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日本初の「片づけヘルパー」に聞く!
『事故が起きない家』にする、
親の家の整え方

監修:片づけヘルパー 永井美穂さん

  • オリジナルコラム
  • 老年期
  • 生活

転倒やものの落下など、自宅での事故によるケガは、持病の悪化や寝たきり生活のきっかけにもなり得る、重大な問題です。しかし病を抱える高齢者ご本人が、家の見直しや片づけを行うのは至難の業。そこで、ご家族の出番です。介護福祉士の経験をもとに多くの高齢者宅の環境整備を手がける、日本初の「片づけヘルパー」永井美穂さんに、親を不意の事故から守るための自宅の整え方を伺いました。片づけをうまく進めるためのコツもアドバイスしていただきます。

「安全に暮らせる環境」に片づけることで、体も心もいきいきと

「ものを減らして、きれいな部屋にしたい」。実家の片づけを依頼してくださったお子さんから、よくこんなご要望をいただきます。しかし、介護と整理収納、両方の視点に立って高齢者宅の片づけを考えると、「見た目のきれいさ」はさほど重要ではありません。最優先にすべきは「いかに安全で健康に暮らせるか」、その大切さは、介護の現場で何度も実感しています。

寝たきりでなくても日中にベッドの上でじっと過ごしている高齢の方って、実は多いのです。ベッドからキッチンやトイレまでの生活動線に、床置きしたものが崩れて獣道のようになっていたりします。その場合、床のものを少しずつ片づけて、獣道を“舗装”していきます。そうすると、どんな変化が起きると思いますか?

安全に歩きやすい環境になると、なかなか動かなかったはずのご本人が、自分でキッチンに行ったり、トイレに行ったり、行動範囲を広げていきます。すると、気持ちが元気になる。毎日の生活が少しずつ自分の思い通りになっていく実感も湧いてくる。面倒で大変だったはずの片づけが、楽しいことに変わっていきます。

実家を「安全で健康な家」にするための5つの片づけポイント

自宅内で高齢者が起こしやすいのが、転倒や落下、転落などによるケガです。事故を防ぐために、下記の5つの点を見直してみましょう。

1.むやみに片づけず、まずは「親を知る」

親の好きなものや普段の過ごし方、家の中の移動経路まで、把握するところから始めましょう。起き上がったり移動したりするとき、まわりにある椅子や棚などに手をつき、頼りにしながら動いているケースもあります。一見不要に思えるものでも、むやみに片づけず、まずは親の動きを確認してください。

2.床の障害物と段差をなくす

高齢者はすり足になるので、わずかな段差でもつまずきやすく、骨折したり、頭を打ったりする危険があります。転倒の原因になるものは撤去しましょう。部屋と部屋との間の段差も危険です。ホームセンターで買える段差緩衝材をつけたり、スロープ代わりにすのこを敷いたりするなどの対策を。

3.滑りやすい足元のマット類をなくす

キッチンマットやトイレマットなどのマット類は、つんのめりによる転倒事故防止のために、はずすことをおすすめします。安全対策によさそうな「滑らない靴下」は、かえって足が前に出にくくなり、つんのめる原因になるのでおすすめしません。

4.手の届かない場所には収納しない

高い位置にある収納は、取り出すときに体への負担がかかりやすく、転落にもつながります。手が届く位置におろしましょう。片づけをする前に、中の様子や収納されているものを動画や写真に撮影して、親に見せてあげるとスムーズに進められます。床下収納などの低い位置の収納は、座って立ち上がる動作が大変です。ぜひ見直しを。

5.しまい込まずに「見える化」する

必要なものを迷わず手に取れる仕組みも大切。洋服の場合はオープンラックが使いやすいです。昔ながらのたんすは引き出しが重く、手前側しか使わないことが多いので、半透明で軽いプラスチック収納などに替えましょう。日中を過ごす場所では、よく使うものをカゴなどにまとめると、出し戻しがしやすくなります。

