バイオ原薬輸送における環境負荷低減への取り組み
中外製薬は、地球環境保全をすべての事業活動を支える重要な基盤と考えており、医薬品の研究・製造・輸送など事業活動のあらゆる段階で、環境負荷を軽減する取り組みを進めています。その一環として、製造サイトから目的地まで、低温環境を維持したまま輸送する医薬品コールドチェーンにおけるCO2排出量削減を目的に、当社に特徴的なバイオ医薬品の有効成分(バイオ原薬)の輸送時の新たな輸送容器を開発しました。
医薬品コールドチェーンと環境対応
医薬品輸送において最も重要なことは、高品質な医薬品を患者さんへ届けることです。そのため、輸送時に生じる温度や湿度、振動および衝撃等の環境要因から医薬品の品質を守ることが求められます。
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品質に影響する環境要因の例
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品質低下の例
対象 品質低下の例 原薬 タンパク質の変性・凝集
化学反応による性質変化製剤 薬効成分の劣化(含量低下、不純物生成)
錠剤の割れ/欠け
バイアル・シリンジの割れ包装 包装の破損/劣化
印刷・表示の擦れ
医薬品における主な輸送対象品とその輸送時の温度帯および当社の環境対応を下図に示します。特に、バイオ医薬品は輸送時の温度が一定以上になると品質が劣化しやいため、低温環境を維持して輸送することが必要です。
一方で、環境面では、医薬品コールドチェーンを維持するために必要な保冷に伴うエネルギーの使用や容器全体の重量増加による輸送時のCO2排出量の増加が課題となっています。
バイオ原薬輸送における環境課題
従来の海外輸送では、下図の「バイオ原薬輸送方法」に示すように、バイオ原薬は専用の輸送容器(A)にドライアイスを詰め、それを外層の保冷容器(B)に収めることで品質維持に必要な低温環境を確保して輸送していました。この方法は品質維持を可能にする一方で、容器全体の重量増加により輸送時のエネルギー使用量が増え、CO2排出量が増加するという課題がありました。
新規輸送容器の開発コンセプト
こうした課題を解決するため、当社では、バイオ原薬用輸送容器そのものの保冷性能に着目しました。ドライアイスの配置や使用量、断熱材の仕様を最適化することで、下図「バイオ原薬の輸送方法」に示す外層の保冷容器(B)を使用しなくても、必要な低温環境を確保できる新しい輸送容器の開発に成功しました(C)。
本容器は、段ボール製の外装、断熱材、ドライアイス、バイオ原薬を一体化した構造を採用することで、輸送時の保冷性能を確保しながら、容器構成の簡素化と軽量化を実現しました。
環境面および経済面での効果
新規輸送容器の導入により、輸送に伴うCO2排出量は、従来方法と比較して約4割削減できる見込みです。2026年から2035年までの累積では、トンキロ法および想定輸送量による算出において、約505トンのCO2排出量削減が期待されており、中外製薬が掲げる「2030年までにScope 3排出量を30%削減する」という中期環境目標にも貢献する取り組みとなっています。
また、外層の保冷容器が不要となることで、輸送コストの低減にもつながり、環境負荷低減と経済性の両立を実現しています。
サステナビリティへの貢献
本取り組みは、医薬品の品質を最優先にしながら、環境負荷低減を同時に追求する当社の考え方を体現するものです。製品包装資材における環境配慮型素材の導入と同様に、輸送分野においても技術革新を通じて資源効率の向上を図り、サプライチェーン全体での環境価値創出を目指しています。
中外製薬は、サステナビリティを事業活動の中心に据え、社会課題の解決を通じて企業価値の向上と社会価値の創出を同時に実現する「共有価値の創造」を経営の基本方針としています。今後も研究開発力を高めていき、サプライチェーン全体での環境価値創出を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
担当者の声
写真左から:酒井 憲一、加藤 貴浩、小前 直也、河原 孝一
製剤研究部 企画・包装グループ 加藤 貴浩、小前 直也
今回の開発では、厳格な温度管理による品質保証を最優先にしつつ、環境負荷の低減と輸送コストの抑制を両立できる容器設計を目指しました。一般的に環境配慮には追加コストが伴うこともありますが、従来の容器構成を抜本的に見直すことで、コスト削減も同時に実現しました。さらに、CMOをはじめとする外部パートナー各社にも導入しやすい仕様としたことで、グローバルでの活用拡大につなげていきたいと考えています。
製剤研究部 企画・包装グループマネジャー 酒井 憲一
私たちの新薬開発が成功すればするほど、輸送量が増加し、環境負荷とコストの両面で輸送容器が果たす役割はますます重要になります。今後も輸送方法の研究開発を継続し、技術革新を通じて、さらなる効率的な環境負荷低減に貢献していきます。
ESG推進部 環境グループマネジャー 河原 孝一
気候変動をはじめとする環境問題は、人々の健康な暮らしを脅かすだけでなく、企業の事業活動そのものにも影響を与えるリスクがあります。当社は、2030年をゴールとした中期環境目標2030を掲げ、積極的に取り組んでいます。医薬品の品質を守りながら環境負荷も下げるという、バリューチェーン全体を通じた取り組みは、当社の経営の基本方針である「社会との共有価値創造」につながると考えています。外部パートナーとの連携による革新的な地球環境保全活動とエビデンスに基づく能動的な情報開示により、環境課題の解決をリードする世界のロールモデルを目指していきます。