デジタル技術が導く次世代の製薬。データ駆動型アプローチで革新的な医薬品開発に挑む

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候補分子の製品化に向けた開発工程を担う製薬技術本部。中でもプロセスシミュレーショングループでは、デジタル技術を活用しながら、低・中分子の固形製剤の処方やプロセス設計および最適化を行っている。キャリア入社した研究員の目線から、中外製薬で製剤設計に取り組む意義、やりがいを探る。

(インタビュイー:筑紫)

 ※中外製薬公式talentbook(https://www.talent-book.jp/chugai-pharm)より転載。記載内容・所属は2024年7月時点のものです

デジタル技術を活用して固形製剤開発を加速。患者中心の製剤設計の実現に向けて

主にデバイスなどの注射剤や錠剤・カプセル等の固形製剤を扱う製剤研究部。中でも、固形製剤の開発においてデジタル技術を積極的に活用している点がプロセスシミュレーショングループの製剤設計の特長だ。

 

「私たちが担当しているのは、経口投与される錠剤やカプセルなどの固形製剤の開発です。シミュレーションをはじめとするデジタル技術を駆使し、製剤の処方設計や、粉体処理、顆粒化、打錠、コーティングといった成形プロセスの検討、製造した製剤の品質評価などを行っています。

 

業務は実験ベースで進められますが、従来の統計解析技術に加え、各種シミュレーションソフトやAIを活用することで効率化を図り、より少ないデータや検討数で最適条件を導き出そうと努めています。

 

安全で高品質な製品を確実に、そして迅速に患者さんにお届けすることが、私たちのミッションです。大量生産を見据えた製剤設計と最適化に向けて、ラボスケールから商用生産スケールへのスケールアップにおいても、品質保証の観点からシミュレーションを活用しています(筑紫)」。

 

筑紫が務めるのは、若手研究員をリードするポジション。実験からデータ解析、チームのディレクションまで、幅広い業務を担当している。

 

「低・中分子の固形製剤開発における処方とプロセスの設計、小児用固形製剤の承認申請に向けたプロセス開発、さらにはシミュレーションモデルの構築など、私の担当領域は多岐にわたります。

 

マネジャーと緊密に連携してプロジェクトの方向性を定めると同時に、プロジェクト目標を若手研究員に適切に展開し、彼らと相談しながら具体的な実行計画を立案することが現在の主な役割です(筑紫)」。

 

中外製薬が注力する中分子の固形製剤開発に携わる筑紫。研究員としてこれまでにないおもしろさを感じていると語る。

 

「低分子と比較して分子量が大きい中分子医薬品の開発においては、安定性の確保や溶解性の改善が重要です。体内吸収に必要な溶出性(薬を飲んだ後の成分の溶け方)・吸収性を高めるため、溶解性を改善させる添加剤を有効成分に組み合わせる処方設計、さらにどのような手法で作り上げるかを構築する製法設計など、製剤開発にはさまざまな工夫が求められます。難しさがある反面、非常に挑戦しがいのある課題です。

 

また、戦略的アライアンスを結ぶ世界有数の製薬会社であるロシュ社と連携できるのも中外製薬ならでは。国内ではまだ実績の少ない新技術の導入など、彼らと議論を重ねながらデジタル技術を組み合わせ新しいアプローチを確立していく取り組みは非常に刺激的だと感じています(筑紫)」。

 

これまで筑紫を駆り立ててきたのは、「患者中心」の想い。製剤研究に従事するやりがいについて次のように話す。

 

「製剤研究部は、患者さんが服用する製剤開発に携わっています。そのため、患者さんの視点を常に意識し、服用のしやすさやをはじめとする日常生活への影響を考慮しながら研究を進められるのが特長です。創薬の初期段階に比べて患者さんとの距離が近く、患者さん目線で製品開発できることが、私の原動力となっています。

 

自分が開発に関わった製品が実際に世に出て、その薬効が発揮されるのを実感することが、私の仕事への情熱と責任感の源泉です(筑紫)」。

製薬研究者への道のり、そして中外製薬での新たな挑戦

製薬会社に勤めていた両親の影響で、幼少期から研究職をめざしていた筑紫。大学進学の時点で、すでに製薬業界でのキャリアを視野に入れていたと言う。

 

「薬学部では難溶解性薬物の溶解性改善といった研究に従事しました。

 

卒業後は国内の大手製薬会社に入社しました。その会社には多くの製品を市場に送り出した実績があったため、既存の成功事例にもとづいて新製品を開発するアプローチが主流。一部注射剤の開発にも携わりましたが、主に固形製剤を扱い、確立された手順に則って製品化を進めていくことが主な業務でした。

 

前職では新たなデジタル技術の活用機会が限られており、まれにシミュレーション技術に触れるチャンスもありましたが、従来の統計解析手法にもとづいた研究開発を中心に行っていました(筑紫)」。

 

その後、筑紫は結婚を機に上京し、中外製薬へ。入社当時の印象を次のように振り返る。

 

「研究所での業務はチームワークが中心で、子どもの急な発熱などで出社がかなわなくなってもメンバーがカバーしてくれるなど非常に柔軟な職場でした。また、社内では有給休暇の取得が推進されており、フレックスタイム制も導入されています。ひと足先に入社していた前職の同僚から聞いていた通り、中外製薬には女性にとって働きやすい環境があると感じました(筑紫)」。

