中外製薬の製薬技術の開発を担う部門を中心に、15年以上続く、独自の技術開発活動「Techno」。革新性の高い潜在的な技術課題を的確に見抜き、先手を打っていく自律的な活動だ。若手からベテランまで、部門やプロジェクトを超えてチャレンジできるこの活動の魅力と、そこにかける研究員たちの熱量に迫る。
※中外製薬公式talentbook(https://www.talent-book.jp/chugai-pharm)より転載。記載内容・所属は2025年10月時点のものです未来の医薬品に必要となる技術を、先んじて開発していく
製薬/生産技術本部では、「Techno」と呼ばれる独自の技術開発活動を展開している。その目的は、本部全体で将来課題に先手を打って取り組むことで、長期的に安定した生産ができるような製薬技術と生産技術を構築することにある。
真貝:Technoには薬の有効成分をつくる部署、薬そのものをつくる部署、そして品質を分析する部署など、本部内の多岐にわたる部署が参画しています。世界でもまだ深められていない最先端技術を、先取りして開発していく活動です。
髙城:単なる技術開発活動ではなく、独自の枠組みを持っているのもTechnoの特徴で、特筆すべきは「直近の開発パイプラインのプロジェクトに紐づかなくても良い」という点です。会社は基本的に、プロジェクトに紐づいた研究・開発でないと資金や人員を出せませんが、それだけに注力していると技術開発が後手に回ってしまいます。Technoでは、プロジェクトのスコープよりさらに将来を見据えた技術開発に挑戦することを、会社の課題として認められた上で深く取り組むことができます。
西丸:開発パイプラインに紐づいたプロジェクトは、製品化に向けた具体的なタイムラインとゴールが決まっています。そのため検討過程で「将来はこの技術がないと困るかもしれない」という課題を見つけても、それを深めて検討する時間やリソースが必ずしもあるとは限りません。Technoという枠組みがあることで、そうしたジレンマが解消され、5年後、10年後に備えた技術開発ができるのはとても重要なことだと思います。
Technoで取り扱うテーマは、メンバーが日頃参画するプロジェクトや文献調査・学会参加などの情報収集を通じた気づきをもとに立案し、社内で承認されれば技術開発活動がスタートする。3人は現在、それぞれ次のようなテーマに取り組んでいる。
髙城:私たちのチームは現在、「複雑な構造を持つ分子の分析を可能にする技術基盤の確立」というテーマで研究をしています。これまで、抗体医薬についての分析や承認申請の知見は貯まってきてプラットフォーム化できたのですが、今後は一般的な抗体構造以外の新しい構造の分子が出てくることが予想されます。
そうしたものを分析できる技術を新たな「武器」として蓄積できるように、社内ナレッジのない技術の確立や、世界的にも新しい分析法について機器の導入から取り組んでいるところです。
西丸:私が所属する製薬研究部では、低分子・抗体に続く「第三のモダリティ」として中分子医薬品の開発に注力しており、私が所属する製薬研究部はプロセス開発に深く関わっています。中分子は分子量が大きく結晶化しにくいという課題があります。
従来は有効成分である原薬を「結晶の粉」として製剤部門に供給することが多かったのですが、今後は結晶にならないものが多くなると予想されます。そのため、私はTechnoで「結晶にならないものをどうやって取り扱うか」という単離プロセス技術の開発に取り組んでいます。
真貝:私が取り組むテーマは、中分子化合物の経口吸収性を飛躍的に高めて、開発候補分子のポテンシャルを最大化する技術の開発です。中外製薬が作る中分子化合物には膜透過されやすい分子デザインが採用されていますが、低分子化合物と比べると経口吸収性の確保は容易ではありません。つまり、製剤の設計が中分子化合物の経口吸収性を左右してしまいます。
そこで、開発している新しい製剤技術を駆使して中分子化合物の経口吸収性をいかに高められるかという課題に挑戦しています。世界中が挑戦する難題に対してわれわれが有効な解決策を見いだせれば、ゆくゆくは多様な中分子医薬品を世界中に届けられるはずです。自分が開発推進した技術によって医薬品が生まれると考えるとやりがいを感じます。
日常業務の課題意識から、Technoの扉を開いた3人の研究者
Technoに取り組む3名の研究者たち。それぞれはどのような経緯で活動に参画したのだろうか。
