よくいただく質問への回答 CFOインタビュー

投資家の皆さまから、よくいただく質問にCFOがお答えします
取締役上席執行役員 CFO 板谷 嘉夫

IBI 18の進捗

Q.中期経営計画IBI 18の初年度を振り返って、
成果と課題を聞かせてください。

2016年は、薬価改定など外部環境が大きく変化する中、ほぼ計画どおりの業績を残せましたし、新たな進化に向けて順調に進捗した一年だったと認識しています。

IBI 18で掲げた重点課題にのっとり、自社創製品の開発に着実な進展が見られたほか、さまざまな分野で今後のビジネス環境の変化を先取りして的確に手を打つことができました。中分子など新たな創薬技術基盤の構築に向けた着実な取り組みをはじめ、生産機能の強化のための設備投資や、全国一律ではなく、エリアごとの多様化するニーズにきめ細かく対応できる新たなソリューション提供体制の構築(2017年4月実施)などは、その一例です。

また、経費率を35%程度でマネージできる高効率体質は、依然として中外製薬の収益構造上の特長となっていますが、これも弛まぬ進化によって維持できています。

ロシュとの提携以降、10年以上にわたる各種コスト削減施策によって体質改善を成し遂げ、その後も2013年から取り組んでいる生産性向上プロジェクトをはじめ、全部門にわたるさまざまな取り組みを積み重ねたことが奏効していると考えています。なお、経費マネジメントとしては、原則として売上収益の伸び率の範囲内で経費の伸び率を抑えるという基本方針は、今後も維持していく方針です。

Q.戦略の実行力について、
どのように認識していますか。

I B I 18の初年度において、革新に向けた取り組みが着実に実践できたことからも、当社の組織には行動を結果に結びつける実行力があるものと認識しています。

社員意識調査でも、戦略の「理解度」「行動」「実感」の3項目を見てみると、前中期経営計画の初年度と比較して、いずれの項目も格段に高まっています(詳細はP45をご参照ください)。

これは、将来にわたって価値創造をしていくにあたり、非常に重要なことだと考えており、特に「理解」したうえで戦略を「行動」に移していけるかどうかが鍵になります。中外製薬では、全社の戦略・施策について理解を深めるため、各種社内メディアを通じた情報の共有に力を注ぐとともに、管理職同士や各組織の中でのワークショップ形式の議論を徹底して行っており、こうした取り組みは今後も積極的に推進していく考えです。

ある年の全社の管理職が集まる会議でのグループディスカッションに、非常に驚いたことを覚えています。いくつかのテーマのうちの一つが「一流の企業とは何か」というテーマで、皆が真剣に議論を交わしていたのです。一見非効率とも思えますが、本質的な議論に立ち戻り、自らが一流にまだ欠けているものはないかという謙虚な姿勢から、一流に挑むわけです。

中外製薬は、世界最先端の研究や生産を手掛ける一方で、根の部分では基本に忠実に、いわば愚直に取り組む会社なのだと思います。「すべての革新は患者さんのために」という事業哲学が各社員のDNAとして定着していることも然りですが、こうしたカルチャーは中外製薬の特徴であり、強みだと感じています。

将来の成長とイノベーション

Q.イノベーションの創出に向けた
課題を聞かせてください。

IBI 18の5つの重点テーマのうち、5つ目が革新を生み出すための人財戦略です。将来の技術革新や業界構造の変化など、外部環境が激変することを見据え、「自律」をテーマに、自らで連続的に革新を生み出す組織改革に取り組んでいます。とりわけ、各部署が自律型組織となり、イノベーションを生み出す人財を育てていくための「リーダーシップ」が重要なキーワードになります。

私としては、目的・目標を明確にしながら、各組織内で共感を醸成できるリーダーがさらに増えれば、確たる強みを有する中外製薬の企業価値はさらに向上していくものと確信しています。

また、こうした組織へと進化するためには、現在、各部門に根づいている「生産性向上」と、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」そして「ワークライフシナジー」とを有機的に連携させていくことが肝要です。D&Iやワークライフシナジーの推進により、社員一人ひとりが自分の力を最大限に発揮できる環境が整い、組織の生産性を高めることで、中長期的な成長を確たるものにしていく構えです。

Q.投資戦略について説明してください。

中外製薬はこれまでも、現在の強みを踏まえながら、中長期的な成長や将来への布石として投資を行ってきました。

シンガポールの中外ファーマボディ・リサーチ(CPR)の事業拡張をはじめ、革新的プロジェクトの連続創出に伴う複数同時開発への対応として、抗体原薬生産能力の増強を目的とした設備投資を行っており、2015年には浮間工場に少量多品種生産に対応した後期開発ならびに初期商用生産用のバイオ抗体原薬生産プラントの新設を決定。現在、順調に建設が進んでいます。

