製薬会社の営業職であるMRは、病医院や薬局で自社製品の有効性や安全性等の情報提供・収集を行う、医療用医薬品のスペシャリストだ。加えて中外製薬では、担当地域における医療課題の解決に向けた地域医療コンサルタントとしての活動も行っている。新卒で入社し、MRとして1から知識を磨いてきた木村が、「患者中心」の理念とともに、MRの仕事のやりがいを語る。

情報と医薬品を、それを必要とする人のもとへ。患者さん第一の視点で地域医療を支える
茨城・栃木支店に所属する木村。現在、MR(※)として大学附属病院を担当している。
「MRの役割は、自社の医薬品を必要とする患者さんに確実に届けることです。また、私は眼科領域の製品を統括するプロモーターを兼任し、各施設での面談や説明会、講演会の実施に加え、チームメンバーのマネジメントも行っています。
面談や説明会は、MRが医療関係者に製品や疾患、医療課題の解決に向けた情報を提供したり、意見交換を行ったりする場です。一方、講演会では、医療関係者がほかの医療関係者に専門的な知見や最新情報を発信するのを支援しています。
講演会の規模は全国規模のものから県単位のものまでさまざまです。とくに県単位の講演会については私が企画を担当することも多く、営業活動にとどまらず、地域医療コンサルタントとして担当地域に重要な情報を届ける役割も担っています(木村)」。
MRの業務は多岐にわたる。必要なのは、臨機応変に対応する柔軟さだ。
「午前中はメール処理や面談の準備をしています。昼から夕方にかけてアポイントが入り、夜に講演会を実施するのが基本的な1日の流れです。ただ私の場合、朝早い時間に面談の時間をいただくこともあれば、夜8時以降にアポイントが設定されることもあり、柔軟に対応しながら業務を進めています(木村)」。
MRには高度な医療知識が求められる。大きな責任感が伴うからこそ、やりがいも大きいと木村は言う。
「MRの最終的な目的は、医療関係者と同じ目線で患者さんのことを考え、疾患改善に貢献することです。そのためには、先生と対等に会話できなくてはなりません。疾患に関する知識を常にアップデートする必要があり、日々の勉強を欠かさないことが重要です。
それだけに、医薬品をお届けした患者さんが改善した話を先生から聞くと、大きな充実感があります。たとえば、先日も、視神経脊髄炎の患者さんのQOLが向上したという話を伺いました。
とくに希少疾病に関する面談では、特定の患者さんの症状をもとに先生と話をすることが少なくありません。自社医薬品に限らない医薬品の使用状況や、患者さんの治療経過・ライフスタイルが話題の中心となる為、より具体的に患者さんへの貢献を感じることができます。このような経験は、私にとって大きなやりがいとなっています(木村)」。
※ Medical Representatives(医薬情報担当者)の略称
<とある1日の流れ>
8:00 出社、メールチェック、アポイント送付
9:30 オンラインミーティング
11:00 大学病院でアポイント(現地)
12:30 ランチ
14:00 アポイント(オンライン:営業車内)
15:00 翌日のアポイントの準備
17:00 大学病院でアポイント(現地)
18:00 オフィスに戻り、内勤業務(日報作成)
19:00 帰宅しジムへ

命に向き合う覚悟に導かれ医療業界へ。現場で培ったMRとしての揺るがぬ信念
中外製薬に新卒で入社した木村。医療業界を志す原点には、人の命を見つめた特別な時間があった。
「小学校のころ、父親が白血病をわずらい、命が危ぶまれる状況になったんです。幸い、現在も元気に過ごしていますが、これを機に医療に対して関心を持つようになりました。
その想いを強くしたのが大学時代の出来事です。法学部に進み、医療と法律について学んでいたのですが、そこで慕っていたゼミの教授が突然亡くなってしまって。その時に人の命に関わる仕事をしようと決心しました(木村)」。
製薬業界に進むことを選んだ木村は、中外製薬へと入社。群馬栃木支店の配属となり、基幹病院・開業医を担当しながら、MRとしての基礎を身につけてきた。
「先輩に同行して施設を訪問するのですが、最初は会話の内容がまったく理解できませんでした。これを乗り越えるには、ひたすら学ぶしかありません。自己学習用の動画を繰り返し視聴して勉強しました。
半年ほどで独り立ちできたのは、周囲の支えがあったからこそです。職場には気軽になんでも聞ける雰囲気があり、先輩が毎週時間をとってくれて、疑問を一つひとつ解消できたことが助けになりました(木村)」。
若手時代、木村にとって大きな成長につながる、いまでも忘れられない経験があった。
「ベテランMRから担当を引き継いだ際、『新人さんで大丈夫?』という言葉をいただいたことがありました。先生から見れば、自分のような若手が担当になることに、不安があったのだと思います。マイナスからのスタートでしたが、信頼を得るためには地道な積み重ねしかないと思い、まずは素早いレスポンスを心がけ、メールにはその日のうちに返すことを徹底しました。
また、先生の考えを尊重しつつ、自分の意見をきちんと伝えることも意識していた点です。医療課題やその患者さんにとって何が最善かを話し合った上で、自社製品を提案する理由を臆することなく伝えようと努めました。
その結果、快くアポイントをいただけるようになり、やがて雑談も交わせるような関係に。誠心誠意向き合うことの大切さを実感した出来事でした(木村)」。
また、木村は中外製薬のコア・バリューである「患者中心の医療」に向けた取り組みにも、力を注いできたと話す。
「患者さんの疾患を改善するためには、患者さんとのコミュニケーションを通じて課題を掘り下げ、それに対して適切に提案することが重要です。そのため、私はこれまで患者会のイベントに参加したり、患者さんが発信する動画を視聴したりと、自分なりに精一杯取り組んできました。
医療はひとりでは成り立ちません。チームの一員として、患者さんにとって何が最適かを考える上で、先生とは違う立場から自分にできることが必ずあると信じています(木村)」。

