特集:中外製薬のダイバーシティは、いま

中外製薬は、トップ製薬企業を目指していくうえでの重要な施策としてダイバーシティを位置づけ、2010年から本格的な取り組みを開始しています。それから5年が経過し、どのような成果を得て、どのような課題が見えてきたのか。最新の事例紹介を交えながら、中外製薬のダイバーシティの現状をご紹介します。

「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進し多種多様な人財の活躍の場を広げていきます

中外製薬では、2010年にジェンダー・ダイバーシティの推進について、社長をオーナーとしたワーキングチームを結成し活動を始め、2012年1月からは「ダイバーシティマネジメントの推進」を経営の重要課題の一つに位置づけ取り組んできました。同年、人事部にダイバーシティ推進室を設置し、ジェンダーのほか、ナショナリティ、シニア、社外エキスパートなど、さまざまな視点でのダイバーシティ推進に取り組んでいます。
国内外の環境が大きく変化する中、さまざまな考え方、多様なバックグラウンドを持つ社員が融合していくことで、新しい取り組みへのチャレンジを促し、イノベーションを生み出していくことができる柔軟かつ強靱な組織づくりが喫緊の課題です。中外製薬では、多種多様な社員が一緒に働くという状況をつくりあげることだけでなく、お互いに刺激しあいながら、組織として出すアウトプットの価値を高めていく「ダイバーシティ&インクルージョン」に力を入れて取り組んでいます。

事例1:私という存在を、中外製薬のダイバーシティ推進のチャンスにしたいと思っています

ドイツから日本へ、大きなチャレンジ

私はドイツのグローバルなCRO(医薬品開発業務受託機関)で、毒性試験責任者として勤務していました。さまざまな企業のプロジェクトに従事し、それは楽しく興味深いものでしたが、自分の仕事が開発の流れの中でどのように貢献しているのかを把握することはできませんでした。
そうした事情もあって転職を考えたのですが、もともと私は異文化全般に関心を持っており、国外で生活してみたいと何年も前から考えていました。特に日本の文化と歴史に非常に興味があり、中外製薬に入社する前から何回か出張で日本を訪れ、日本という国、日本の人々にいたく感銘を受けました。
中外製薬を選んだのには3つの理由があります。1つ目は以前勤めていた会社で中外製薬の2つの研究にかかわり、中外製薬の研究の進め方に共感したことです。2つ目はバイオ医薬品と抗がん剤に特化するという中外製薬のポートフォリオに関心を持っていたこと、そして3つ目はフレンドリーで生産的な雰囲気のある公平な職場環境を求めていたということです。幹部の方々と面接し、私は「中外製薬には私の求めているものがある」と直感しました。こうして私は2014年4月に中外製薬に入社することになったのです。

安全性研究部
フリングス・ヴェアナ

周囲の理解と協力で英語を使う環境が整備されていった

私は日本語があまり話せないため、入社前は日本のプロジェクトのディスカッションには参加できないだろうと思っていました。実際に入社してみると、同僚の何人かはとても英語が上手で積極的に英語で話そうとしてくれましたが、他の人たちはあまり話せないことに気づきました。みんな一生懸命に仕事をしているので、英語を使うことに時間や労力を費やせないのでしょう。英語情報が少ないという状況から、やはりここで自分の仕事を完璧にはこなすことは難しいと感じました。
それでも私は諦めたくはありませんでした。幸い、同僚はとても寛容で、関連情報を英語に翻訳してくれたり、私が参加するミーティングでは英語を標準言語とするなど、できる限りの手助けをしてくれています。私の所属する安全性研究部以外の部署でも、資料は最低限すべて英語にしなければならないとの通知が出され、最近では他部署も参加する月例会議も英語を標準言語とし、英語では議論が難しい場合のみ日本語の使用が許可されることが決まりました。
当初は、この状況をとても居心地が悪いと感じていました。私がいるだけで同僚に面倒を掛けていると考えていたのです。ところがある時、これは会社の未来のために重要な変化なのだということに気づき、私の気持ちも変わってきました。それは、「より多くの人が国際的な連携や議論の場に参加できるようになれば企業価値は向上する」「さらに国際的な環境になれば、日本語は話せないが非常に優秀な人財が、より多く中外製薬への入社を希望するかもしれない」ということです。
そのため、自分の存在が同僚の障害どころか、会社にとってのチャンスのようなものだと思えるようになってきました。今では、より多くの仲間が英語をもっと頻繁に使う努力をしようとしているのを感じています。道のりはまだ長いかもしれませんが、私たちは正しい方向へ歩んでいると思います。