 

入社後、現在の部署に配属された筑紫。オープンでフラットな組織構造の中で研究員として成長を遂げてきた。

 

「経口の錠剤とカプセルの開発プロジェクトに参加し、研究所と工場をつなぐ橋渡し的な役割を担いました。ラボスケールでの製造から大規模生産への移行におけるプロセスの最適化が主な業務です。前職での経験を活かせる分野だったため、スムーズに適応できました。

 

中外製薬の組織の大きな特長のひとつは、部門間の垣根が低いこと。製剤研究部、分析研究所部、原薬研究部門、工場、さらには薬事部や品質保証部など、さまざまな部門が情報を共有し、協力しながら製品開発を進めています。

 

患者さんにとって最適な製品を多角的な視点から開発できるのは、こうした部門横断的なアプローチがあってこそ。さまざまな専門性を持つメンバーから出されるアイデアや提案が素早く集約される仕組みは、非常に効果的だと感じています(筑紫)」。

フロンティア精神が育むリーダーシップ、グローバルな環境で広がるキャリア

入社以来、即戦力として活躍してきた筑紫。前職の経験を活かして成果を上げたこんな経験も。

 

「錠剤にフィルムコーティングして着色する過程で、コーティングが剥離してしまうトラブルが発生し、私が技術的なリーダーとして解決に当たりました。

 

錠剤表面の過度な湿潤化が原因であるとわかっていましたが、剥離が始まる水分量の閾(しきい)値を把握できていないことが課題でした。

 

そこで、部内の同僚やマネジャー、工場のスタッフなど、多様な視点からの意見を集約して仮説を立案。コーティング剤を噴霧する際の水分量、装置内の温度、気流の動きなど、多数のパラメータを考慮し、統計解析や熱力学的な理論を組み合わせたアプローチを採用したところ、剥離が発生する臨界条件の数値化に成功しました。

 

課題を解決する上で、前職で培った多変量解析の技術が非常に役立ったと感じています。誰もが漠然と感じていた問題をデータで実証できたことは大きな成果でした(筑紫)」。

 

筑紫が入社直後から存在感を発揮できている背景には、中外製薬の革新的なイノベーションを生み出す組織文化がある。同社がコアバリューのひとつとして掲げる「フロンティア精神」の浸透を肌で感じていると筑紫は言う。

 

「当社にはプロパー社員とキャリア入社者の区別なく、誰もが意見を出しやすい風土が根づいています。以前、キャリア入社者を集めて中外製薬の良い点や改善すべき点について意見を求める場が設けられたこともあったほどです。

 

デジタル技術に対して積極的に投資が行われていることも特筆すべき点です。全社的にDXを推進しており、新技術の導入提案が受け入れられやすく、先進的なプロジェクトに挑戦する機会が豊富にあります。

 

さらに、ロシュとの協業を通じて最先端の技術動向を把握し、グローバル競争力の維持に努めようとする姿勢にも深く共感しています」

 

入社3年目を迎える筑紫。入社後の自身の成長を次のように振り返る。

 

「前職では目の前の業務に注力し、他社の技術動向にまで注意を払う機会がありませんでしたが、入社後、ロシュと連携する中で、視野が大きく広がりました。各国・各社ごとの技術的強みを分析するなど、グローバルな視点で業界を捉える能力を養えたことは、大きな成長だと感じています(筑紫)」。

中外製薬ならではの革新的な固形製剤開発に貢献し続けられる存在に

キャリアを通じて固形製剤の製造プロセスの最適化に取り組んできた筑紫。製剤研究に携わる醍醐味について次のように話す。

 

「固形製剤の開発は、多様な物性を持つ粉体を患者さんが服用可能な形態に変換するプロセスです。液体製剤とは異なり、成分の均一性の維持が大きな課題となります。

 

原薬や添加剤粉末をひとつにまとめる固形製剤開発過程では、各成分の粒子サイズをはじめとする粉体物性や毒性、さらには製造工程の各特長など、さまざまな因子が複雑に絡み合います。患者さんにとって安全で効果的な製剤をめざし、これらの要素を最適化していくプロセスに大きなやりがいを感じています(筑紫)」。

 

錠剤の溶出性と吸収性、湿気や温度への耐性など、固形製剤の製造プロセスには数多くの技術的課題が存在する。より革新的な新薬創出の実現を共にめざす未来の仲間たちに向けて、筑紫はこう呼びかける。

 

「社内やロシュのメンバーを相手に自分の考えや構想を説明し、合意形成を図るためには、強い意思と発言力が不可欠です。チームワークを重視しつつ、建設的な議論を通じて関係者を巻き込みながらプロジェクトを推進できる方の参画をお待ちしています」

 

筑紫の目下の目標は、自ら担当した製品を市場に出すこと。そして、その先に描くビジョンがある。

 

「入社してから新薬の上市にはまだ至っていません。まずは患者さんのもとに自分が開発に関与した製品をお届けすることが私の使命です。

 

長期的には、たとえ研究員ではなくなったとしても、製薬技術には関わり続けたいと考えています。これまでのキャリアで培ってきた技術や経験を最大限に活用し、中外製薬で長く活躍し続けることが目標です(筑紫)」。