ART-Ig® (バイスペシフィック抗体生産技術)

抗体が持っている2つの抗原結合部位が同一の抗原にしか結合しない「通常抗体」に対し、「バイスペシフィック抗体」は2種類の重鎖と2種類の軽鎖から成り、左右の抗原結合部位が異なる抗原と結合できる抗体です。「バイスペシフィック抗体」は生産上の課題が多く、IgGの分子形としての遺伝子組換え型薬剤は創製されていませんでしたが、中外製薬は独自の抗体工学技術を駆使し工業生産化を可能とした結果、血友病Aに対する治療薬として期待できる「バイスペシフィック抗体」の創製を実現しました。

「通常抗体」と「バイスペシフィック抗体」の違い
「通常抗体」と「バイスペシフィック抗体」の違い

この創製の背景には、エリスロポエチン製剤やG-CSF製剤の研究で始まった血液領域での長年の経験・知見を活用し、血友病における高いアンメットメディカルニーズに対応すべきであるという使命感がありました。血友病Aは、血液凝固因子第VIII因子の先天的欠損または機能異常に起因する出血性疾患で、第VIII因子製剤による補充療法が中心となっていますが、頻回(週3回)の静脈内投与が必要であることや、第VIII因子活性を中和する自己抗体が出現することなどが既存治療における課題となっています。こうした中で中外製薬が着手したのが、第IX因子と第X因子に同時に結合することで、第VIII因子と同様の機能を発揮するemicizumab(国内臨床第I/II相試験実施中)の創製です。「バイスペシフィック抗体」の量産化にあたっては、目的の抗体を高い純度で精製することが非常に困難でしたが、中外製薬はこうした課題を「ART-Ig®」と名づけた独自の技術によって克服しました。これは、(1)2種類の軽鎖を共通化することで重鎖、軽鎖の組み合わせの数を低減させる技術、(2)2種類の重鎖に電荷的差異を導入して目的の体子分子の精製を効率化する技術、(3)2種類の重鎖の電荷的相互作用を利用して目的の「バイスペシフィック抗体」を優先的に産生させる技術、という3つの技術が組み込まれています。これらの技術の適用により、実績として2,500ℓ規模の製造プロセスで「通常抗体」と同レベルの産出量と純度を実現しています。
「ART-Ig®」の確立によりIgG型の「バイスペシフィック抗体」が現実的な治療薬創製の手段として利用可能となったため、今後は2種類の抗原の同時結合による薬効増強や、2種類の抗原の架橋による薬効発現といった、新たな機能を発揮する医薬品の創製が期待されています。

血友病A血漿におけるemicizumabの凝固促進活性の評価
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