中外製薬はダイバーシティ推進のステップを着実に進んでいる

私は、ダイバーシティは3つのステップで発生していくと考えています。最初のステップは、「違い」のプラスの価値とマイナスの価値を云々することではなく、人間はみな違うものだと認識することです。「違い」を認識するということは、私のように明らかに日本人と違う人々を会社が採用することによって推し進められていくものです。中外製薬にはこれまでそれほど多くの外国人はいませんでした。しかし、さまざまな実務経験のある外国人の雇用を推進し、中外製薬には変化が始まっていると思います。
次のステップとして、各々の強みと弱みを明らかにすることで「違い」を活かしていくことがあります。そして、強みを推し進め、ゆくゆくは各人に適した職場とキャリア機会を見つけてあげなければなりません。この点、中外製薬はすでに、従業員がそのような努力をしていくための課業目標を示すステートメントを発し、従業員を後押ししていると思います。
最後のステップは、他の人々との「違い」から学ぶことです。一人の人にとってよいことが、必ずしも他の人にとってもよいこととは限らないということ、しかし、そのチャンスに気づくことが大切です。この点でも中外製薬はすでによい状態にあると感じています。ほとんどの従業員が自分と違う意見や違う考え方を積極的に受け入れようとし、他の人から積極的に学ぼうとしているからです。
中外製薬がダイバーシティをさらに推進していくために重視しなければならない方法の一つは、たとえそれが不便なことであったとしても、英語を使う機会を増やすことだと思います。それは、外国人従業員とのつながりを強めるだけでなく、関係会社であるロシュやジェネンテックの従業員を理解するうえでも役立ちます。私たちは彼らからいろいろなことを学べると思いますし、彼らもまた中外製薬の従業員から学ぶことがあるはずです。それは、中外製薬の従業員が英語をさらに理解することで、より簡単になると思います。

これまでにない新たな視点、データの解釈を職場にもたらしてくれています

安全性研究部長 千葉修一

フリングスさんは海外の大手CROで活躍してきた人なので、受け入れにあたって業務スキルの面での心配はありませんでした。ただ、日本語はあまり得意ではなく、社内でのコミュニケーションを自由にとれるか、さまざまな手続きを自分で行えるかが課題でした。
そこで、部内の会議でフリングスさんが出席する場合は、すべて英語あるいは少なくとも資料か話す言葉のどちらかは英語にするようになりました。この点では当初負担のかかった部員もいましたが、今ではほとんどのメンバーが英語での発表や質疑応答を問題なく行えるようになりました。
一方で、他部署との会議では、日本語でのコミュニケーションのみの会議も多く、その際は日本人の同僚が同席して説明したりしていますが、専門外の話題になると細かいところまで理解できないのではないかと思います。この点では、さらに関係する方に協力を呼び掛けていかなければと考えています。
フリングスさんは特にバイオ医薬の毒性評価で豊富な経験を持っており、これまでにない新たな視点、データの解釈を職場にもたらしてくれています。また、海外の毒性専門家とのネットワークも広がり、独自技術で創製した新規抗体医薬品を開発するために参考となる情報に、これまで以上に多くアクセスできるようになりました。バックグラウンドが異なるメンバーが加わることでデータ評価のアプローチ自体にダイバーシティがもたらされ、よりよい評価・判断ができていると感じています。

事例2:社員の多文化理解を深めるためのフォーラムを開催しています

ダイバーシティ推進の新たな取り組みとして2015年にスタートしたのが、「多文化理解に関する意見交換会」である、「I.D.E.A.(Inclusion and Diversity by Embracing and Accepting)フォーラム」です。この試みは、中外製薬で働く外国人社員と日本人社員の相互理解を深め、コミュニケーションを円滑化し、お互いの経験や知識を共有することにより、働く環境をよりよいものにしていくことを目的としています。
2015年9月に1回目、11月に2回目を開催し、今後も四半期に1回程度の開催を予定しています。異文化で働いた経験のある社員が自らの体験に基づいた気付きに関するプレゼンテーションを行い、その後、参加者がいくつかのチームに分かれてグループ・ディスカッションを行います。
11月19日に開催された第2回I.D.E.A.フォーラムには、28名が参加しました。うち外国人社員は12名で、国籍は中国、韓国、ネパール、アメリカ、イギリス、オーストラリアと多岐にわたっています。
この日は外国人社員と日本人社員の2名から、日本語の敬語の美点と使い方の難しさやロシュのダイバーシティマネジメントの状況について紹介されました。

I.D.E.A.フォーラム

I.D.E.A.フォーラム企画担当者から

分かりやすい言葉で話すことの必要性を実感しています

CSR推進部 企業倫理推進グループ ロバート・マーク

私は中外BCG・人権研修の英語版の業務を担当しています。社員向けのテキストには、外国人に分かりにくい日本語、例えば「二人三脚」のような言葉がいくつもあり、補足や修正が必要だと感じていました。それには日本の文化と外国の文化の違いを理解する必要があると思い、「自分だけで考えるのではなく、外国人社員が集まって本音で語ってもらう場を設けられないか」と上司に相談し、このフォーラムが実現しました。9月の1回目は英語を使用言語とし、外国人社員11名、日本人社員22名が参加し、大変盛り上がりました。しかし、参加した日本人社員からは、「難しい英語の表現があり、分からないところもあった」との意見もありました。2回目は使用言語を日本語にして開催したのですが、「できるだけ分かりやすい言葉、表現で話すようにしてほしい」と事前にお願いしました。仕事上でも、日本人と外国人がコミュニケーションするときには、できるだけ相手が分かりやすいような言葉で話すことの必要性を強く感じました。
私はフォーラムの事務局と司会を担当していますが、毎回予想以上に盛り上がり、参加者も喜んでくれているようなので、とてもやりがいがあります。

