中外製薬グループは、地球環境保全をすべての事業活動を支える重要な基盤と捉え、「気候変動・エネルギー対策」「資源の循環促進・適切な水管理」「生物多様性保全」の3本柱を軸に取り組みを進めています。今回は気候変動・エネルギー対策に着目し、中外製薬の環境保全に対する考え方や具体的な取り組み、そしてその情熱の源泉について、ESG推進部環境グループの須田篤志が語ります。
2030年に向けた環境目標:サステナブル電力の導入を推進
なぜ中外製薬にとって地球環境保全が重要なのか。その問いに、須田は「人が暮らせない世界で薬を作っても仕方がないですよね」と真剣な表情で答えます。地球環境の保全なくして、製薬企業としての使命を果たすことはできないという強い信念が、当社の環境への取り組みを支えています。
中外製薬は、2021年に「中長期環境目標2030」を策定しました。気候変動・エネルギー対策においては、CO2排出量の削減目標を2030年には2020年比で60~75%削減、さらに2050年はCO2排出ゼロとする長期目標を掲げています。
須田は次のように説明します。「実際にどう排出ゼロを達成するのか施策を提案して国内外の事業所、研究所、製造工場と話し合い、対策を進めてもらって全体の目標を達成していく。これが私の役割です。中外製薬はロシュ・グループの一員であるため、目標設定にはロシュ・グループの目標達成への貢献も重要な観点として含まれています。」
対策の一つであるサステナブル電力の導入推進は、CO2排出量削減に対する即効性のある施策として非常に重要です。当社では2025年までにサステナブル電力比率を100%にするという中間目標を掲げ、2024年時点で97%まで達成しました。
次世代バイオ製造施設UK4での取り組み
地球環境保全で特筆すべきが、2024年1月に稼働した次世代バイオ製造施設UK4(東京都北区浮間)での、「スリーゼロ」(ガスゼロ、フロンゼロ、CO2ゼロ)というコンセプトの採用です。
CO2・ガスゼロに向けては、ガスボイラーを完全に廃止して電気ボイラーに置き換え、100%電力による運用を実現しています。さらに、医薬品の注射用水の製造プロセスを蒸留方式から濾過方式に変更するなど、エネルギー効率の向上にも努めています。これによってUK4では電力の全てを再生可能エネルギーで賄い、大幅なCO2排出量の削減を達成しています。
フロンゼロでは中外製薬独自の施策を講じ、既存の冷凍機や空調設備を計画的に非フロンの天然溶媒の製品に置き換えています。中外ライフサイエンスパーク横浜においても、実験機器の遠心機で環境負荷の少ない自然冷媒仕様を採用しました。
関連情報:サステナビリティ活動報告:新研究拠点「中外ライフサイエンスパーク横浜」における自然冷媒遠心機採用(中期環境目標フロン類使用量2030年100%削減に向けて)
「新技術の導入には初期投資や運用面での課題もありますが、長期的な視点で見れば、環境負荷の低減とコスト削減の両立が可能です。これらの環境保全施策を通じて得られた知見を、他の施設や工場にも展開していく計画です(須田)」。
環境・安全・衛生を統合的に管理した環境保全を
中外製薬グループでは、環境保全活動に加えて、従業員の安全と健康を守るための取り組みも重視しています。
「EHS:環境(Environment)、衛生(Health)、安全(Safety)は密接に関連しており、これらを統合的に管理することが重要です。工場や研究所での化学物質管理の徹底、作業環境の改善、従業員の健康診断の充実を行い、EHSに関する教育・訓練プログラムも定期的に実施して全従業員の意識向上を図っています。さらに、サプライチェーン全体でのEHS管理も推進しており、取引先企業にも同様の取り組みを要請しています(須田)」。
必要な環境投資を未来に向けて行っていく
「中期環境目標2030」の達成に向けては大規模な投資も必要です。中外製薬グループではCO2やフロンの削減に必要な設備更新を見込んだ環境投資額の試算を行っています。
「このように環境対策には大きな投資が必要ですが、実は一人ひとりの小さな行動も重要です。ゴミの分別、不要な照明の消灯、適切な空調温度の設定など、身の回りのことから始めることができます。小さな行動から大きな企業の取り組みへ。私たちの活動が他企業や社会全体に波及し大きなうねりとなり、その中で中外製薬が先導的な役割を果たしていけたらと考えています(須田)」。
みんなで同じゴールをもって共に成長する
中外製薬の環境保全の取り組みは、社外から高い評価を得ています。CDP(Carbon Disclosure Project)という国際的な環境評価機関から気候変動と水セキュリティの両分野で最高ランクのAリストに選定されました。また、世界的なESG投資指数「Dow Jones Sustainability Indices」(DJSI)の全世界版である「DJSI World」には5年連続で選定され、医薬品セクターで世界第2位になっています。これらの評価は、中外製薬の環境保全への取り組みが国際的な基準からみても優れていることを示しています。
「環境保全の取り組みは、一朝一夕には結果が出ないものですが、長期的な視点で粘り強く取り組むことで、確実に成果を上げることができます。サプライヤーや社内の各部門の皆さまから、環境のために一緒に良くしていきましょう、と共感の声を聴けるのはうれしいですね。みんなで同じゴールをもって協力し共に成長できることが、この仕事の醍醐味だと感じています(須田)」。
記載内容・所属は2025年3月時点のものです。