協働先の取り組みと活動に向けた想い

Vol.3「ブレイキンで広がる可能性:障がい児と家族のための特別なダンス空間」 一般社団法人日本アダプテッドブレイキン協会代表理事 高橋さんの想い

中外製薬は社会貢献活動を通じて誰もがいきいきと活躍できる共生社会の実現を目指しています。「ダンスで人を幸せにできる」という信念のもと、障がい者の身体特性を活かし「誰にも真似できない個性」を養う活動を行う一般社団法人日本アダプテッドブレイキン協会(JABA)代表理事高橋さんの想いをご紹介します。

一般社団法人日本アダプテッドブレイキン協会(JABA)の活動現場
写真:高橋俊二さん

高橋俊二さんのプロフィール

高橋俊二(ダンサー名:SHUNJI)
世界17ヵ国を周りダンスの可能性を引き出す為の活動を多岐に渡って行ってきたプロダンサー兼ダンスプロデューサー。ブレイクダンスチームMORTAL COMBATに所属しながらソロでも世界トップレベルのスレッドスタイルを武器に活躍。世界大会を含むダンスコンテストで100回以上の優勝経験を持ち、世界5ヵ国17都市80回以上の舞台公演へ出演している。2019年に日本アダプテッドブレイキン協会を設立。理事長として「障がい者×ダンス」を結びつける活動を続けている。

扉を開いた先には、たくさんの笑顔と音楽に合わせて弾む体があった———。

ダンス教室の様子

大阪府堺市の複合施設で、あるダンス教室が開かれていた。ダンスと障がい者を繋げる事を目的とした『日本アダプテッドブレイキン協会(JABA)』が主催している、身体・知的・精神・視覚・聴覚などに障がいを持つ子どもたちを対象としたダンス教室だ。制約がなく、ダンサーのオリジナリティーが重視されるブレイキン(ブレイクダンス)を教えている。

講師は複数人おり、講師ごとのグループに分かれて子どもたちはレッスンを受けていた。それぞれのグループで違うダンスを教えており、子どもたちは好きなレッスンを選ぶことができる。
床に手や足をつける、ダイナミックなダンス。上半身のみを優美に動かし表現するフィンガーダンス———。

そして驚きなのが、子どもたちの保護者のグループもあることだ。流行りのJ-POPに合わせ、我が子に負けないぐらいの弾けた笑顔で踊り続けている。
子どもたち、その保護者、そして教えている講師たちが心の底からこの空間を楽しんでいる様子が伝わった。

フィンガーダンスの様子

JABAの理事長であり、このダンス教室の講師でもある高橋俊二氏に話をうかがった。

———高橋さんご自身のことや、JABA創立の経緯について教えてください。
JABA創立の経緯は、もともと私がYOZIGENZ(ヨジゲンズ)というレアダンサー(マイナージャンルのダンサーや、特殊技能を持つダンサー)を発掘する団体の代表として活動していたことがきっかけです。それで個性的で面白い、障がいの有るダンサーたちと出会いました。するとあるとき福祉関係の方から「障がいがある子どもたち向けのダンス教室をしてくれないか」と相談を受けました。これは面白そうだなと思い、「ダンスで人を幸せにできる」を理念にJABAを立ち上げてダンス教室を開催しています。

———『障がい者向けのダンス教室』はどういう点から必要とされているのでしょうか。

一般のダンス教室では障がいを持つ子どもを受け入れてもらえないことがままあるからです。そのせいで踊りたい気持ちが潰されるのはとても残念だと思います。ですので、この教室が必要とされているのです。

しかしこのままで良いとは思えないので、ダンス講師向けの障がい者指導検定、ダンススタジオ向けのユニバーサル検定を作ろうと動いています。
障がい者クラスがあるダンス教室が増えると選択肢が広がりますし、ダンススタジオのユニバーサルデザインレベルがネット上で確認できれば便利ですよね。
ダンス教室やダンススタジオが、障がいを持つダンサーを幅広く受け入れる未来がきて欲しいです。

———レッスン中のお子さん、親御さん、本当に楽しそうでしたね。教室に通いはじめるようになって、親子が変わっていくなと感じるときはありますか?

最初はレッスン中の子どもをただ見守っていた親が、だんだんと子どもは講師に任せ、笑顔で自分もダンスを楽しむようになるのを見たときは非常にやりがいを感じます。障がい者の親は、子どもから目を離せないときが多いです。やはりそれは親も子もお互いに疲れます。ダンスを踊っているときだけでも、親子が個として自立するのはとてもいいことだと思います。

———素晴らしいですね。ある親御さんが「子どもがダンスを習い始めてから、日常生活で時間を守れるようになった」と仰っていました。高橋さんはどんな子どもの変化を感じますか?

変化というより成長なのですが、この教室でダンスを習った子どもが、一般的なダンス教室でレッスンを受けられる状態になることですね。多くいます。
そのままこの教室を卒業する子もいます。また、技術的なことは一般のダンス教室で習い、この教室にはコミュニティとして楽しむために通う…というダブルスクールをする子もいますね。私としては、自由に子どもたちがこの教室の存在を利用してくれればと考えています。

ステージ上でダンスをする様子

———団体や高橋さん自身の今後の展望について教えてください。
基本的にはないです。今までもそうなのですが、周囲に求められて動き続けているので。JABAの立ち上げについてもそうです。『障がい者向けダンス教室』という要望を叶えるために、体制づくりとしてJABAを創設しました。

これは私の個人的な信条なのですが、「去年思ってもみなかったことをやっていたら、成功」と考えています。ですので、今の私が思いついてもいないことを、来年の私がしていたら成功ですね。それって、とても飛躍しているということなので。

———社会に伝えたいことはありますか?
他者に選択肢を与えられる立場の人は、選択肢を与え続けて欲しいです。そして選択肢を与えられる一般的な立場の人は、思いこみで選択肢を勝手に少なくしないで欲しいです。
先ほどお話ししましたよね。障がいを持つ子どもが、ダンス教室で受け入れてもらえない事例。それで「自分はダンスを習えないんだ」と決めつけてしまうと、その子が今後の人生でダンスする可能性は極端に減ります。非常にもったいないです。この教室なんかがそうですが、可能性を狭めずに探し続ければ、自分を受け入れてくれる場所は見つかったりします。これはダンスに限らず、人生で起こることすべてに通じます。

子供はもっと自分に可能性を気づいて欲しいですし、親はもっと子供に可能性があると気づいて欲しいです。そんな風に全員が一つずつだけでも気づくだけで、社会はもっと良くなると思います。
「自分はできない」と思い込まずにもっとチャレンジして欲しいです。
そしてチャレンジしやすい社会になって欲しいです。

ダンス教室の子どもたちの様子