国内に創薬拠点とグローバル開発機能を有する中外製薬では、メディカルドクターが創薬プロジェクトの初期段階から参画し、医学的根拠に基づいた臨床試験の実施と早期のPoC取得に努めてきた。臨床医としての豊富な経験を活かして革新的な医薬品の創出に貢献する3人が、同社だからこそ実現できること、描ける未来を語る。
(インタビュイー:大木、小林、岩佐)
※中外製薬公式talentbook(https://www.talent-book.jp/chugai-pharm)より転載。記載内容・所属は2024年10月時点のものです
医療現場の知見をより良い創薬の糧に。臨床経験が拓く革新的な医薬品開発
トランスレーショナルリサーチ本部の小林、臨床開発本部の岩佐、そしてメディカルアフェアーズ本部の大本。それぞれメディカルドクター(以下、MD)として、臨床経験と医学知識を活かし、科学的かつ医療現場に即した視点で創薬プロセスの最適化に貢献している。
小林:私はエグゼクティブサイエンスディレクターとしてオンコロジーを除く早期臨床開発段階の自社創製品プロジェクトの多くに関与し、TPP(Target Product Profile)やCDP(Clinical Development Plan)といった医薬品開発の重要な戦略策定に携わっています。承認される前の薬剤について、適応疾患や対象患者を見極め、臨床試験のデザインや価値向上の方策を検討することが私の主な役割です。
専門は脳神経内科ですが、免疫や血管障害などさまざまな病態に基づく疾患の知識を応用し、未知の領域でも迅速にキャッチアップできるのが臨床経験を持つ私の強み。疾患理解、患者ニーズの把握、治療の課題などを多角的な視点ですばやく理解し、チームと共有して議論を加速できる点にMDの存在価値があると考えています。
また、前例となる臨床試験のデザインを踏まえつつも、生理学や病理学的知見に基づいて仮説を立て、薬剤の最適な使用法や新たな臨床試験デザインを提案できることもMDの役割だと認識しています。
岩佐:私はオンコロジー臨床開発に携わり、開発メンバーとして新薬開発プロジェクトに参加しています。また、開発戦略の立案や部員のサイエンス力強化、第三者品の導入評価を担当するほか、臨床開発の戦略会議などでの意見提供や部署横断的な相談対応も行っています。
MDの強みは、実臨床での経験に基づく洞察力にあると考えています。薬剤の効果や副作用の現れ方、検査値の異常と患者さんの実際の状態との乖離など、数値と臨床像の関連性を熟知していることが大きな利点です。
私は臨床開発チームと医療機関とのいわば橋渡し役として、医学的な疑問に答える役割を担っています。また、薬剤開発の戦略立案において、実臨床の経験と医学的視点を反映させることが、MDの重要な責務だと考えています。
大本:私はメディカルマネジャーとして、上市前の後期開発品や上市後の製品を対象に、メディカルプランとよばれる、研究や科学的コミュニケーションを通じて製品価値を最大化し、患者さんの健康に貢献するための戦略の立案及び実行に 携わっています。ロシュ社のPDMA(Product Development Medical Affairs)部門やLCT(Life cycle Team)との調整役も務めます。
また、MDとして他部署・他プロジェクトに対する医学的視点での助言も行っています。ペーシェントジャーニーを分析してアクションプランを策定する上で、実臨床での経験を活かし、優先順位の適切性や見落とされがちな潜在的クリニカルニーズの同定を通じて、より実効性の高い医療戦略構築への貢献をめざしています。
臨床経験を武器に、理想のキャリアパスを追い求めて創薬の最前線へ
それぞれの分野で豊富な臨床経験を持つ3人。製薬会社、中でも中外製薬でのキャリアを志した背景には、それぞれに強い想いがあった。
小林:10年以上に及ぶ臨床経験と、大学院や留学先での研究を経て入社しました。製薬業界を志したのは、これまでの知識や経験を総合的に活かせる環境を求めたからです。基礎研究、臨床研究、そして充実した臨床経験を持つ中で、すべての経験を活かせる場を模索していた私にとって、中外製薬の現在のポジションは理想的なものでした。
