協働先の取り組みと活動に向けた想い

Vol.2 センターポールが描く子どもたちの未来

中外製薬は社会貢献活動を通じて誰もがいきいきと活躍できる共生社会の実現を目指しています。
「誰もが平等に、のびのびと参加できる環境を作りたい」と語る一般社団法人センターポール田中代表理事の想いをご紹介します。

車いすバスケでシュートをしている様子
写真:田中時宗さん

田中時宗さんプロフィール

1987年生まれ、北海道札幌市出身。一般社団法人センターポールの代表理事として、パラスポーツや障害福祉の分野で、スポーツを基盤とした運動機会やダイバーシティ・インクルージョン教育を行う。また、2022年には同法人の理事であり、義足のアスリート・堀江航とブラジリアン柔術「CARPEDIEM世田谷」をオープンし、地域に根ざした柔術スクールの運営を行っている。

2020年、アスリートやスポーツによる社会貢献活動を表彰する「HEROsAWARD 2020」を受賞。

都内のある体育館。空調の効いた乾いた空気が漂う中、館内は静寂に包まれていた。時が止まったかのような静けさの中に、軽やかな音楽が響き渡る。すると、空気が一気に動き出し、車いすに乗った子どもたちが笑顔を浮かべながら勢いよく駆け出した。まるでフィギュアスケーターのように、滑らかに床の上を舞う姿は躍動感に溢れている。

「さあ、始めよう!」という元気な声が体育館に響き渡ると、子どもたちは一斉に声の主に集まり、半円を作る。その中心に立っていたのは、センターポール代表の田中時宗さん。田中さんは、障がいの有無に関わらず、誰もが輝ける社会を目指し、パラスポーツを通じて学校訪問やイベント企画を行っている。今回の「CPアダプティブスポーツクラス」もその一環で、すべての人が一緒に車いすスポーツを楽しみながら、障がいへの理解を深め、インクルーシブな社会を実現することを目標としている。

車いすスポーツクラスが求められる理由

センターポールが車いすスポーツクラスを始めたのは2020年、オリンピックイヤーのこと。それまでは、パラスポーツの授業や企業研修などで活動していたが、「継続して運動できる場が欲しい」という声が多く寄せられ、このクラスが誕生した。今では、障がいの有無、年齢や性別を問わず、誰もが参加できる競技体験会が定期的に開かれている。

参加する子どもたちも多様だ。下肢機能障がいや発達障がい、知的障がいを持つ子どもたちが健常者と一緒に汗を流し、目を輝かせている。将来、車いすバスケの選手になりたいという小学4年生の廣野正和くんは、「ぶつかって相手を邪魔する瞬間が楽しい!」と笑顔で話す。

ゴール下でボールを取ろうとしている様子

パラスポーツ教室がもたらす価値

田中さんがこの活動で大切にしているのは、誰もが平等に、のびのびと参加できる環境を作ることだ。

「私たち運営スタッフは、気さくな兄や姉のような存在でいたいと思っています。障がいのある子は、できないことに引け目を感じたり、遠慮してしまいがちです。だからこそ、ここではフラットな環境を大切にしています。自分でできることはやってもらうし、優しさよりも平等さを心がけています。そうすることで、子どもたちは自信を持ち、物怖じせずに成長していきます。」

センターポールが提供しているのは、単なる運動機会だけではない。プログラムが生み出す3つの価値があるのだ。

  1. 多くの種目を経験することで、適応力が身につき、将来の選択肢が広がること
  2. フラットな環境で自己主張や自己表現が促され、社会的なスキルが育まれること
  3. 大人や健常者との交流を通じて、「自分にもできる」という自信が生まれ、物怖じしなくなること

長年このクラスに参加している賀川統馬くんは、小学4年生の時から車いすラグビーに取り組んできた。最初は不慣れだったが、次第に自信を持って車いすを操れるようになり、今では水泳やチェアスキーにも興味を持つようになった。

センターポールが描く未来

田中さんは活動に手応えを感じながらも、次のステップへ進んでいった子どもたちの話になると、少し寂しそうな表情を見せる。しかしすぐに目を輝かせ、こう語った。

「今後は、視覚障がいのある子どもたちにもアプローチしていきたいと思っています。」

センターポールの活動が、すべての子どもに直接届くわけではない。しかし、その取り組みを通じて、多くの子どもたちが新たな選択肢を見つけ、社会的に成長し、次のステップへ進んでいる。車いすスポーツを通じて、自己表現力を高め、社会とのつながりを強く感じるようになった子どもたちも少なくない。

センターポールが目指す未来は、すべての人が自分らしく生きられる社会だ。この活動がさらに広がり、多くの人々が共に支え合う共生社会の実現へと向かって進んでいくことを、心から期待したい。