2022年12月06日
当社CEOとマルチステークホルダーによるダイアログを実施
「患者さんの声を次のアクションへつなげる」
2022年11月2日、当社CEOと患者団体、医療関係者、アカデミアの方とのダイアログイベントを開催しました。2020年より当社CEOは患者団体代表の方と相互理解を深めるため毎年ダイアログを開催してきましたが、3回目となる今回は「研究開発への患者参画」と「臨床試験情報へのアクセス」の課題について議論するべく、多様なステークホルダーを交えて意見交換を行いました。
オープニング
過去2回のダイアログで挙げられた課題について当社がステークホルダーの皆さまと取り組んだ活動について報告を行いました。
当社からは具体的な活動事例として、創薬研究の初期から患者さんの声を取り入れるためのスキーム「PHARMONY(ファーモニー)*」を構築したことを報告しました。その過程では、患者団体や患者支援得団体のアドバイザーの方々に意見をいただき、PPI**(患者市民参画)の一環として進めてきたこと、トライアルとして実際の研究プロジェクトで患者団体との協働を行ってきたこと、また得られた患者視点だからこその知見を社内に蓄積し、今後の創薬研究に活かすための環境整備を進めたことも併せてご説明しました。
* PHARMONY(ファーモニー):当社と患者団体・患者さん・ご家族が、お互いの考えへの尊重・理解を図りながら、革新的な医薬品の創出を目指して、創薬研究ステージから協働を行うための活動名称。“Patients x Pharmaが生み出すHARMONY”。
** PPI=Patient and Public Involvement
ディスカッション
続くディスカッションでは、マルチステークホルダーの方々が当社CEOの奥田と「研究開発への患者参画」と「臨床試験情報へのアクセス」について、お互いの課題や取り組み、想いなどを共有し、活発に議論をしました。
ディスカッションテーマ「研究開発への患者参画」では、患者さんの意見を具体的な目標やアクションに落とし込んでいくことの重要性が話題となりました。
「患者さんは治療によって具体的にどうなりたいのか、患者さんと共に話し合いながら、目標設定を明確にしていく作業が必要」であるとして、改めて対話の重要性が論じられました。一つの疾患にも多様な症状があります。その中で何が大変なのか、どのように対処すべきなのか、具体的な目標と実現方法を明確にするためにも、患者さん・ご家族と研究者が対話を続けていく必要があります。
また、患者さん・ご家族からも研究者への理解を深めていくことが重要だとの声も挙がりました。「患者さんが一方的に意見を伝えるのはPPIではない。常に研究者が聞き、患者さん側が話すという関係性の固定化は、患者さんの意見を聞き流すことにもつながる」、「患者さんのニーズも研究者のロジックもどちらも大事。患者さんもそのことを意識しないと、結果的に多くの患者さんにとって不利益になることがある」と話し合い、「対話を通して患者さん・ご家族と研究者の相互理解を深めること」がPPIの本質であると再確認しました。
PPIの取り組みは社会全体に理解してもらうことも重要です。「課題を可視化して、社会全体で共有することが大切」、「『明日の医療は皆で作る』という意識を、患者さんや医療関係者・研究者だけでなく、社会全体で醸成していかなければならない」として、今回のようなマルチステークホルダーによるダイアログを積み重ねていくことの意義を共有しました。
「臨床試験情報へのアクセス」に関しては、臨床試験の存在を知らない患者さんも多くいらっしゃり、臨床試験の啓発も必要であるとの意見が共有されました。その上で「臨床試験情報は患者さんにとって本当に探すことが難しい。タイムリーに国民全員が公平に見られる環境がないと、不利益が生じる」ことが課題として挙げられ、患者さんが正しい情報にたどりつくための環境整備が重要であるとの認識で一致しました。更に医療関係者でもタイムリーに臨床試験情報を入手することは容易ではないことが分かりました。「医療関係者の臨床試験に対する理解も必要」であり、これらの課題への検討にはまさに皆で議論していく必要があることを再確認しました。
