バイオ後続品)の浸透加速に加え、再生医療、細胞/遺伝子治療、核酸医薬など新たな治療手段(モダリティ)の進展や、予防・診断・治療・予後まで一貫した価値提供が求められるようになっております。ITプラットフォーマーのヘルスケア産業参入によるデータ寡占等、ライフサイエンスやデジタル分野での新たな技術・脅威が台頭しており、ヘルスケア産業における競争環境は急激に変化しています。さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響を背景に、製薬企業における医薬品の情報提供体制、すなわち顧客タッチポイントのあり方も大きく変容しています。

このような状況におきまして、市場での地位や製品競争力が低下するリスク、あるいは顧客タッチポイントの急速な変化により、医薬品の情報提供体制の抜本的な見直しを迫られる可能性があります。

こうしたリスクに対応するべく、当社グループでは連続的な新薬の創出と製品ラインアップの多様化に努めるとともに、常に高いコンプライアンス意識を持ちながら環境にあった情報提供のあり方を模索しています。また、新たな顧客エンゲージメントモデル、すなわち顧客のニーズに合わせて、リアル(対面)・リモート・デジタルを融合させたアプローチにより、迅速かつ的確に顧客に価値を提供する体制を強化しております。

II.地政学リスクの高まりによる事業制限

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴うヨーロッパにおけるエネルギー供給の懸念や、人権、ハイテク、台湾問題等をめぐる米中対立の高まり、そしてそれらに端を発した各国の経済安全保障法制の強化など、地政学リスクをめぐる企業活動への影響が注目されています。

これら国際情勢の急激な変化や国家間紛争の発生によって、関連地域における事業制限・撤退(生産・R&D・販売拠点の喪失、利益減少、将来の機会損失)、関連地域におけるサプライチェーン停滞・供給遅延などのリスクが生じる可能性があります。

これら地政学リスクに対して、当社グループでは、外部情報の入手や事業影響分析を行う社内体制を整備していくとともに、突発的な有事に備えた安全管理体制の再整備、事業継続計画(BCP)・供給バックアップ体制の強化などを行っていきます。

(4)事業基盤について

I.ロシュとの戦略的提携

当社グループはロシュとの戦略的提携により、日本市場におけるロシュの唯一の医薬品事業会社となり、また日本以外の世界市場(韓国・台湾除く)ではロシュに当社製品の第一選択権を付与し、多数の製品及びプロジェクトを同社との間で導入・導出しております。独自のビジネスモデルによって安定的な収益基盤を確立できることが提携の大きなメリットです。

一方、戦略的提携における合意内容が変更となった場合、業績に重大な影響を与える可能性があります。また、ロシュの創薬・グローバルネットワークが不調に陥り、ロシュからの導入品による安定的な収益源が低下するリスクやロシュに導出した自社品のグローバル市場浸透の遅延や収益低下などのリスクがあります。

当社グループとしてはイノベーションを追求し、革新的な医薬品を連続的に創出することにより、引き続き、ロシュグループ全体の価値創造に対し貢献できるよう努めてまいります。

II.人事・組織

当社は2020年に新たな人事制度を導入し、適所適財に基づく人財配置の徹底、タレントマネジメントの高度化、そして果敢なチャレンジを推奨する組織風土の醸成を図っております。また、データサイエンティストをはじめとするデジタル人財やメディカルドクター(MD)など、戦略遂行上の要となる高度専門人財の発掘・育成・獲得に注力しております。

一方、人財獲得ニーズの競合等による獲得の遅れや社内育成に要する時間、目まぐるしい環境変化により求められる業務の質の変化による人財のミスマッチや不足、余剰等が発生するリスク、あるいは期待される組織文化が醸成されず、イノベーションの創出が阻害されるリスクなどが想定されます。

こうしたリスクに対応するべく、戦略遂行上の要となる人財の要件を明確に定義し、社外にも積極的に開示するとともに、社内では定着・育成に向けた施策の強化に努めております。組織・人財への投資を強化し、環境動向を見極めた組織体制と戦略的な採用計画を実施してまいります。

