松田 穣 (創薬企画推進部 研究ネットワーク推進グループ Open Innovation / Co-creation Expert)

米国での学びを日本に還元したい

私は現在、研究本部で創薬研究のオープンイノベーションをリードする役割を担っています。昨年までは、本社に在籍し、中外初のコーポレートベンチャーキャピタル「Chugai Venture Fund,LLC (CVF)」の設立を担当していましたが、CVFが設立された今、CVFと中外製薬研究本部との連携推進を視野に研究所に移りました。CVFは米国に設立しましたが、日本のオープンイノベーションの環境は米国と比較して未発達です。学術機関、スタートアップ、ベンチャーキャピタル、製薬企業等、全ての創薬プレーヤーにとっての好循環を日本に創り出すために、CVFを介して米国で学んだノウハウを、いつの日か日本に還元したいと考えています。

迷った時は、自身の考え方の骨子に立ち戻る

CVF設立には、提案から実現まで、約 2 年間携わりましたが、私は元々、研究者として中外製薬に入社しました。学位取得後、自分の専門性を世の中に役立てたいという理由で、創薬研究職に応募したのが中外製薬との出会いです。願い叶って研究職のキャリアをスタートさせましたが、漸く会社生活に慣れてきた入社2年目に、京都大学へと派遣され、その後の3年間を京都で過ごしました。日々の研究者としての科学的な試行錯誤に加え、派遣先と中外製薬との利害調整など、さまざまな苦労がありました。しかし、中外製薬の代表者として、個々の問題の解決策を一人で考えて実行してゆくのは面白かったですし、キャリアの初期に、企業と大学の考え方の違いに触れ、科学技術の社会還元を高い視点で考える良いきっかけになったと思っています。

 帰任後は社内の創薬プロジェクトに関わっていましたが、今度は担当していたプロジェクトが米国Genentechに早期導出される事になり、プロジェクト推進のために米国へ派遣されました。ここでも、中外製薬の代表者として諸処の問題に対応していく必要があったものの、先の派遣を通じて自分の中で考え方の骨子ができており、ストレスはあまり感じませんでした。自分の組織の外で物事を進めようとすると、利害関係が交錯する中で、さまざまな難しい問題が生じます。これらを基本的には独りで解決していかなければなりませんが、近い所ばかり見ていては、進むべき方向を見失ってしまいます。私は、二度の社外派遣を経て、迷った時は、世界の患者さんと日本の科学技術発展に貢献するにはどうするのが一番良いか?を基準とした行動を心がけるようになりました。

目標の達成に向けて、特定の枠組みには捉われない

世界の患者さんと日本の科学技術発展に貢献するという目標は、視点の違いこそあれ、中外製薬のどの部門の目標からも大きく外れる事は無いはずです。私が本社で手掛けたCVF 設立も、この目標に対する異なる視点からのアプローチです。振り返ってみると、中外製薬はこれまで、私にさまざまな高さの視点で業務を行う機会を与えてくれました。本社在籍期間中は研修の一環としてビジネススクールに通学する機会にも恵まれ、より高い視点から社会貢献を意識するきっかけとなりました。

 どのような視点からも切り込める普遍的な目標に向かおうとすると、時として中外製薬という枠組みに捉われない議論が必要になるかもしれません。しかし、それが、結果として中外製薬の「TOP I 2030」達成につながるのだと思います。私も「TOP I 2030」の先に患者さんと社会を見据えつつ、今後のキャリアを歩んでゆきたいと思います。