オープンイノベーションでDXを加速。全社の意識改革を通じてめざすヘルスケアの未来

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中外製薬のDXをリードするデジタル戦略推進部に所属する柳津。2023年の入社以来、国内通信大手での業務経験を活かしながら、デジタル領域のオープンイノベーションの企画・推進とデジタルを活用する組織風土改革に携わってきた。取り組みを通じて実感した中外製薬の強みやDXでめざすヘルスケアの未来を語る。

(インタビュイー:柳津)

※中外製薬公式note(https://note.chugai-pharm.co.jp/)より転載。記載内容・所属は2024年4月時点のものです

デジタルで患者さんに新たな価値を提供したい。大手通信事業会社を経て、中外製薬へ

中外製薬では、DXの推進に向け2020年に「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を策定。ビジネスを変革し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターをめざし、独自のサイエンス力、技術力とデジタル技術の融合に取り組んでいる。

その旗振り役を務めてきたのが、デジタル戦略推進部。「デジタル基盤の強化」「すべてのバリューチェーン効率化」「デジタルを活用した革新的な新薬の創出」の3つの基本戦略のもと、社内のデジタル人財育成やインキュベーションプログラムの企画、デジタルによる生産性向上、AIを活用した新薬創出など、全社のDX推進をリードしてきた。

 

「デジタル戦略推進部の企画グループでは、全社デジタル戦略の策定に加え、DXを“全社ごと”化するための社員のリテラシー向上やマインドセットの醸成を担っています。中でも私の主な役割は、デジタル領域のオープンイノベーション施策の企画・推進です(柳津)」。

 

学生時代、医学部でがん細胞の転移に関する研究に従事した柳津。病院実習をきっかけにデジタル技術の可能性を感じ、卒業後は国内の大手通信事業会社へ。約2年にわたりヘルスケア関連の新規技術事業開発に携わった。

 

「大学と大学院ではウェット系(生物学的実験)の研究室に所属しており、データ解析などのいわゆるドライ系研究とはまったく縁がありませんでした。ところが、大学院で参加した病院実習プログラムで診断支援AIなど、いくつかのデジタルソリューションが医療の現場で活躍するのを目の当たりにし、IT業界に興味を持つようになりました。

通信大手に入社後は、大学病院やスタートアップと連携したスマートホスピタル事業の企画推進に関わり、ITやAIを活用した効率的な働き方改革、患者さんの経験価値(ペイシェントエクスペリエンス)向上をめざして、さまざまな実証実験などに取り組みました。

日々進化するデジタル技術に関わること自体が刺激的でしたし、医療関係者から、『余裕を持って周囲とコミュニケーションできるようになった』と感謝の言葉をいただいたことも。大きなやりがいを感じていました(柳津)」。

 

その後、柳津は部署異動し、スタートアップ投資に関する戦略策定などにも従事。ヘルスケア領域含むさまざまな業界のスタートアップについて触れることはおもしろく、より医療の現場や患者さんに近い領域でデジタルの取り組みに従事したいと考えるようになったと言う。

2023年に中外製薬に入社した柳津。その経緯を次のように振り返る。

 

「患者さんやそのご家族にソリューションや技術を届けられる仕事がしたいと考え、真っ先に思い浮かんだのが製薬会社でした。中でも、デジタル領域への取り組みについてとくに積極的に発信していたのが中外製薬でした。技術開発だけでなく、マインドセットや行動特性の変革にも注力するなど、会社全体としてのDX推進に対する本気度の高さを感じました。

選考過程では、デジタル領域のオープンイノベーションに取り組む上での課題や展望について熱く語る担当者の言葉に感銘を受けたのを覚えています。異業界への転職には不安がありましたが、その場で役員から励ましの言葉をもらったことが決め手になりました。

企業文化や先方が私に求めるスキルセットについて、ミスマッチを避けるためにも『中外で活躍できる人・中外らしいと思われる人の特徴について、お考えを教えていただきたい』とご質問したところ、『“中外らしい人”という明確な型はなく、各々が個性や強みを発揮しながら活躍、会社に貢献している』とはっきりとご回答いただきました。