III.デジタル基盤

すべてのバリューチェーンで生産性の飛躍的向上を図るべくデジタル投資を加速する一方、デジタル技術が進展しない可能性や社内のデジタルケイパビリティ不足、デジタルコンプライアンスの理解不足等によりデジタルトランスフォーメーション(DX)の停滞やトラブルが発生する可能性があります。タイムリーにDX戦略を見直し、ケイパビリティの強化に努めるとともに、外部専門人財を積極的に活用してまいります。

IV. 収益構造

製薬産業における技術の進歩は顕著であり、国内外製薬企業等との厳しい競争に直面する中、R&D費などの投資・コスト増加が収益構造に影響を及ぼす可能性があります。このため、デジタルを活用したプロセス改善と生産性の向上によるオペレーションコストの最小化に取り組むとともに、投資プロジェクトの見極めが重要と考えております。

2. 事業遂行におけるリスク(オペレーショナルリスク)

(1)品質・副作用について

患者さんに価値の高い製品・サービスを安定的にお届けするにあたっては、何よりも製品の有効性や安全性は勿論のこと、それらを担保する品質が重要であると考えます。当社グループでは、製品のライフサイクルにおける業務プロセスの妥当性を確認・評価し改善するとともに、グローバルITシステムの導入・運用によりデータの信頼性を確保しております。また、恒常的な品質確保に向けて、社内及び社外パートナーとの連携を重視し、品質について考え話し合う場を定期的に設けるなど、様々な取り組みにより連携を深化させています。しかしながら、何らかの原因により製品品質に懸念が生じた場合には、販売中止・製品の回収や社会的信頼の喪失などにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。

医薬品・医療機器は各国規制当局の厳しい審査を受けて承認されておりますが、当社グループでは、承認後も医薬品の安全監視活動を強化・徹底するとともに、「調査・副作用・治験データベースツール」による患者さんの特性に応じた迅速な情報提供や、患者さんと医療関係者とのコミュニケーションを円滑にし、患者さんにより安心して治療を受けていただくための「治療支援アプリ」の運用、安全性専属スタッフである「セイフティエキスパート」を中心とした、医療関係者への安全性コンサルテーション・ネットワーク体制の構築など、適正使用に向けた安全性情報提供活動の強化を図っております。しかしながら、その特殊性から、使用にあたり、万全の安全対策を講じたとしても副作用等の健康被害を完全に防止することは困難であり、副作用、特に新たな重篤な副作用が発現した場合には、「使用上の注意」への記載を行うほか、販売中止・製品の回収等に至ることもあり、業績に重大な影響を与える可能性があります。

(2)ITセキュリティ及び情報管理について

業務上、各種ITシステムを利用しており、従業員・アウトソーシング企業の不注意または故意による行為や、サイバー攻撃等の外部要因によりシステム障害や社外提供サービスの停止、提供情報の改ざん等が生じた場合、事業活動の停止・遅延・計画の見直しや、突発的な対応・対策費用などが発生する可能性があります。また、万が一、研究開発等にかかる営業秘密や個人情報等が社外に流出した場合、競争優位性の喪失、社会的信頼の喪失、損害賠償などにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。

当社グループはこれらのリスクに備え、関連規程を整備し、従業員に対する教育・訓練を定期的に実施するとともに、システムの堅牢性・可用性の強化、サイバー攻撃・ウイルス感染の検知機能・監視体制や情報セキュリティインシデント対応体制の強化を図っております。また、これらの対策状況をグループ横断的に評価し強化するためのセキュリティマネジメント体制を構築し、継続的なリスクの低減に努めております。

(3)大規模災害等による影響について

地震、台風、洪水等の自然災害、火災等の事故により、当社グループの事業所・営業所及び取引先の建物・設備等が深刻な被害を受けた場合、医薬品の供給停止や設備修復などの費用計上の発生、新製品の浸透遅延、それらによる収益の低下など、業績に重大な影響を与える可能性があります。

