創薬基盤&技術
中外製薬は、国産初の抗体医薬品の創製に成功し、革新的な独自の抗体エンジニアリング技術による確固たる創薬基盤を確立しました。代表的な技術として、リサイクリング抗体®創製技術(SMART-Ig®)やバイスペシフィック抗体生産技術(ART-Ig®)があります。また、これまで安全性の課題により狙うことが難しかったターゲットに対応するスイッチ抗体™技術(Switch-Ig™)など次世代抗体エンジニアリング技術も誕生しています。
より高いアンメット・メディカルニーズ*1に応えるために、疾患バイオロジーの研究と標的分子の探索が進むことで、薬剤に求められる作用機序やモダリティ(治療手段)も多種多様になることから、その解決手段となる創薬を行うためのモダリティプラットフォーム(創薬基盤)の拡充が必要になります。すでに世界トップクラスにある抗体エンジニアリング技術やこれまでアクセスできなかった細胞内ターゲットへの到達、高い結合力、そして経口投与可能といった特徴を持つ中分子創製技術の進化はもとより、外部の技術を柔軟に取り込むことでマルチモダリティ戦略を展開していきます。
- *1 いまだに有効な治療方法が無く、十分に満たされていない医療ニーズのこと
中外製薬の強みは抗体エンジニアリング技術
抗体医薬品は、がんや難病などの有効な治療法がない病気への貢献が期待される
抗体は、特定の異物にある目印(抗原)に特異的に結合して、その異物を体内から除去する分子です。抗体をがんの治療に応用する場合、抗体は、がん細胞の表面にある目印(抗原)をピンポイントで狙い撃ちできますが、目印(抗原)のない正常な細胞には結合しません。したがって、高い治療効果と副作用の軽減が期待されます。
中外製薬は、日本におけるバイオ医薬品開発の草分け的存在
中外製薬は、1980年代から取り組んできたバイオの研究開発の経験が実を結び、国産初の抗体医薬品を創製するなど、国内においてバイオのリーディングカンパニーとして歩んできました。この経験を生かし、世界からも注目される独自の革新的な抗体エンジニアリング技術の確立に相次いで成功。これらの技術をベースに血友病A治療薬として初のバイスペシフィック抗体医薬品を2017年に世界で初めて発売しました。
代表的な独自の抗体エンジニアリング技術
1. SMART-Ig®(「リサイクリング抗体®」「スイーピング抗体®」創製技術)
従来の技術で創製された通常の抗体は、標的抗原に対する親和性が高くても、
- ①抗原に一度しか結合することができない
- ②抗原に結合するだけで抗原を血液中から除去することはできない
という2つの限界がありました。
中外製薬が開発した「SMART-Ig®」は、この2つの限界を克服しました。従来では狙うことのできなかった標的抗原をターゲットとすることや、投与間隔を大幅に延長するなど、通常の抗体では達成できなかったことを実現可能にする、全く新しい技術です。
2. ART-Ig®(バイスペシフィック抗体生産技術)
2種類の異なる抗原と結合できる「バイスペシフィック抗体」の工業生産を可能にする技術です。2種類の抗原との同時結合による薬効の増強や、2種類の抗原をつなぐことによる薬効の発現といった多様な効果が期待されています。
3. Switch-Ig™(スイッチ抗体™技術)
「スイッチ抗体™️」 は腫瘍細胞に特異的に存在する低分子代謝物(スイッチ分子)の高濃度存在下でのみ、抗原に結合するようにデザインされた抗体です。
従来の抗体は、疾患部位だけでなく正常組織でも標的抗原に結合して副作用が生じるといった問題がありましたが、スイッチ抗体™技術はこうした課題を解決し、抗体の疾患部位への特異性を高めることが期待される技術です。
中分子技術
抗体医薬品や低分子医薬品に加え、中外製薬が新たな技術確立に注力している創薬モダリティ(治療手段の分類)が中分子医薬品です。従来の低分子医薬品などの技術ではアプローチが困難であった標的に対する経口投与可能な医薬品を目指しています。これまでは細胞内に到達し得る代謝安定な中分子化合物の創製は多くの技術課題のため薬剤とするのは困難とされていました。こうした中、中外製薬は10年以上前から経営資源を投下し、薬剤になりやすい構造を持つ多様で膨大な中分子化合物群(環状ペプチド)を創製するなど競争優位性を有する独自の中分子技術を確立してきました。2021年10月に当社初となる中分子プロジェクトが臨床試験入りしました。既存モダリティでは解決できないアンメット・メディカルニーズへのソリューションとして、この大きな可能性を持つ中分子医薬品の一日も早い患者さんへの提供を目指していきます。
AIを活用した創薬プロセスの革新
創薬分野ではAIを活用したさまざまなプロセス変革が進捗しています。例えば、抗体医薬品の創製において、AIの一つである機械学習技術を用いて抗体医薬品を選抜する「MALEXA®(Machine Learning x Antibody)」という取り組みを進めています。選抜過程の大量の抗体アミノ酸配列のパターンを学習することで、短期間での配列提案が可能となっており、すでに複数のプロジェクトで強い結合活性を持つ抗体の取得に成功しています。また、抗体最適化においても、機械学習による配列生成と予測モデルを構築することで、結合活性、pH依存性、物性など医薬品としての最適な特性を持つ抗体配列群を提案できることが確認されています。