当時は想定していなかったご返答だったこともあり、とても驚いたことを今でも覚えています。実際に働いてみて、とてもいい意味で“こうあるべき・こうバリューを発揮すべき”といった型がなく、社員一人ひとりが自身の専門性や強みを発揮できる職場環境だと感じています。

実は、 学生時代に中外製薬の臨床開発職の採用試験を受けて最終面接まで進んだ経験があり、当時の採用担当者からとても親切な対応を受けた記憶があったこと、中外製薬で働いている知人からの勧めがあったことも、中途入社で応募してみようと思ったきっかけの一つです(柳津)」。

組織風土改革とオープンイノベーションでデジタル基盤の確立を

2023年に開催した第1回Digital Innovation Pitch
2023年に開催した第1回Digital Innovation Pitch

入社後、デジタルに対する社内の組織風土改革や、デジタル領域のオープンイノベーション施策の企画・推進に携わってきた柳津。現在は、3つの取り組みに同時並行で取り組んでいる。

 「1つめが、中外製薬グループの全社員を対象としたアイデア創出プログラム『Digital Innovation Lab(以下、DIL)』です。デジタル技術を活用したビジネス課題の解決策や新規ビジネス創出に向けて、発案者が中心となり、パートナー企業と協力してPoC(Proof of Concept)や成果検証を行い、本番開発へと迅速につなげることをめざしています。

業務上の課題を解決するための技術やソリューションを見つけるのは簡単ではありません。現在、DILにはIT大手やスタートアップなど、80社以上の企業に参画いただいており、これらの社外パートナーの開拓や管理、連携強化のための企画・推進を行なっています。

2つめが、『Chugai Digital Acceleration Lab(以下、CDAL)』です。デジタル領域におけるオープンイノベーションを促進することを目的に2021年から始まった取り組みで、各部門やプロジェクトが抱える課題の解決につながる海外および国内スタートアップの調査・探索のほか、面談を通じた連携検討の支援、勉強会を含む社内啓発イベントなどを開催しています。

私は、課題やニーズの収集、社外のコンサルタントと連携したスタートアップの探索や選定、有望な候補企業とのPoC実施支援を主に担当しています。

3つめが、『Digital Innovation Pitch(以下、DIP)』です。ヘルスケア×デジタル領域における最先端の技術・トレンドにアンテナを張り、さらにはスタートアップとの協業機会創出をめざした取り組みです。

DILやCDALがすでに顕在化している課題の解決に焦点を当てているのに対して、DIPが扱うのは潜在的、またはうまく顕在化できていない課題やニーズです。最先端の技術やソリューションを持つスタートアップのピッチプレゼンテーションから得たヒントや気づきを通じて、新たな協業の機会や社内でのデジタル活用への道を探るなど、さまざまな活動をしています。

私はイベントテーマの検討や登壇スタートアップの探索、スタートアップとの連携などを担当しています」

大学院でがんの転移を促進する機序の研究に取り組んだ柳津。当時培った経験や知識が現在の業務で役立つ場面が多いと話す。

「第一線で活躍できるほどの専門性はありませんが、研究開発職のメンバーが煩わしいと感じる点など、研究業務を経験したことのある者として感覚を共有できる部分があり、コミュニケーションを取る上で役に立っていると感じます。

また、他社と共同研究を進める際には、知的財産や権利の問題がきわめて重要です。どんな実験や分析が行われたか、どんなインプットがありアウトプットが得られたかを整理するときなどにも、学生時代に身につけた知識が今の業務に活かされています(柳津)」。

 

一方で、製薬業界ならではの学びが必要な場面もあると言います。

 

「生命関連企業として、的確で正しい情報発信が必要ですし、また取り扱う情報自体の機密性がとても高いです。他社との協業を進める際には、情報管理に対してとくに慎重な配慮が求められます。

入社当時は製薬業界の仕組みやルールを理解するのにとても苦労しましたが、社内の方々が丁寧にフォローしてくれたり、部門をまたいで情報共有をしてくれたり、とても助けられていました。部門横断的にコミュニケーションをすることが当たり前で、連携がしやすいことや、一人ひとりの専門性の高さにとても驚かされました(柳津)」。