しかし、今後、外部環境の不透明さが増し、さらなるイノベーションが不可欠になる中、中外製薬が取り組むのは、次の時代を見据えた、現状の延長線上ではない戦略的な投資です。

2016年はこうした投資を実行した一年とも言えるでしょう。いわゆる投資とはやや性格が異なるものの、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)と包括的連携契約を締結したほか、神奈川県横浜市に約17万㎡の事業用地を新たに取得することとしました。

この事業用地取得は、将来的なさらなる成長のステージを見据えて、より高度な研究開発機能を備えた施設が必要であり、またそれが当社の課題であり責務であるとの考えによるものです。破壊的技術の出現も踏まえ、将来を見据えた中核的拠点としていく方針で、詳細な計画については、決定次第お知らせしていきます。

ACCEL 15およびIBI 18での投資
ACCEL 15およびIBI 18での投資ACCEL 15およびIBI 18での投資
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資本政策、株主還元、IR方針

Q.今後の資本政策はどのようなものになりますか。

中外製薬は、売上収益の約半分となる潤沢なネットキャッシュがあると同時に、毎年の着実な収益計上によってキャッシュ・フローが積み上がっていきます。キャッシュマネジメントは重要課題だと認識しており、I B I 18の中でも、将来に向けた積極投資と適正な株主還元に、その資金を投下していくこととしています。

投資については、先に申し上げた戦略を推進していく一方で、健全なキャッシュマネジメントを継続していきます。例えば、大型投資となる今回の用地取得およびその後の施設建設では、2018年末に事業用地の引き渡しが完了し、2019年から着工、すなわち上物への投資が始まりますが、手元資金としてはさらなる将来の投資のためにも現在の水準は維持しながら、キャッシュ・フローの中で賄える試算を立てています。

株主還元については、計上した当期利益(Coreベース)を株主の方々と折半するという考えのもと、Core EPS対比の配当性向を「平均して50%を目処」とすることとしています。この考え方については、株主・投資家の方々から「非常に明快だ」と評されることも少なくありませんが、同時に、会社の目標と株主の皆さまへの還元の基準を共通のCoreベースでの利益成長と設定しているというメッセージでもあります。

なお、資本コストやROEについての質問をいただくこともあるので、ここでご説明いたしますと、もちろん資本コストを上回るROEが必要という点も理解していますし、内部では資本コストを踏まえた貢献利益を製品ごとに算出・分析し、経営陣で共有しています。しかし、対外的な目標と内部全社目標を一致させていくことや、目標設定の明快さなどを重視し、財務目標はシンプルなCoreベースの営業利益としていることをご理解いただければと思います。

Coreベースでの実績は、IFRSベースでの実績に当社が非経常事項ととらえる項目の調整を行ったもの。当社ではCoreベースでの実績を、社内の業績管理、社内外への経常的な収益性の推移の説明、ならびに株主還元をはじめとする成果配分を行う際の指標として使用している
1株当たり配当金およびCore配当性向
1株当たり配当金およびCore配当性向
Q.株主・投資家との対話について、
考え方を聞かせてください。

日本版スチュワードシップ・コードが公表されて以降、国内の機関投資家の方々の良い方向への変化を感じています。一方で、羮に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)といったことになり、逆に対話が促進されない状況にしてはならないと感じています。

中外製薬は、イノベーションにより持続的に利益を創出して企業価値向上を図り、その成果を資本市場での高評価と安定配当によって株主の皆さまに還元していくことを根幹の戦略としています。そのため、IRの方針としても、「企業と投資家は対等」と考えている投資家の方々と、目的を共有し、対等に議論し、その投資が成功するように企業が成長する。そういった適切な関係を構築できるようにしていきたいと思います。

そのため、当社の統合報告書(アニュアルレポート)におきましては、私たちの経営の方向性やその背景にある事象などを共有できるよう、株主・投資家の皆さまの分かりやすさに注力してきましたが、今回はさらに使いやすさ、利便性といった点にも工夫を凝らしました。常に進化を遂げながら、対話の起点となりうる冊子を目指しています。

中外製薬は、引き続き、より効果的な対話を行えるよう、できる限り投資家目線に立ったコミュニケーションや情報開示にも努めていきますので、今後とも中外製薬にご期待ください。

Contents
アニュアルレポート2016
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アニュアルレポート2016
レポートの構成
  • CEOレター
  • 中外製薬ダイジェスト
  • 社長メッセージ(戦略解説)
  • 中外製薬の経営(ガバナンス・人財)
  • 副会長メッセージ
  • 特集:導出戦略に現れる中外製薬の革新
  • CFOインタビュー
     (よくいただく質問への回答)
  • 中外製薬の取り組み
  • 詳細な報告
  • 財務情報
注:印はオンライン版での掲載情報。
PDF版の全136ページのうち、
16ページ分がオンライン版の掲載となります。
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