岩佐:がん医療を担う専門病院でレジデントを経験した後、主に消化管内科領域で約16年間、抗がん剤治療に携わってきました。
消化管がん領域の診療・臨床試験、および固形がんにおける第I相試験などに参加する中で新薬開発への関心を高めましたが、臨床現場では与えられたプロトコルに則って薬剤を使用します。製薬企業の開発戦略をより深く理解したいと考えたことが、製薬会社への転職を考えた理由でした。
数ある製薬会社の中から中外製薬を選んだのは、私の専門である消化器領域での開発品の豊富さに惹かれたからです。
大本:私は約10年間、医師として臨床業務及び研究に従事した後に入社しました。当初は臨床一筋のキャリアを想定していました。実際に臨床現場で診療したり手術したり患者さんに直接貢献できることに非常にやりがいを感じていました。
しかし研究に取り組む機会が増えるにつれ、研究を通じてより多くの患者さんに貢献できると思い、大学院進学や製薬会社への転職を考えました。
中でも中外製薬を選んだのは、当時、ちょうど当社が私の従事していた診療領域に進出するタイミングだったからです。新しい分野を共に開拓できる機会に魅力を感じ、入社を決めました。
入社後、3人はそれぞれ現在の部署へ。周囲の細やかな支援のもと、臨床現場との環境の違いに戸惑うことなく新しい職場に適応してきた。
大本:当社の社員はサポーティブな方ばかり。部署内にMDは多くありませんが、社内の業務を知らない私に対して丁寧に教えてくれました。温かくチームに迎え入れていただいたことに深く感謝しています。
小林:部署内ではMDはほとんどいない状況でしたが、周囲の方々は非常に優秀かつ親切で、対応に困るような状況に直面したことは一度もありません。また、わからないことを質問したり自分の考えを述べたりしても、否定的な反応はなく、むしろ建設的な議論ができました。
臨床医時代はすべての裁量と責任が自分にある状況でしたが、チーム制となった現在の環境にも無理なく馴染めていると感じています。
岩佐:私が配属された部署にもMDはいませんでしたが、上司がMDとして果たすべき役割を一緒に検討していただき、さまざまな会議に参加する機会を設けていただきました。また、医学的な視点から発言する機会を促してくれたりと多くのご配慮をいただき、おかげさまですぐに職場に溶け込むことができました。
製薬業界特有の専門用語に苦労することもありましたが、長年MDとして当社に勤めている先輩が定期的な1on1ミーティングを通じて相談に乗ってくれたことも、大きな支えとなりました。
また転職後、働き方が大きく変化したと話す3人。ワークライフバランスが充実したと口を揃える。
小林:基本的に在宅勤務で、月に2、3回程度本社に出社しています。年間1、2カ月程度は国内外へ出張していますが、フレキシブルな勤務体制により、自分のペースで柔軟に仕事ができるのは魅力的です。
この働き方のおかげで仕事がしやすくなり、健康面でも良い影響を感じています。医師としての仕事は、突発的な対応を求められることが珍しくありません。予定が立てやすいのはありがたいですね。
大本:不定期で国内及び海外出張が入りますが、普段出社するのは週1回ほど。小さな子どもがいるので、フレキシブルな働き方ができていて非常に助かっています。とくに病院に勤務していたときと比べて、自分で仕事をコントロールできることが大きな利点です。
岩佐:臨床医として働いていたころは、休日出勤も珍しくない上、迅速な判断が求められる場面が多く、オンオフの切り替えが難しいこともありました。転職後、メリハリのある生活ができ、日々の暮らしに大きな変化が生まれました。
臨床知識が拓く創薬の新しい地平。MDとして掴んだ確かな手ごたえ
臨床経験を活かして存在感を発揮してきた3人。組織の一員としてチームに貢献できる喜びを感じていると言う。
岩佐:私が責務を果たしたと実感できるのは、他部署から開発戦略や副作用について相談を受けて適切に対応できたときです。入社して新たな知識を吸収する一方、医療現場の知見をフィードバックすることで、MDとしての自己実現感が得られています。
