世界最高水準の創薬を目指す中外製薬。創薬の速度と複雑さが増す今、アカデミアやスタートアップといった世界のプレーヤーとの共創なくして、革新的な医薬品は生まれません。今回は、人事部の永田希望と研究本部の清水祐一郎にインタビュー。ボストンとサンフランシスコで今秋、創薬・ライフサイエンスに携わる研究者向けに開催した「中外製薬×Life Science Network Meetup」の様子を紹介し、イベント開催の背景と、そこに集まる人への想いを紐解きます。
なぜ創薬エコシステムに踏み出すのか
世界最大級とされる米国ボストン、サンフランシスコ・ベイエリアの創薬エコシステム。大学、病院、バイオテックベンチャー、製薬企業、ベンチャーファンドが密集し、日々最先端の研究成果が生まれるこの地だからこそ、多様な専門性・バックグラウンドをもつサイエンス人財の密度が高まります。
永田 創薬は専門領域が細分化し、より高度な専門性が必要とされます。だからこそ海外の第一線にいるサイエンス人財とのネットワークが不可欠です。
清水 私自身も中外製薬入社前はポスドクで米国にいましたが、当時はアカデミアの研究者が企業の方と自然に議論できる機会は少なく「もっと距離が縮まれば面白いのに」と感じていました。
永田 そこで私たちは「待つより会いに行く」方針をとっています。グローバルに活躍する人財を採用したいという目的もありますが、より中長期の視点でサイエンス人財に中外製薬のことを知ってもらうこと、そして共に議論し、創薬エコシステムに貢献するネットワークづくりが大切だと思っています。
中外製薬Meetupは“共創の触媒”
具体的な取り組みの一つが「中外製薬×Life Science Network Meetup」です。2023年にスタートした本イベントは毎年米国で開催し、参加者がフラットに話せる空間をつくります。
永田 たとえばボストン会場はMIT-JPN*との共催で開催しました。当社の海外子会社であるCVF(Chugai Venture Fund)でバイオベンチャー投資を担当する社員が、オンコロジー領域の研究員として創薬プロジェクトを推進した経験や製薬企業でのキャリアを紹介しました。セミナー後の交流会には、約100名が参加。オンライン配信には、アメリカ各地や日本、欧州からの参加もありました。
清水 サンフランシスコ会場はパロアルト市のJapan Innovation Campus。私や永田に加え、2024年に入社した化学系の研究員も登壇し、企業研究のリアルを語りました。
*MIT-JPN: MIT Japanese Postdocs/PhD Students/Professionals Network
イベントの参加者からは、次のような声が寄せられました。
- 「サイエンティフィックなテーマを追求する研究内容がとても勉強になった」
- 「サイエンスとキャリアディベロップメントの両方の要素があり、興味深かった」
- 「プロジェクト型でデータとディスカッションを重視する中外のカルチャーに驚いた」
- 「交流の場が持ててよかった。専門外でも意見を出しやすい雰囲気でコラボレーションのアイデアが膨らんだ」
- 「ボストンのコミュニティへも前向きに貢献していきたいという中外製薬の気持ちを感じ、共感した」
永田は「“製薬企業での研究が今はない治療を患者に届けることにつながると具体的にイメージでき、魅力に感じた”という感想もあったのが嬉しかったです」と振り返ります。清水も「交流会では、研究テーマの深掘りのみならず、研究者のキャリアに関する議論も大いに盛り上がったのが印象的」と手応えを語ります。 共通するのは“壁を感じさせない”こと。創薬テーマでもキャリアでも、立場を外して語り合うことで創薬エコシステムを盛り立てる価値観を共有する――Meetupはその触媒となりました。
「技術ドリブン創薬」を支える、徹底的なこだわり
中外製薬の創薬研究の核となるのが「技術ドリブン創薬」です。まず創薬に応用可能な先端の「技術」を開発し、そこに中外独自のバイオロジーに立脚した創薬コンセプトを組み合わせ、幅広い領域に対して革新的な医薬品を生み出すというアプローチです。従来の創薬が「この病気を治療するには何が効くか」という標的探索から始まるのに対し、技術ドリブン創薬は「どの先端技術なら、これまで治療が難しかった病気を克服できるか」という発想で技術を磨き上げることから出発します。
清水は、自身が様々な創薬や技術開発プロジェクトに携わった経験を振り返りながらこう語ります。「一度テーマが決まれば、あらゆる可能性を洗い出し、膨大かつ質の高いデータをよりどころに徹底的にこだわりぬく。中外だから生み出せる最適解を追求する姿勢が社内の隅々まで共有されています」。 一方で、永田は「アカデミアの方の中には、いまだに企業の研究者は決められた方向性に沿って動くだけと考えている方もいるようです。リアルな情報が届いていない現状はもったいない」と指摘します。Meetupは、そのギャップを埋める場として機能しています。
つながりをコミュニティへ、未来へ──中外製薬の次なる挑戦
当社の創薬研究の拠点である「中外ライフサイエンスパーク横浜」では、海外でのポスドク経験のある研究者は年々、増えています。キャリア入社者を含む研究者同士のネットワーキングを重視し、食堂でのランチ会やピザとビールの立食パーティー、ハロウィンパーティーなど、社内交流イベントを企画しています。また、会社全体でキャリア入社の社員のフォローアップ施策として経営層との交流会などオンボーディングにも力を入れています。「主体的に動けるパワフルな研究者ほど活躍できる土壌がある」と清水は強調します。
永田は今後の展望をこう語ります。
「イベントで生まれた“点”のつながりを、継続的なコミュニティとして“線”に、さらに“面”に広げたい。今後は他のエリアの開催も視野に入れ、より多様でオープンなコミュニティ形成を目指します」
世界中のプレーヤーと創薬研究をともに加速させる――中外製薬の挑戦は続きます。
永田希望 中外製薬 人事部
2005年にMR職として入社。2014年よりメディカルアフェアーズ本部にてMSLの役割明確化や人事関連業務を担当し、医療の質向上に寄与する取り組みに関わる中で、人事の仕事の魅力に触れる。2018年より人事部に所属し、2020年からはキャリア採用を担当。現在は、会社の戦略実現に向けた人財獲得に加え、海外で活躍する研究者の方々に中外製薬の取り組みを直接伝え、交流を通じて関係を築く活動を推進。
清水祐一郎 中外製薬 研究本部・研究業務推進部
米国でのポスドクを経て2010年にキャリア入社。タンパク質科学を中心に研究員・マネジャーとして様々な創薬・技術開発プロジェクトに関わる。シンガポールの子会社CPRの立ち上げメンバーとしても奮闘。現在は研究者のキャリアに寄り添うべくキャリア採用や研究員の交流促進、バイオラボ等、様々な活動に従事している。