続いて、「従来のような医療関係者を通じた情報提供だけではもう成り立たない。情報収集のために用いているSNSなども含めた、様々なチャネルで情報が発信されれば、患者さん自身が必要な情報をタイムリーに入手できるようになり安心につながる」、「命に関わる重大な情報には患者さんがアクセスできるようにすべき」など、現状にあった情報提供のあり方についても意見を交わしました。
企業からの情報提供に関しても、「薬機法*の規制があり、患者さんが知りたい情報をダイレクトに入手できない」、「重要なのは患者さんや一般の方に適切な情報が届くことであるが、過剰な法解釈による企業内規制もあるように見える」、との意見も挙がりました。「誰のための規制なのか、ルールの本質に立ち返り、患者さんのニーズにあった形へ変えていく必要がある」「患者さん、企業、アカデミアが連携し、全員で声を挙げないと変わらない」など、マルチステークホルダーと目線を合わせながら協働していくことの重要性を改めて確認しました。
*薬機法=医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
私たちの Next Action
最後に「私たちのNext Action」と題し、登壇者の皆さまと当社CEOの奥田が、自身の想いや考えをどのように行動に結びつけていくのかをフリップボードに書き込み、一人ずつ発表しました。
天野 慎介 氏(一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン理事長)
創薬のプロセスに PPI (患者・市民参画) を推進するための場をつくる - 対話が大切!
IPPIを推進するためには、患者さんや市民が医療関係者側への理解を深めることが重要です。医療関係者との共通言語を学べるような場づくりを、他の企業を巻き込みながら進めていきたいと思っています。その際に忘れてはいけないのが対話。患者さんが一方的に語るのではなく、相互に対話できるような場をつくっていきたいです。
桜井 なおみ 氏(一般社団法人CSRプロジェクト代表理事)
超える。を 越える。
「創造で、想像を超える。」は中外製薬グループのスローガンですが、「超える」にとどまらず、企業間の壁や各ステークホルダーの壁を「越える」のが次のステップだと考えています。
大津 敦 氏(国立がん研究センター東病院 病院長)
ゲノム医療開発治験情報共有システムの構築 / PPI を促進する産官学の新たな枠組みと教育体制
患者さんが治験情報にアクセスしやすいよう、今の時代にあった情報共有システムが必要です。また、患者さんを中心としたマルチステークホルダーで効率的な薬事申請を当局と検討できるよう、医師や患者会の皆さんに向けた新たな教育プログラムもつくっていきます。
岩崎 甫 氏(山梨大学 融合研究臨床応用推進センター長 特任教授)
大学の講義でPPIについて話し理解を深める
大学の講義の中でPPIを扱うことで、若い人に医療研究への参画意識を醸成していきます。「みんなで新しい未来を創るんだ」と当事者意識をもって、PPIに参画してもらいたい。そのためにすぐに実践できることから始めていこうと思います。
奥田 修(中外製薬株式会社 代表取締役社長 最高経営責任者(CEO))
患者さん・ご家族の声を創薬・開発に反映する環境を整えるために他者 (他社) を巻き込む / 臨床試験情報を考える会 (仮) を設立する
患者さん・ご家族の声を創薬・開発に反映する環境を整えるために、患者団体や他社など、段階を踏みながらより多くのステークホルダーと協働しPPIを促進する環境を整えていきたいです。情報へのアクセスに関して、まずは臨床試験の情報スキーム改善に取り組みたいと思います。そのためには、当局との連携が必要不可欠ですので、もう一歩踏み込んだ対話をするための施策を考えていきます。
当社はこれからも、患者さん一人ひとりが最適な治療を選択できる医療を実現するために、引き続き患者団体の皆さまをはじめとし、医療に関わる様々なステークホルダーの方々と対話を行い、協働を進めていきます。