当社グループは、これらのリスクに備え、損害保険の加入や、事業継続計画(BCP)の策定・訓練の実施、耐震対策、安全在庫の確保など、従業員の安全と医薬品の安定供給のための体制を整備し、リスクの低減に努めております。

(4)人権について

職場におけるハラスメントや労働安全衛生を含む人権問題への対応遅延が生じた場合、従業員の健康やメンタルヘルスの悪化、離職率の増加など人財力の低下、社会的信頼の喪失により、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、これら人権問題に対し、役員、従業員に対する継続的な人権研修の実施や、ハラスメントに関する相談窓口の設置、また健康経営の一環として安全衛生活動に取り組んでいます。

サプライヤーに対しても人権尊重に対する理解を求め、協力して人権問題に関する課題解決に努めております。

(5)サプライチェーンについて

自然災害、事故、パンデミックの発生等により当社の原材料調達先や外部製造委託先などのサプライヤーに被害や事業活動の制限が生じた場合、また、サプライチェーンにおけるコンプライアンス違反や環境問題などへの対応が遅延した場合、原材料の確保や生産の継続が困難となる可能性があり、社会的信頼の喪失や売上・シェアの低下により業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、これらサプライチェーンに係るリスクに備え、損害保険の加入や、事業継続計画(BCP)の策定、安全在庫の確保、サプライヤーとの情報共有体制の構築など、医薬品の安定供給のための体制を整備しております。

また、サプライチェーンにおけるコンプライアンスや環境問題など当社グループだけでは解決できない課題に関し、サプライヤーと協力して課題解決に努めております。

(6)地球環境問題について

環境関連法規等の遵守はもとより、さらに高い自主基準を設定してその達成に向けて努めており、今後も強化と充実を図っていきます。しかしながら、万が一、有害物質による予期せぬ汚染やそれに伴う危害が顕在化した場合、対策費用や損害賠償責任を負うなどにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。

気候変動については、地球環境保全のための重大な課題の一つと考え、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでおります。その一環として、エネルギー消費量削減に加え、2025年までに温室効果ガスを排出しないサステナブル電力比率100%、ならびに2030年までにスコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)およびスコープ2(他者から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出)の60~75%削減を目指しております。しかしながら、これら気候変動に対する技術・設備対応の遅れが発覚した場合、設備投資計画の見直し、追加的な費用計上が生じる可能性があります。

また、将来における環境関連法規制の強化により、対策費用の増加や当社グループの研究、開発、製造、その他の事業活動が制限される可能性があります。

なお、当社グループは、透明性・信頼性の高い環境情報を開示するため、毎年、環境パフォーマンスデータの第三者保証を取得しております。また、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言」のフレームワークに基づき、気候変動が当社へもたらすリスクと機会を織り込んだ定性評価及びシナリオ分析を実施し、長期的に大規模な事業転換や投資を必要とする重大な気候関連リスクは特定されませんでした。加えて、2021年には、弊社の温室効果ガス削減目標に対してScience Based Target(SBT)事務局より SBT 認定を取得いたしました。今後も継続的に分析・評価を行い、プロアクティブな環境課題の解決に取り組んでいきます。

(7)パンデミックによる影響について

当社グループは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大以降、テレワークなど柔軟性の高い働き方と生産性の維持・向上を実現する「新しい働き方」の定着に向けた取り組みを進めております。また、患者さんに対する医薬品の安定供給という社会的責務を担っており、感染症拡大時においても、必要な医薬品の提供体制を維持することを基本方針としております。

引き続き、従業員及び事業関係者への感染防止策に取り組みながら、医薬品の安定供給に努めてまいりますが、今後、新たな感染症の全国的・世界的な大流行等により事業活動が制限された場合、サプライチェーンの停止・遅延により製品供給に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、研究・臨床試験の進行や、MR活動の制限による新製品等の浸透に遅延が生じる可能性があります。

  • Facebookのシェア(別ウィンドウで開く)
  • ポストする(別ウィンドウで開く)
  • Lineで送る(別ウィンドウで開く)
  • メールする(メールソフトを起動します)

経営方針

トップに戻る