
「当時の僕には “当たり前”すぎて気づかなかった」教育系YouTuber葉一さんが中高生のヤングケアラーに伝えたいこと
- オリジナルコラム
- 学生
- 中高生
- 人間関係

「ヤングケアラー」という言葉を知っているでしょうか? 「本来は大人が担うと想定される家事や家族の世話などを、“子どもとしての時間”と引き換えに、日常的に行なっている子ども」※1のことです。ある調査では、中学2年生の約17人に1人が家族の世話をしていることが明らかになりました※2。そこで、ヤングケアラーとしての経験を持つ、教育系YouTuberの葉一(はいち)さんに、ご自身の中高生時代のこと、大人になった今、「自分もヤングケアラーかもしれない」という中高生に伝えたいことなどを伺いました。
実は昔から、妹の「世話」をしている実感はなかった
僕には、障害を持つ2つ下の妹がいます。小学生のころから、毎週ではないですが、父も母も仕事でいない週末に妹と2人で過ごしていました。平日も、母が帰宅するまで面倒を見るという場面がちょこちょこありましたね。2人だけのときには、意思疎通はできませんが、妹に危ないことがないように目を離さず見守っていたり、食事の時にこぼしたものを片付けたりしていました。

世話ばかりの毎日ではなかったからか、自分では妹の「世話」というより「留守番」くらいの感覚なんです。兄弟同士で留守番をすることはどの家庭でもあるでしょうし、物心ついたころから妹は家にいますから、全部当たり前のこととして受け入れていました。
どちらかと言うと、母のフォローをしている感覚でしたね。父は仕事が多忙だったので、子育てにおける母の負担は大きかったと思います。母の表情から大変そうだなと感じ取ると、妹との間に入って潤滑油にならなきゃと、小学生のころから意識していました。
振り返れば今に活かされている「ヤングケアラーだった自分」
中学生になると、小学生の時には楽しかった学校が一転して苦の場所になってしまいました。というのも、妹の世話のために土日の部活練習に出られず、「サボっている」という噂が生徒間に広まってしまったのです。結局、半年で部活は辞めて、いじめにもあいました。でも、親に心配をかけている場合ではなかったので、相談はしませんでしたね。
このころは心の余裕がなくて些細なことで怒っていましたし、「妹がいるから自分の人生は狂った」と考えて、妹にも理不尽な当たり方をしてしまいました。今から思えば、よくなかったと思います。
でも、高校入学とともに環境が変わったことで自分にも自信がつき、さらにクラスメートにも恵まれ、その後の僕に大きな影響を与えた恩師にも出会えました。この時期にはもう、妹への悩みは吹っ切れて、消化できるようになっていましたね。

ヤングケアラーの経験を語ると、大変なことばかりだと思われそうですが、逆に得たこともあります。勉強面では、高校時代も妹と一緒にいる土日はなかなか手を付けられず、しかも、同じ学年で成績がいい人たちと比べると、僕は明らかに暗記力も定着率も悪かったんです。そこで、「同じ勉強量で勝てないなら、反復回数を増やすしない」「机に座る時間がないなら、やったことを思い出せばいい」など、自分なりに勉強の方法を工夫していました。今、子どもたちに伝えている勉強法は、実はそのころの方法に少しアレンジを加えたものなんです。
小さいころから母親の表情をよく見てきたことで、人の表情を見て、何かを感じ取る力も養えた気がします。塾講師時代は、子どもたちの表情の変化には人一倍敏感だった自信があります。集団で何かをなすときには、どうすれば全体の満足度が上がるかも考えるようになりました。
自分なりに妹や家族のこと、さらにいじめのことなどを乗り越え、人間のさまざまな面も見てきたので、思いやる気持ちも養えた気がします。今は父として、小学生と保育園児の2人の子育てをしていますが、子どもの特性を理解して、うちの子なりの伸ばし方ができたらいいと思っています。勉強法も同じですが、みんな違ってみんないいんです。こういう立場に立てるようになったのは、これまでの経験があったからかなと思います。

僕のように、自分がヤングケアラーだと自覚していない子も多いかも
最近、ヤングケアラーに関わる仕事の依頼を受けることが増えていますが、実は僕自身、初めて依頼をいただいた時に、「ヤングケアラー」という言葉自体を知らなかったんです。すぐに調べてみたものの、なぜ自分に依頼がきたのか理解できませんでした。意味を知ってもなお、過去の自分とリンクできないくらい、妹と母のケアは当たり前の日常だったんです。でも、いろいろな人と話をして「自分はヤングケアラーだったのかもしれないな」と思うようになりました。僕だけでなく、自分自身がヤングケアラーであることに気づいていない子もいるでしょう。
その後、ヤングケアラーである子たちと会う機会が増えましたが、みんな共通して口にするのが、何か理不尽なことが起きると、全部自分のせいにしてしまって、出口が見えなくなってしまうということ。僕も「すべて、我慢強くない自分が悪いんだ」と思い悩み、妹のせいに少しでもしてしまった自分にイライラすることが何度もありました。
同世代の同じ立場の子たちとつながって、話をするだけでいい
でも、つい自分を責めて思い悩んでしまいがちだからこそ、一人で抱えていたらダメです。同世代の同じ立場の子たちと話をして、自分だけではないことを知ってほしい。僕もタイムマシンで小中時代の自分に会えるなら、経験者としてとにかく話を聞いてあげたいですね。みんな、置かれている状況はそれぞれでも、「大変だよね」と情報交換できるだけで辛い状況を変える一歩になると思います。

最近、ヤングケアラーの子どもたち同士がつながる場が増えてきているのは、とてもいいことです。やさぐれていた中学時代の僕だったら、大人の専門家に「悩みを聞いてあげるよ」と言われても、たぶん何も話さなかったと思うんですよ。「あなたには経験がないじゃないか」と。実際にヤングケアラーの子たちに聞いても、実際にそう思うことは結構多いようです。助けになる制度も必要ですが、その前に、当事者同士がつながることがメンタル面で大切だと思います。
僕のころにはなかった「ヤングケアラー」という言葉ができたことで、自分もそうなのかもと気づきやすくなったでしょうし、当事者同士が集まりやすくなったことでしょう。もっと世の中に広く、「ヤングケアラー」という言葉とその正しい解釈が認知されればいいなと思います。
情報収集・共有をして、自分の思い描く未来を目指してほしい
ヤングケアラーの中には、「自分は将来をあきらめなきゃいけないのだろうか」という不安を抱える子たちが多いと思います。そもそも、自分自身のことなんて考えられない、あきらめるのは当然だと思う子もいるでしょう。置かれている状況が周りとは異なるでしょうし、家族のことで自分の可能性が潰れてしまっているように見えてしまいがちです。
でも、僕が伝えたいのは、「自分の思い描く将来を目指していいんだよ」ということ。10代の子が自分の将来をあきらめるなんて早すぎます。
ある時、こんな相談が寄せられました。「障害者の兄がいて、両親は先に旅立つと思うので、兄をいずれ介護しなければならないのが不安」だと。僕も昔、まったく同じことを考えていました。でも世の中には、障害を持つ方をサポートする施設や制度はたくさんあるんですよね。そのことを知っていたら、相談した子もそこまで不安にならずにすんでいたかもしれません。
利用できる制度や施設が用意されていても、知らないと使うことができません。あきらめなくていい未来をあきらめずにすむように、早めに気づいてほしい。そういう意味でも、ヤングケアラーの子同士や経験してきた大人などがつながって、情報収集・共有をしていくことって大切だと思っています。