髙城:私は入社後、主にバイオ医薬品の分析に携わってきました。その中で製品の承認申請をする際に「こういう分析データがあればいいのに」と感じることがあり、分析技術の重要性を痛感していました。また、身近にTechnoに取り組む先輩方がいて、技術やデータについて皆で議論している様子がとても楽しそうに見えました。
プロジェクトに紐付かなくても分析技術を先進化でき、部署の垣根を超えてコラボレーションできるTechnoの活動に魅力を感じていたところ、部としてTechnoに取り組んでいこうとテーマ提案するに至り、初期メンバーとして参画できることになりました。
西丸:私も、入社1年目から先輩方がTechnoのテーマについて話しているのを見ていました。開発パイプラインのプロジェクトよりも技術についてさらに奥深いところまでディスカッションしているように感じ、「社内にこんな活動があるんだ」と興味を持つようになり、現在のテーマから参画しています。
日々の仕事の中で「この技術がないことは将来ボトルネックになるだろう」「この技術があれば、もっと本質的な解決策を提案したり、質の高い研究成果を示したりできるのに」と感じることはよくあります。ですが、限られたリソースのため、技術力強化の取り組みは後回しになりがちで、中長期的な視点からは技術戦略の課題が積み残されるケースがありました。
そうした課題を拾ってくれるのがTechnoであり、これまでストックしてきたアイデアをテーマ提案につなげていきたいと思っています。
真貝:私は入社してから一貫して製剤研究に従事し、主に低分子化合物や中分子化合物を対象にした経口固形製剤の設計開発を担当してきました。入社1~2年目の時、製品の課題解決に取り組む中で、とある製剤技術にかなり苦しめられました。
この時ちょうど、研究本部 創薬基盤研究部への派遣の機会をいただき、中分子化合物の開発では製剤技術が重要視される実情を知りました。帰任後、中分子化合物の開発を成功させるためにも、この技術の課題解決は必要であると考えていた時に、当時の上司からTechno活動を勧められ、テーマを提案したのが参画のきっかけです。
当時若手だった私にとって、ベテランの方が多いTechnoはやや敷居が高かったです。ただ、提案したテーマが会社にとって重要かつ必要な技術であることは確かでした。テーマの提案、研究の推進、定期的な成果報告といった一連の活動を行うには高い熱量が必要でしたが、やる気と興味がある状態で携わり始められて良かったと振り返ります。
結果として、最初のテーマ以外でも背中を押していただき、今日までに計3つのテーマを推進してきました。そのうちの1つが現在取り組む新規技術で、会社として注力する中分子化合物を高品質に製剤開発するための革新的な技術となるよう励んでいます。
熱量を試される挑戦。困難と表裏一体にあるTechnoならではのやりがい
開発パイプラインのプロジェクトに関する業務と並行してTechnoの活動に取り組む西丸、髙城、真貝。そこではさまざまな課題や困難にも直面している。
髙城:一番の課題は時間の捻出です。Technoの活動も業務として認められているとは言え、プロジェクトが最優先のため、複数のプロジェクトが盛り上がっている時期はTechnoに時間を割けなくなることがあります。
真貝:私はモチベーションの維持が課題だと思っています。開発パイプラインのプロジェクト推進とは異なり、将来的な技術を開発する上ではいかに熱量を持って取り組めるかがとても重要です。1カ月後あるいは半年後に必要な技術ではなく3~10年後に必要な技術がほとんどで、比較的長いスパンで技術を開発するため、高い興味や関心、熱量がないと続けられません。そこが試される活動ではありますね。
西丸:私たちのテーマでは複数部署のメンバーが関わるため、それぞれの業務リズムを調整しながら、より充実したディスカッションの時間を確保するよう心がけています。
また、「この課題を解決したい」という目的地は見えているものの、必ずしも解決できるという保証はありません。そうした点がTechnoの難しさでもあり、研究者としてのおもしろさややりがいにもつながっています。
困難と表裏一体にあるTechno活動ならではの魅力──それに彼らは突き動かされ、技術開発に挑み続ける。
