薬という側面から、命に関わる仕事をしたい。
「心は健康なのに、体がうまく動かない。まだ生きられたはずなのに、残された家族が悲しい思いをする。そういう姿を見て、自分にも何かできないか、薬という側面から命に関わる仕事がしたいと思うようになりました」。中外製薬を志望したのは、がんやリウマチの分野で特化した開発をしており、抗体医薬の技術に優れていたこと。新しい治療薬を創出しており、ロシュ社との戦略的アライアンスによって更なる成長が期待できる環境で、自分も成長できると考えたからだ。今回の承認取得で、入社時の思いを、また一つかなえることができたと思っている。
意志を持って、薬と患者さんの可能性を広げる。
今回、承認された抗悪性リンパ腫の治療薬は、上田が入社する前から開発が進められていた。「この病態では、長年にわたって標準療法(科学的根拠に基づき現時点で最良として推奨されている治療薬)のトップに君臨する競合製品がありました。それを上回る結果を出した治療薬は、まだなかったのです」。上田が臨床開発チームに加わったのは、第3相と呼ばれる、有効性と安全性を検証的に確認するステップの途中。「過去の膨大なデータから前出の薬剤を上回る治療効果があることを示せていた。いよいよ最後の第3相に入るというとき、アンカーの役目を受け継ぎました」。失敗すれば、10年以上の年月が水泡に帰すことも考えられた。「責任の重さを感じると共に、『必ずや患者さんに届けてみせる』という闘志が湧いてきたのを覚えています」。そして、競合製品を上回る結果が得られて、患者さんに更なる治療効果のある薬剤を届けることができた。自分のやってきたことが報われる瞬間でもあった。
いつかは、完治するがん治療薬の開発を。
「人の役に立つのであれば、忙しさも苦にはならない」と、上田は言う。研究プロトコルを立案し、治験で得られた結果にどう考察を加えていくか、どう解釈するかを試行錯誤する部分は、大学での研究と共通する面白さがあると感じている。一方、物事を追究する想いと集中力は、学生時代とは比較にならないくらい強くなった。「その先にいる患者さんを想えば、簡単にはあきらめられません。今回、患者さんの身体への負担を軽減するために、投与時間を短縮することも目指していましたが、度重なる交渉の末、承認申請時には見送らざるを得ませんでした。それでよかったのかどうか、ずっと悩んでいたのですが、再度、治験の実施を検討しています」。
仕事に必要なものは数あれども、最後は“想い”だと思っている。「患者さんの延命につながる薬を連続的に開発して、いつかは完治するがん治療薬の開発に携わりたい。病気で悲しむ人がいなくなる世の中をつくるのが、究極の夢ですね」。
※本記事の内容は取材当時のものです。