オープンイノベーションに必要なのはマインドセット。社内のポジティブな反応が原動力

入社1年目から社内外の橋渡し役を担ってきた柳津。オープンイノベーションの実現に向けて、一貫して心がけてきたことがある。

 

「中外製薬ではこれまでも各事業部門が社外とのパートナリングに取り組んできましたが、社内には協業に対して心理的なハードルを感じている方がまだ多いようです。気軽で活発な情報交換ができるように、さらにマインドセットを変え、オープンイノベーションの基盤を整えていくことが重要だと考えています。

協業機会を創出し、新しいソリューションや創薬の仕組みづくりにつなげていくことをめざして、より柔軟にコミュニケーションが取れるような組織風土の醸成に努めています。

また、パートナー企業に中外製薬と協業するメリットをしっかりと伝えていくためにも、他社との連携をリードする立場として、双方にとって有益となるようパートナー企業と誠実に向き合うことを大切にしています。

中外製薬は抗体、低分子、そして中分子医薬品といった多様なモダリティ(治療手段の分類)による独自の創薬技術力を強みとしています。パートナー企業の担当者と話していると、当社の創薬技術への期待の大きさを感じます。

一方、当社ではそうした高い技術力を支えるインフラ設備への投資も重視してきました。AIやロボティクスを活用したデジタル基盤整備が進んでいることは、スタートアップをはじめとする社外とのパートナリングを推進していく上で、大きなアドバンテージになると思っています。

中外製薬は誰も成し得ないところを開拓するフロンティア精神を価値観におき、常に新しいサイエンスや技術に挑戦しています。イノベーションへのこだわりが根付いていて、まさに『創造で、想像を超える。』のスローガンを体現しているなと、肌で感じています。オープンイノベーションにこそ、このマインドセットが必要不可欠だと思います(柳津)」。

 

そんな柳津にとって原動力となってきたのは、社内からのポジティブな反応。小さなことを大きなモチベーションに変えてきた。

 

「中外製薬には丁寧な人が多く、私が仲介して何かアクションすると、必ず感謝の言葉をかけてくれます。そうした細やかな対応が、一つひとつ私のやりがいにつながっています(柳津)」。

実現したいヘルスケアの未来は「垣根のない医療」

入社して間もなく2年目。この1年で視野が大きく広がったと柳津は話す。

 

「近年、新興バイオベンチャーによる新薬のシーズの発見が増えていると話題になっていたことから、入社当初は製薬バリューチェーンの中でも研究開発の領域に注目しがちでした。

しかし、社内にもまだ多くの取り組みや課題があることを認識した今では、DXによる各部門の業務効率化で貢献できるインパクトもとても大きいと考えています。創薬プロセスの変革のみならず、引き続き全社のデジタル化にも注力していきたいです(柳津)」。

 

デジタル領域のオープンイノベーションの実現に向け、DIPを拡張することが目下の目標だ。そしてその先に、実現したいと願う社会像があると言う。

 

「これまでのピッチイベントは国内のスタートアップのみを対象としていましたが、2024年は海外企業も招待する予定です。刺激的な技術に対するアンテナの感度をますます高め、創薬を通じて患者さんに新たな価値を提供することが私たちデジタル戦略推進部のミッション。皆さんの中に眠る潜在的なニーズを掘り起こし、ビジネスを変革する取り組みにつなげていけたらと思っています。

最終的にめざすのは、デジタルの活用によって実現される垣根のない医療です。研究者や医療関係者、患者さんなどあらゆる立場の人たちが、 国や業種を超えて医療に関する情報を共有し、コミュニケーションを取れるような社会が実現されることを願っています。

中外製薬が描く未来のひとつに、『ヘルスケア×Web3.0』のビジョンがあります。そこでは、国や組織の壁を超えて患者さんのヘルスケアデータが専門家間で安全に共有され、最適な予防や治療、さらには個別化医療が実現する未来が構想されています。

最先端のテクノロジーを積極的に取り入れて、ヘルスケアの未来を変えていこうというマインドとビジョンが中外製薬にはあります。中外製薬の一員として、そんな世界の実現に寄与できたらうれしいです(柳津)」。