DXを成長戦略のKeyDriverに位置づける中外製薬。中でも計算化学などのデジタル技術を駆使して低・中分子医薬品の創製に挑むのが先端計算化学グループだ。膨大な研究データと充実した研究基盤を強みに、創薬プロセスをデータサイエンスの力で加速させる同グループの取り組みから、同社で創薬研究に携わる魅力と可能性に迫る。
※中外製薬公式talentbook(https://www.talent-book.jp/chugai-pharm)より転載。記載内容・所属は2024年12月時点のものです
計算化学で加速する低・中分子創薬。データとDXが牽引する次世代の創薬
研究本部 創薬化学研究部 先端計算化学グループに所属する金澤。データサイエンティストおよびCADD(Computer Aided Drug Design) 研究者として、デジタル技術を駆使した低・中分子医薬品(※1)の創製に取り組んでいる。
※1
・低分子医薬品:化学合成により創製された医薬品
・中分子医薬品:低分子や抗体(高分子)の間に位置付けられる化合物で、特異性が高く、細胞内のターゲットにも結合できるといった特徴があり、次世代の医薬品として期待される
創薬化学研究部は、低・中分子医薬品の創製を主なミッションとする部署です。その中でも先端計算化学グループは、データサイエンスと計算化学を専門とするグループです。
研究本部には、データサイエンスや計算化学を担当する複数のグループがあり、それぞれが専門性を活かしたミッションを持っています。これらのグループは、各自の専門領域の強みを活かしつつ、連携することで研究開発の質の向上と効率化を追求しています。
先端計算化学グループは、薬のタネとなる化合物を発見する創薬化学研究部が作り出した低・中分子の候補化合物を、計算科学の手法を活かし設計したり、機械学習の技術開発など、幅広い計算業務を行っています。
たとえば、病気の原因となるタンパク質と最適に結合する化合物を設計する際には、分子シミュレーションを用いた精密な計算が有効です。計算化学を活用すれば、実験では直接観測することが難しい原子・分子レベルの現象の理解や医薬品分子の精密な設計に貢献することができます。
先端計算化学グループの業務は実に多彩だ。技術開発からデジタル技術を用いた創薬プロジェクトの推進まで、創薬のプロセス全体を支える重要な役割を担っている。
機械学習の領域では、低・中分子化合物の活性・物性などを予測するモデルの作成、新規化合物構造生成モデルの開発、さらには実験の自動化などに取り組んでいます。CADD領域では、分子シミュレーション技術や結合親和性予測などの高度な手法を開発しています。
さらに、技術開発にとどまらずに、開発した技術を創薬プロジェクトの推進に積極的に活用しています。
データサイエンスを実践する上で不可欠なのが、豊富な実験データにアクセスできる環境だ。中外製薬でデータサイエンスに取り組む魅力について、金澤はこう語る。
当社は、成長戦略『TOP I 2030』の実現に向けたKey Driverの一つとしてDXを位置づけ、全社的な取り組みとして推進しています。このビジョンや方針が現場レベルにまで浸透し、新しい技術の導入提案が受け入れられやすい土壌があり、先進的なプロジェクトに挑戦する機会が非常に豊富です。
また、ロシュグループで蓄積された膨大な低分子研究データを活用できるだけでなく、中外製薬独自の中分子研究データも年々増加しています。創薬プラットフォームから得られる多様で膨大なデータが、私たちの競争力の源泉です。
この恵まれた環境のおかげで、既存技術の応用にとどまらない高度な研究開発に挑戦でき、データサイエンスに携わる身として非常にやりがいを感じています。
機械学習による実験条件の最適化で成果。中外製薬だから実現できる創薬DXに向けて

大学院では有機合成の反応開発と計算化学の研究に取り組み、卒業後は民間企業でメディシナルケミストとして合成業務とAI創薬の業務に従事した金澤。その後、大学に戻りアカデミアでの基礎研究を経験したのちに、データサイエンティストとしてのキャリアを中外製薬でスタートさせた。
「1社目で6年ほど働いて創薬にかかわる合成業務をひと通り経験した感覚を持ち、より先進的なテーマに挑戦したくて大学へ戻りました。
アカデミアでは有機合成と計算化学の基礎研究に取り組み、いくつかの論文を発表することができました。一方で、データサイエンスを活用した研究を進めるための十分な時間を取ることができませんでした。
当時は、AlphaFold2(※2)の出現でAI分野への関心が急速に高まっていた時期。新しい専門性としてデータサイエンスを習得すれば、キャリアの幅が大きく広がると感じ、データサイエンス・計算化学に軸足を移すことを決めました」
※2:タンパク質を構成するアミノ酸配列からその立体構造の予測を行うDeepMind社が開発した人工知能プログラム
そんな金澤が新天地として選んだのが、中外製薬。決め手は、製薬業界でも際立ったDX推進の姿勢と自社の独自技術の創出を重視する方針にあった。
「DXユニットのトップが積極的にDX推進を発信している姿を見て、『ここには自分が求める環境がある』と確信しました。
また、当社では、創薬に適用可能な「技術」を先に開発しその技術を医薬品の研究開発に適用する技術ドリブンの創薬を重視しています。採用面接では予定時間を大幅に超え約1時間にわたって細かな技術的質問が飛び交うなど、研究や技術を重視する方向性が自分とマッチしていると感じて入社を決めました」
入社後、これまでの経験を活かしながら業務に携わる一方、新たな分野にも挑戦してきた金澤。技術ドリブンのアプローチとボトムアップの提案を推奨する働きやすい職場風土が、慣れない環境での成長を後押ししてきた。
「中外製薬は、新たな技術を開発し、それを医薬品の研究開発に応用することで革新的な新薬を連続的に生み出そうとしています。計算化学の分野でも、長期的な目標を掲げ、すぐに成果が出ない領域にも積極的に投資するなど、重要と判断した技術を長い目で育てる姿勢があります。
さらに、年次に関係なく主体的、積極的なボトムアップの提案が奨励されますし、受け入れられやすい組織風土があるのは非常に魅力的です。
また、当社では、年度初めに全社員が目標を立て、定期的に実施される1on1面談などで上司と進捗を確認する機会があります。現状を共有して困りごとを相談したり、次の取り組みへのアドバイスをもらったりしやすい環境があるおかげで、業務を円滑に進められています」
機械学習による実験条件の最適化で成果。中外製薬だから実現できる創薬DXに向けて