小林:入社直後に参加したプロジェクトにおいて、疾患概念が比較的近年に確立した疾患を提案することができ、現在その疾患も取り入れた臨床開発が進行しています。脳神経内科医としての幅広い疾患の知識が役に立った経験でした。MDの専門的な視点と製薬会社の網羅的なアプローチが相互に補完し合う関係にあることを実感しています。
大本:担当プロジェクトに貢献するのはもちろんですが、岩佐さん同様、他部署からの相談に応えられたときにはMDとしての存在意義を実感します。
また、臨床医時代と比べ、チームでの取り組みが増えました。チームワークの難しさとおもしろさを同時に経験し、顕著な成果を上げたときにはとくに大きな達成感があります。
MDが創薬プロジェクトの初期段階から参画できるのは、国内に創薬拠点とグローバル開発機能を有する中外製薬ならでは。3人には同社だからこそのこんな経験も。
岩佐:当社は患者中心の理念のもと、「患者さんと共に」という姿勢を強く打ち出し、患者さんをはじめさまざまなステークホルダーとの協働を全面的に推進しています。
医療現場や患者さんの声を積極的に取り入れる活動が盛んに行われていることは、中外製薬の大きな強みと感じています。これらの活動に参加することで、医療機関で培った患者さんに寄り添う経験を活かすことができています。
小林:国内外のトップクラスの研究者と直接対話し、薬剤開発戦略を検討する機会があることが、国内に開発拠点を持つ中外製薬の特徴であり、非常に充実しています。
大本:自分が一臨床医として勤務を続けていたとすると不可能であったかもしれない規模の仕事に携われることは大きな魅力です。新たに研究を立ち上げたり、以前であれば会うことすらできなかった学会の権威と今後の方向性について合意形成を図ったりと、中外製薬のMDならではの経験ができることにやりがいを感じます。
また、ロシュ社と協業関係にある刺激的な環境が、革新的で効果的な医薬品開発の原動力になっていると言う。
大本:日常的に英語での会議に参加したり、スイスの本社へ出張したりする機会があります。これは臨床医にはない興味深い経験です。グローバルな視点で医薬品開発に携わることができる点に、大きな魅力を感じています。
小林:ロシュ社へ導出した中外が創生した薬剤の新たな適応拡大を検討する際など、共同チームを結成し、疾患の深掘りを一緒に行うことがあります。ロシュ社との協業は、異なる考え方や方針に触れる貴重な機会です。ものの見方の違う相手とディスカッションし、開発方針を擦り合わせていく過程は非常に興味深いと感じています。
企業と患者さんを結ぶ架け橋となり、アンメットメディカルニーズのその先へ
患者さんに寄り添い続けてきた医師としての使命感を胸に。3人には、中外製薬でかなえたい未来がある。
小林:製薬業界でよく使われる「アンメットメディカルニーズ」という言葉に時に違和感があります。往々にして患者視点だけではなく、企業視点でニーズが追求されている気がするからでしょうか。中外製薬では、誠実さ、患者中心、といった理念が重要視しされており、実際の仕事をする中でも社内に浸透しているのを感じます。
臨床医としての豊富な経験を活かし、患者さんの真の困りごとに焦点を当てつつ、企業としても利益を生み出せるような戦略を考案することがMDの役割。これまで企業視点で語られてきたニーズの概念を拡張できれば、いま以上に存在意義が発揮できると考えています。
岩佐:製薬企業は直接的な医療行為には関与できませんが、より医療現場に近い視点から患者さんの課題にアプローチできるよう、MDとして貢献していきたいです。
また、競合他社の存在によって開発が促進される側面があることは理解しつつも、他社との競い合いではなく、良い薬剤を患者さんへ迅速に提供できている未来を願っています。将来的には、企業間の垣根を越えた共同開発の実現を望んでいます。
大本:臨床医とは異なり、製薬会社では領域の枠を超えた活動が可能です。今後、異なる領域や開発フェーズでの業務に携わる可能性もあるでしょう。より広範に貢献できるよう努めることは、
また、先ほど小林さんも話されていましたが、純粋な患者視点と企業視点のあいだには乖離が生じることもありうるのでMDとして、その溝を埋める役割を担い、社会により大きく貢献していきたいと考えています。