参加者の一員としてディスカッションを楽しんでいます

人事部 グローバル推進グループ 稲村節子

CSR推進部から相談があったとき、ちょうど人事部でも外国人社員のネットワーキングの場づくりを考えていたので、すぐに協力してフォーラムを立ち上げることにしました。2015年5月にテストとしてパイロット版のフォーラムを実施してみたところ、外国人社員15名と日本人社員6名が参加してくれました。
始める前は「どんな意見が出るだろうか」「どんな雰囲気になるのだろうか」と、多少の不安はありましたが、実施してみたらそのような心配は吹き飛びました。参加者がとても喜んでくれ、フォーラム後のアンケートにもたくさんの前向きな意見を書いてくれたのでひと安心です。
人事部では、このフォーラムが「ダイバーシティ&インクルージョン」の推進に好影響をもたらすことを期待して、社員の自主的な活動を支援しています。運営は両部で協力して行っていますが、グループ・ディスカッションでは私も参加者の一員になり、いろいろな人と会話し、その中でさまざまな考え方や価値観を知ることもできて、とても楽しいです。今後はWebを活用したり、他の事業所で開催するなど、遠隔地にいる社員にもセッションに参加してもらえるアイデアを考えています。

事例3:ジェンダーのダイバーシティから、真のインクルージョンへ!「制度構築」「啓発活動」「環境整備」の3本柱で挑む

ロールモデルの存在が奏功し、ライフイベントと仕事の両立が浸透

中外製薬がダイバーシティの推進に本格的に取り組む以前は、結婚や出産というライフイベントなどを契機に多くの女性MR(医薬情報担当者)が退職していく状況が続いていました。
このような女性MRの早期離職は、会社にとっても本人の成長にとっても大きな損失であるため、「互いを認め合い、一人ひとりが生き生きと働ける組織は、個人と組織の成長・成功につながる」とのメッセージを掲げ、営業人財マネジメント部として女性MRが働き続けられる環境づくりに本格的な取り組みを開始しました。その柱は①制度構築、②啓発活動、③職場環境の整備の3つです。
まず、制度構築としては、育児とMR活動を両立しやすくするため、本社と支店スタッフに先行して導入していた短時間勤務である育児勤務制度をMRにも導入し、結婚により現勤務地では配偶者と同居できないMRを対象にした「MR結婚時同居サポートプラン」の導入などの制度改革を人事部の協力のもとに実現しました。
次に、啓発活動としては、女性MR自身の意識向上、ロールモデルの育成を目的とした、「女性MRフォーラム」「女性スタッフフォーラム」「支店分科会」「ハッピーキャリアカフェ」など、さまざまな形のイベントを開催しました。
これらの活動と並行し、上司や同僚の理解を促進し、組織を活性化するため、3つ目の柱の職場環境の整備にも力を入れました。特に、マネジャー層には「ダイバーシティマネジメント研修」などを通じて意識改革を行いました。
これら3本柱の活動を推進することで、女性MRの既婚率が大幅に上昇し、一方、女性MRの離職率は減少しています。
このように、結婚や出産、育児というライフイベントがあっても「働き続けられる」という女性MRの意識の高まりの裏には、制度活用をしながら、結婚、出産、育児と仕事を両立している人たちがロールモデルとして大きく貢献しています。「ライフイベントがあっても仕事を続けられる」「続けるのが当たり前」という意識が、女性MRだけでなく、一緒に働く上司や同僚の男性社員にも根づき始めた成果であると考えています。

多様な人財の活躍を「当たり前」の状況に

また、営業本部の大きな課題になるのが、55歳以上の社員がさらに活躍できる環境づくりです。中外製薬では55歳になったときに、60歳まで正社員として働くか、55歳でいったん会社を退職し65歳まで契約社員として働くかを選択してもらうようにしています。豊富な経験とスキルを持った多くのシニア社員が生き生きと働くことが、職場を活性化させる起爆剤となると考えています。
この活動の究極の目標は、ダイバーシティという言葉が特別なものではなくなることです。多様な人財がそれぞれの能力と個性を発揮しながら働いていることが「当たり前」という状況を生み出していくダイバーシティの推進は一朝一夕で成し得るものではない「長い旅路」です。その目標達成のためには、全社員にダイバーシティをさらに理解してもらうための「制度構築」、「啓発活動」、「職場環境の整備」といった活動が必要不可欠です。
営業本部では、シニア社員の活躍、男性の育児休職取得などの課題も、まずはロールモデルをつくり出すこと、そして彼ら彼女らのワークライフバランスを保って生き生きと仕事に臨む姿を周囲の人たちが見ることによって、多くの人たちが真の「ダイバーシティ&インクルージョン」を理解していくことになると考え、引き続きダイバーシティの推進に取り組んでいきます。

女性MRフォーラム

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