プロモーターとして眼科領域を開拓。地道な努力で掴んだ地域医療への手ごたえ
現在は県内の大学の附属病院のスペシャリティ領域をひとりで担当する木村。担当施設の規模が拡大したことで、MRとしての仕事への向き合い方ややりがいにも変化があったと語る。
「施設が大きくなると関わる人の数が飛躍的に増えます。たとえば、医薬品を患者さんに投与するためには会議での決議が必要な場合もあるため、発言権を持つキーパーソンとの調整が欠かせません。
一方で、基幹病院では難しかったことも、リソースが豊富な大学病院では実現可能です。届けられる患者さんの数が増えるぶん、可能性の広がりがモチベーションにつながっています(木村)」。
そんな木村にとって大きな転機となったのが、眼科領域の新製品プロモーターに抜擢された経験だ。
「プロモーターは、医薬品や治療法の普及を推進する重要な役割です。若いうちにこのような責任ある立場を任されたことは、MRとして非常に貴重な経験になりましたし、上司にとても感謝しています。
眼科は中外製薬が本格参入したばかりの新しい領域です。医薬品の承認が下りる数カ月前からプロジェクトに参加し、関連疾患の啓発活動を通じて、時には飛び込みもしながら人脈を広げることから始めました。
原動力となったのは、従来の医薬品とは作用機序が異なる製品を1日でも早く患者さんのもとに届けたいという想いです。その結果、上司や周囲のサポートもあり、結果として2年連続で全国トップの達成率を記録することができました。
さらに、2023年には地域連携をはじめとするMRの優れた取り組みを発表する場である『中外学会』に応募し、発表の機会をいただきました(木村)」。
木村はこうした活動の中で、地域医療の向上をめざすことの重要性も語っている。
「当社が製造する眼内注射薬は、実施可能な施設とそうでない施設がありますし、実施可能な施設であっても、注射が必要な疾患かどうかを診断する検査精度には施設ごとに差があります。
ただ、熱量をもって各医療関係者の強みをつなげるような講演会が開催できれば、県全体の検査精度や治療水準の向上に寄与することができると思うのです。MRの仕事は単なる営業ではなく、コンサルとして、地域の医療に貢献する役割があると考えています(木村)」。

キャリアを自らデザインし、より良い医療の未来へ。「患者中心」の理念の実現に向けて
中外製薬のMRの特徴は、一人ひとりの意識にコア・バリューが深く根づいていることだと木村は言う。
「会社としてMRの日報をテキストマイニングにかける機会があったのですが、『患者さん』というワードが最も大きく表示されていました。もし、面談や説明会で製品のことばかりを話していたら、こうはならなかったでしょう。当社のMRが患者さん一人ひとりの健康と幸せを第一に考えているからこそだと思います(木村)」。
そんな木村が考える、中外製薬のMRに求められる素養とは。文系出身者の立場から、未来の仲間に向けて次のように語りかける。
「大事なのは、言われたことを素直に受け入れ、とにかくやってみる姿勢だと思います。医療への熱い想いがあるかどうかも重要です。患者さんの立場や現場で直面する課題をどれだけ自分ごととして捉え、主体的に行動できるかが問われます。
理系・文系は関係ありません。MRは入社1年後にMR認定試験を受け合格する必要がありますが、入社前の1週間の研修や、入社後の数カ月にわたるMR導入研修で実践的な知識をしっかり学べます。
その後も本社の社員による製品研修など、継続的に知識を習得・更新する機会があるため、文系出身者でも安心して現場に出ることができるはずです(木村)」。
中外製薬での木村のキャリアはまだ始まったばかりだ。ひとりでも多くの患者さんの力になるために、自分の可能性に蓋をするつもりはない。
「間もなく担当が変わり、眼科の施設を受け持つ予定です。自社製品を届けるだけでなく、疾患啓発にもこれまで以上に力を注ぎたいと考えています。
中長期的には、これまでと異なる視点から医療を見てみたいという気持ちもあります。中外製薬では、すでに幹部社員に導入されているジョブ型人事制度が、2025年から一般社員にも適用される予定です。
空席となっているすべてのポジションが可視化され、各ポジションに必要な資格や経験、スキルも明確に定義されることで、社員が自ら希望するポジションに手を挙げて挑戦できるようになります。私も、まずはしっかりとMRとしてのキャリアを積んだのちに、将来的にはそれ以外の仕事にもチャレンジしてみたいと思っています。
めざすのは、患者さん主体の医療の実現です。まだ解決されていないニーズを起点に新しい製品が生まれ、多くの患者さんの困りごとにアプローチできる世界をつくりたいと考えています(木村)」。
変わり続ける医療の最前線で、これからも木村は、変わらない使命を追求し続ける。小さな積み重ねが、大きな変革を生むと信じて。
※ 記載内容は2024年12月時点のものです