髙城:Technoでは、予算がしっかり確保された中で、メンバーがやりたい技術開発を進められるのが魅力です。また、アライアンスパートナーであるRocheが公開している先端技術の動向を参考にしながら、検討を進めるのも刺激的です。大学のラボのように、通常業務の枠を超えて分析技術に挑戦できることにやりがいを感じています。とくに中外製薬には自社のプロダクトが豊富にあるので、それを用いて技術を磨けるのも非常におもしろいと思います。
真貝:開発パイプラインのプロジェクト推進では「この製剤の品質をいかに高めるか」という内向的な視点を技術開発で大事にする一方、Techno活動では「世界にまだない技術」や「世界のレベルを超える方法」を考えられるような外向的すなわち広く高い視点を持てることが魅力だと思います。失敗を含めて、これまで世界にまったくなかったデータの創出ばかりで、「この分野を開拓している」という感覚が非常に楽しいです。
西丸:現在のTechnoテーマを深める過程で、また新しい技術や価値のアイデアが生まれてきています。さまざまな専門性を集め、巻き込み、未来の社会に貢献する革新的な技術を創出する。この広がりとスピード感がTechnoならではのおもしろさです。
フラットで「サイエンス」を重視する風土だからこそ、研究者として成長できる
Technoの活動を通じて見えてくるのは、中外製薬独自の研究環境の魅力だ。3名はそれぞれの視点から、この会社で研究者として成長できる理由を語る。
髙城:組織の風通しが良く、科学技術のディスカッションをフラットにできる環境が整っていることが最大の魅力です。Technoは、そのフラットなディスカッションを象徴する場でもあります。また、自社製品のラインナップが多いため、多種多様な分子を分析できる点も研究者として非常におもしろいと思います。
西丸:「サイエンスベースで話そう」「根拠を持った議論をしよう」という文化が根づき、肩書や年次に関係なく、科学的な根拠やアイデアを尊重しながら議論できる環境です。文献や実験結果、背景をきちんと話せば、年齢やキャリアに関係なくしっかり話を聞いてもらえます。
創薬研究部門だけでなく、私たちの製薬/生産技術本部もサイエンスを大事にしていて、将来技術を開発するTechnoと、パイプラインに紐づいたプロジェクトの両輪で回っているのが、会社の魅力だと思います。
真貝:Technoを含めた日頃の研究活動から会社が科学技術を重視する姿勢を感じます。将来技術の開発を社員が提案し、機会まで設けてくれるのは会社が科学技術に投資する価値があると考える証拠であり、プロジェクト開発のみならずTechno活動でも大きな支援を受けられるので「グローバルトップはどうしている」「もっと高みをめざせないか」という視点が生まれやすいです。恵まれた環境の中で仕事の一環として研究活動ができるのは本当にありがたいです。
研究者に対してリスペクトのある、フラットな環境で技術開発に打ち込む3人。最後に将来の展望を聞くと、3人とも熱のこもった答えが返ってきた。
真貝:私の取り組んだ成果が当社だけでなく、ライフサイエンスの分野をリードする技術となり、ひいては世界の医療と人々の貢献に貢献したいですね。
また、「中外と言えば抗体」というイメージがありますが、仲間や私の携わった中分子の研究が、業界内でのアピールや優秀な人財を惹きつける材料になればいいなと思います。
西丸:Technoは社内での技術開発活動ですが、ゆくゆくは学会やアカデミアの先生方からも注目されたり、その分野で中外が第一人者と言われたりするようになっていければいいなと思います。その結果、中外での技術開発を一緒に進めたいと思う人財がグローバルに増えるといいですね。
また、今取り組んでいるTechnoのテーマは実用化に近い研究なのもあり、私たちが磨き上げた技術が実際の薬づくりに活かされ、患者さんに届く日を思い描いて取り組んでいます。これからも、より良い薬をより速くつくるための「武器」や「選択肢」を増やし、患者さんに貢献したいです。
髙城:直近の目標は、新しい薬をできるだけ早く患者さんに届けられるように、承認申請までの手続きを加速することです。そのためには、分析工程がボトルネックにならないように、分析技術をさらに構築する必要があります。
また、世界的に見れば、中外製薬という会社を知らない人がまだまだ多いのが実情です。「中外と言えば○○の文献を見たよ」と言われるぐらい、知見を世の中に広められるような、プレゼンスを上げられるような研究に取り組み、発信したいと思っています。