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「闘病しながらの子育て」を
経験して見えた、さまざまな支援の形

監修:一般社団法人「てくてくぴあねっと」代表理事
うえやまみかさん

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難病やがんなど、長期的な療養が必要な病を抱えながら子育てをしている親たちの実態は、まだ世に広く知られるまでには至っていません。そんな中、一般社団法人「てくてくぴあねっと」は、さまざまな病気を抱える親たちが育児の悩みを語り合い、自分らしく生きられる社会を目指して活動を続けています。代表のうえやまみかさんに、団体設立に至るまでの状況や、病を抱える親たちの育児と支援の実情、今の社会に求めることなどについて伺いました。

闘病と育児を両立させる大変さを経験

私は1歳のころに小児リウマチ(若年性特発性関節炎)を発症し、以来36年間、病気とともに生きてきました。症状の重さに波はありますが、今も全身の関節痛や倦怠感などと闘い、移動する時には松葉杖が必要です。

製薬会社に勤務している時に、夫と出会い、結婚。不安もありましたが、子どもを授かりたいという気持ちが芽生えました。調べてみると、育児や家事に対して国や自治体の支援制度もあり、夫や主治医が後押ししてくれたこともあって、仕事を辞めて妊活を始めることに。無事に、二人の男児を授かりました(2023年7月現在小学1年生と3歳)。

しかし、病気を抱えながらの育児は想像以上に大変でした。長男の出産後は、体調がどんどん悪化。全身に痛みが走り、長男が泣いても抱っこができず、哺乳瓶を持つことすらままならないという状態が続いたのです。

必要としている人に届いていない、支援制度の課題

産後の病状悪化で育児が困難な状況に追い討ちをかけたのが、使いたかった支援制度が実際には思うように利用できなかったことです。まず、自分の通院時に利用しようとしていた、子どもの一時預かり制度は、申請者が多過ぎて、すぐに使うのは難しい状況でした。当時、一刻も早く治療を再開したかったので、病院側にも相談しましたが、「12歳以下の小さなお子さんは連れて来ないで」と言われ、家で痛みに耐えるしかありませんでした。

夫は家事や育児に協力的ですが、出張などもあり、私がワンオペになることも。ところが、自治体の産前産後支援事業の子育て支援サービスは産後6ヵ月までの期限と回数の制限がネックに。ファミリーサポートは、登録や依頼のために窓口へ行く必要があるので、体調が悪い時の利用はハードルが高いうえに、サポーターが見つからないという不運も。結局、家事や育児の支援制度を使いこなせませんでした。夫の繁忙期や出張時には遠方にある私の実家に帰り、育児の手助けをしてもらって何とか乗り切りました。

自分の育児に不甲斐なさを感じる中、何気ないひと言に孤独を感じることも。例えば、長男が保育園に通い始めた時のこと。病気を理由に保育園を利用している親がいることに対して、保育する側にも理解が広まっておらず、当時の保育スタッフから「家にいて寝ているんですよね? 保育できるんじゃないですか? 保育園は就労している人たちのためのものですよ」と言われてしまいました。その後、保育スタッフの入れ替わりもあり、現在は「一緒に子育てをしていきましょう」と理解を示してくれる保育スタッフに支えられています。

当事者同士で話し合い、助け合えるネットワークを立ち上げ

数年後、次男を出産した時に改めて制度の内容や仕組みを調べてみると、長男の時から一歩も前進していないことに驚きました。せめて親の病気による子どもの一時預かり制度が使いやすくなるように、個人で自治体に相談にも行きましたが、何も変わりませんでした。待っているだけでは何も変わらない、だったら何かしてみようと、活動に賛同してくれる仲間数人と「てくてくぴあねっと」を立ち上げたのです。

