これからの
創薬・製薬会社へ
期待すること
笠井信輔さん Interview Vol.2
4か月半の抗がん剤治療の入院生活を経験したフリーアナウンサーの笠井信輔さん。今は完全寛解し、仕事にも復帰しています。Vol.2では、闘病を経験して感じたこと、製薬会社に期待することについて、お話を伺いました。
これは笠井さんの事例であり、すべてのがん患者さんが同様な経過をたどる訳ではありません。がんの種類や進行状態、薬の副作用など、患者さんによって状況は異なります。
2人に1人が
がんになる時代。
普段から情報収集を
─ 病気発覚~治療中、ためになったこと、ためになった情報はありましたか?
笠井氏:皆さんにこうして体験談やその間に得たことなどをお話ししていますが、いま私が持っている情報は、ほぼ完全寛解してから知ったことなんです。退院してから、いろんな先生とお話をすることによって知りました。
でも、これはまさに治療を受ける前に知っておいたほうがいいことばかりなんですよね。
─ 普段から情報を集めておけば、いざというときに備えておけるということですね?
笠井氏:そうです。
われわれ患者は藁をもつかむ気持ちでいますから、「病気になってから」情報を集めようとすると、自己判断でさまざまな療法につられてしまうんです。
抗がん剤治療とはこんなだとか、標準治療とは何なのかとか、適切な医療とはどんなものなのか…などです。
私は何人もの先生に言ったんですよ。「標準治療という名前が悪い」と。高額のお金を払えば受けられる「特別」があるのではと思ってしまうんです。
でも標準治療というのは、科学的根拠に基づいた現在利用できる最適な治療、もっとも推奨される治療法のことをいうんだそうです。そこをなかなか患者さんにわかっていただけないと先生方がおっしゃっていました。
今、日本人の2人に1人ががんになるという統計が出ています。男性に限っていえば65%の日本人が一生のうちにがんになるんです。
私はがんになった時に『なんて運の悪い人生だ』と思いましたが、実は運が悪いんじゃなくて、がんになる方が多数派なんです。
みんな、100万円が2人に1人当たるという宝くじが発売されたら買うでしょう?満塁で打率5割のバッターが出てきたら、点が入るなとみんな思いますよね。でも、2人に1人はがんになると聞いても、自分はならないと思う。不思議ですよね。
普段からがんになるものだと思って備えて情報収集をしていれば、実際にがんになったときにうろたえず、正しい治療法が選べるようになるはずです。このことを私は伝えていきたいと思っています。
製薬会社に期待すること
─ 闘病され、製薬会社への印象や想いは変わりましたか?
笠井氏:病気をしてない時は 風邪薬がもっと安くならないかなとか、もっと貼りやすい湿布薬がないかなとか、そんな要望ばかりでした。
でも、がんと向き合って、治療によって、今こうしてがんを乗り越えることができた、もう感謝しかありません。『つらい仕事かもしれませんが、本当に頑張ってください』と、頭を下げたくなります。
─ がんや希少疾患など、患者さん一人ひとりの遺伝子情報に基づいた治療方法(個別化医療)の研究が進められていますが、それについてどのように思われますか?
笠井氏:これはとても素晴らしいことで、ありがたい。期待しています。私も脳に転移しやすいタイプと分かり、そのうえで治療提案をしていただきました。
新しい技術で、その人その人の病気に合った治療法が見つかるならば、これほど素晴らしいことはありません。
治療を受けていて辛いのは、大変な治療に耐えたのに「あまりがん細胞は減っていません」と言われること。本当にきつい状況です。ですから、そういったことが少なくなるような、狙いをつけた治療法、それには大きな期待を寄せています。
─ 特に製薬会社に期待することはありますか?
笠井氏:日本では数多くの抗がん剤が開発されています。日本の製薬会社の知識と開発力、そして何より粘り強さで、これまで以上に良い薬を開発してくださることを願っています。
それに、制吐剤や脱毛の少ない抗がん剤、口内炎や味覚障害が起こりにくい抗がん剤など、治療中のQOLを上げる薬の開発も、私たち患者にとってはとてもありがたく、非常に期待するものです。
抗がん剤の効果だけでなく、副作用が少ない薬の開発は、製薬会社の技術と知見をもってすれば、夢ではないと信じています。
─ 将来の、日本の医療環境にどのような変化を期待しますか?
笠井氏:コロナ禍でニューノーマルの時代が到来した中で、患者の孤立化をどうやって防いでいくかという視点があまりにもなく、QOLが上がらないと感じています。
私自身もコロナの影響で、誰もお見舞いに来ないという体験をした患者です。
命を救うこと、病気を治すことは最重要課題ではありますが、緩和医療も含めて、患者の孤独や不安をどう改善していくか、心のケアをどうしていくかということに、もっともっと人と時間を割いた方がいいのではないかなと考えています。私も情報を発信する立場として、患者さんのQOL向上のため、さまざまな活動や働きかけに取り組んでいます。