入社後、新たな知識や技術を積極的に身につけてきた金澤。2年目から取り組んだ「有機合成×計算化学」の領域で早くも大きな成果を残している。
「合成化学に機械学習を適用し、試薬や反応温度など有用な実験条件を提案するシステムを開発しました。
これまで専門家が担っていた領域の業務プロセスを大きく変える形で、これまで専門家が担っていた領域の業務プロセスを大きく変えるためにドライ(デジタルを利用したデータ解析など)のシステムを介入されると、どうしても抵抗が生じがちです。
そこで、生命科学実験をするウェット研究者たちが従来の研究フローにドライのシステムを自然に取り込めるよう、Webアプリケーションとして提供しました。これが受け入れられやすさにつながったと思います。
研究本部だけでなく製薬技術本部との協業でも成果を上げたことが評価され、2024年4月には、データサイエンスの観点からハイレベル、チャレンジングかつユニークな取り組みを行った個人に対して授与される『CHUGAI DIGITAL AWARD』の『Data Scientist of Best Performance Award』を受賞しました。膨大な研究データの蓄積と、正確な実験データの取得を可能にする合成・分析機器などの充実した設備が整っていたことも開発に成功した大きな要因です。
また、職場では優れたケミストが身近にいるため、フィードバックが直接得られます。中外製薬ならではの技術志向と、それを支える恵まれた環境、さらには新しい取り組みを理解して応援してくれる上司や同僚の協力があったからこそ、このような成果を生み出せたと感じています。
現在、この取り組みを発展させたプロジェクトとして提案した実験を自動化するシステムの開発をリーダーとして推進しています」
さらに同年、独自に開発した医薬品分子の設計を支援するアプリケーションを社外に提供するなど、組織の壁を超えて貢献してきた。
「社内リリース後、広く活用されている分子設計アプリケーションを、ロシュ社にも共有しました。こうして影響範囲が社外にも拡大していくのも中外製薬で働く魅力です。研究者として大きなモチベーションにつながっています」
一方、新たな領域での学びが、さらなる成長の原動力となっていると金澤は言う。
「創薬化学研究部は、自社の独自技術を活用した低・中分子の創薬が行われている部署です。化学創薬の研究現場での課題を身近に知ることができるので、データサイエンス技術を適用すべき課題が特定しやすい環境にあると思います。
さらに、先端計算化学グループには、MD(分子動力学)計算など各領域の専門家が集まっており、他分野の最先端技術を間近で学ぶことができます。物理化学的なメカニズムや原理を深く理解することにより、より踏み込んだデータサイエンスの研究ができると実感しています」

デジタルを活用した、中外製薬ならではの革新的な新薬を生み出すために──未来の仲間へ、金澤はこう呼びかける。
「新しい価値を生み出すには、高度なシステム開発の技術も重要です。機械学習チームに数多くのソフトウェアエンジニア出身の研究者が活躍する同じグループ企業のジェネンテック社のように、製薬企業だけでなくソフトウェア企業やAIベンチャー出身のエンジニアにもぜひ挑戦してもらいたいですね。
当社の充実した研修制度で化学や創薬の知識を習得できますし、働きやすい環境、周囲の理解など、転職者が適応しやすい条件が整っています。英語を使う場面もありますが、社内には語学研修や自己啓発プログラムが整備されているため、無理なく英語力を伸ばせるでしょう。
さらに、海外を含む学会に参加できる機会があり、他部署を兼務できる社内インターンシップ制度もあるなど、部門を超えた学びと成長の機会が豊富です。ぜひ、挑戦心ひとつ持って飛び込んできてください」
そして金澤自身にも、次なる目標に向けた明確なビジョンがある。
「まずは、現在取り組んでいる実験を自動化するシステムを開発することが直近の目標です。そして将来的には、データサイエンスの力で創薬プロジェクトをリードし、医薬品を世に送り出すことに貢献したいです。
また、データサイエンティストとして製薬業界のデジタル技術活用に貢献するだけでなく、先進的な技術開発に挑戦することをめざしています」
デジタル技術と創薬研究の融合が生み出す可能性は無限大だ。豊富なデータと高度な技術基盤を強みに、先端計算化学グループは医薬品開発の新時代を切り拓いていく。