「てくてくぴあねっと」の主な活動は、病を抱えながら育児をする親ならではの悩みを話し合い、共有し、必要な情報を得られるネットワーク作りです。LINE公式オープンチャットで気軽に話せる場を設け、参加者は2023年7月現在で100名を超えています。メンバーの方々が抱える病気は、難病やがん、精神疾患などさまざまですが、多いのは子育て期に発症しやすい膠原病。運営側の私たちもみな、病気を抱える親、またはその家族で構成しています。

いざ活動を始めてみると、個人で調べてもたどり着けなかった制度を新たに見つけることができました。障害者総合支援法の「居宅介護」に含まれる育児支援です。この制度は障害者だけでなく、難病などの患者、中でも重症度が高い場合や、神経系難病のように症状が継続し、常に生活に支障が出る場合に活用することできます。育児や子どもに関する家事などの支援が受けられ、実際に、保育園の送り迎えや子どものごはんやお風呂などをサポートしてもらっている事例もあります。こういうことを一つでも助けてもらえると、全然違うと思います。

また、団体を立ち上げてみてわかったのは、私のように肩身の狭い思いをして、悩んでいる人がほかにも多くいること。心がギリギリの状態まで一人で我慢していた人もいます。闘病と子育ての同時進行は大変。立ち向かっていくためには、気持ちを少しでも楽にできる場が必要です。患者会など、病気や治療のことについて話し合える場はほかにあっても、闘病と育児を同時に抱えた思いや悩みを当事者同士で話し合って、助け合える場はなかなかありません。疾患の種類が違っていても、自分に何かあった時、親として子どもに何ができるのかという悩みは共通です。「てくてくぴあねっと」を設立してよかったと思っています。

病を抱える親たちが安心して子育てできる社会へ

今ある育児支援制度の問題点は、親が元気であることを前提にしていて、病気を抱える親の利用のしやすさは考えられていないことです。「てくてくぴあねっと」を利用している方の多くは、病院を受診するための子どもの一時預かりや、重労働である家事を少しでも助けてもらえる制度を求めています。さらに、使いたい制度を速やかに活用できるようになればいいですね。

先ほど「居宅介護」に含まれる育児支援をご紹介しましたが、膠原病などのように症状に波があり、まったく何もできない状態の時だけではないけれど、健康な体の人のようには暮らせない人たちの利用は難しい現状。制度が受けられる範囲の拡充を望みます。また、民間のシッターさんを活用する人もいますが、金銭的な負担が大きいことなどもあり、一部にとどまっている実情も。東京都の一部の区で一時預かりの利用支援制度がありますが、全国で充実すると助かる人がいるのではと思います。

家族の誰かが病気にかかった時、家庭内で何とかすべきだという既存の雰囲気を変えることも必要です。核家族化している今、親が病気になると子どもが即、介護要員になる可能性があります。「大変だから助けて」とまわりに声を上げていい社会の空気作りが大切ではないでしょうか。

日々、闘病も子育てもしているみなさんは、どうかがんばっている自分を認めてください。自分じゃなきゃできないこと、親として大切にしたいことに体力や気力を残して、そのほかは後まわしにしてもいいと思います。そして、自分の悩みを人に聞いてほしい時、「てくてくぴあねっと」を選択肢に入れていただけたら大歓迎です。闘病しながら子育てする親の状況をみんなで底上げしていける社会になってほしいと思っています。

一般社団法人「てくてくぴあねっと」代表理事
うえやまみかさん

1歳のころから指定難病である小児リウマチ(若年性特発性関節炎)を発症。大学院卒業後、製薬会社に勤務。その後退職し、結婚、2児の母となる。病気を抱えながらの出産と育児、それに関する悩みなど、自身の体験を元に、2021年11月に一般社団法人「てくてくぴあねっと」を設立。難病や長期的な治療・療養が必要な、さまざまな病気を抱えながら子育てをする人たちやその家族が社会の中で暮らしやすく、自分らしく生きられる社会作りを目指し、当事者同士のネットワーク作りを中心に、講演活動や実態調査なども行う。

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