高齢者の家を片づける際のNGポイント

いざ片づけを行う前に知っておきたいのが、高齢者特有の傾向です。よかれと思ってやったことが、逆に親の混乱を招くことも。また、片づけを早く進めたいと思うあまり、つい発してしまった言動が親のプライドを傷つけ、意固地にさせることもあります。高齢者の片づけで避けたいポイントを4つ挙げてみました。

●定位置を動かすなど今までの環境を変える

そのときは認知症を発症していなくても、環境を変えたことで認知機能の低下が進むことが少なくありません。家具などのレイアウトはもちろん、親が大切に飾っていたものを同じように並べるなど、見渡したときの印象がこれまでと変わらないように配慮しましょう。

●親が納得していないまま、ものを捨てる

子どもから「捨てる」のワードを出すのはNGです。必要な片づけができるなら、多少ものが多くてもいいのです。ため込んでいるものが目についたら、「これって使うの? 捨てるわけじゃないよ」と声がけを。親の方から「もう似合わないわね」「いらないわ」などの気持ちを引き出せます。

●圧をかけて「捨てる」決断を迫る

誰でも自分で「捨てる」決断をするのはイヤなもの。長年しまい込んである不要品は、「これ、私にちょうだい」「バザーに出すからもらってもいい?」など、譲り受ける形をとるのも効果的です。さらに、「誰かほしい人がいたら、譲るね」と言っておけば、後から子ども側で処分しやすくなります。

●「あなたのために」という押しつけ

「お母さんのために」「お父さんが困るから」など、押しつけるような発言や行動はなるべく控えましょう。「訪問のヘルパーさんがやりやすいようにしようよ」「私のために考えてくれない?」など、第三者に迷惑をかけない提案をすると、片づけることに対して前向きになることが多いです。

“親の気持ちを引き出す”片づけが成功のカギ

いざ実家の片づけを進めようとしたお子さんが、親御さんとケンカになるケースは絶えません。よくあるのは、親側に話が通っておらず、子どもの都合とやり方で一方的に片づけを進めようとしている例です。

忘れてはいけないのが、親世代の方々は、私たちよりもたくさんの経験を重ねているということ。これまでも家を片づけ、掃除してきたわけですから、自分なりの方法も、現状も重々承知しています。しかし高齢になると、なかなか今に向き合えない。そんなときに子どもがしてあげられることは、親の話をしっかりと聞き、やる気スイッチを押してあげることなのです。片づけの実践方法も、ご本人が一番よく知っていますから、聞いてみましょう。

子どもが寄り添い、思い描いた形に片づけが進むと、親は自己肯定感が高くなり、「まだまだ私、やれるじゃないの」と生きがいを感じます。そのうちに、「家の中をどうしたい?」と聞けば、親の方から自然と「あそこが片づかない」「あれはいらない」と話してくれるようになるでしょう。そこで初めて、「手伝おうか?」と子どもから声がけすればいいのです。

実家の片づけは、親と子のコミュニケーションを再構築するよいチャンスでもあります。いつの日か親が帰らぬ人となったとき、楽しい思い出が残って、やりきったという気持ちで見送ることができるように、向き合っていきましょう。

片づけヘルパー
永井美穂(ながい みほ)さん

整理収納アドバイザー。介護福祉士として、10年間介護事務所に勤務、高齢者の在宅介護に従事。その見知から、高齢者が健康・安全に暮らせる環境づくりの必要性を感じ、整理収納アドバイザーの資格を取得。2009年より、日本初の「片づけヘルパー」として活動を始める。個人宅での訪問整理を行うほか、NPOハウスキーピング協会「介護環境整理アドバイザー認定講座」などの講師・講演、メディア出演などで活躍中。著書に『日本初の片づけヘルパーが教える 親の健康を守る実家の片づけ方』(大和書房)、『1日10分でおうちがキレイに! シンプル&最強片づけ術』(ゼロワン出版)。

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