こうした厳しい環境下ですが、中外製薬は、連続的なイノベーションを実現しうる独自の強みを確立しています。これを支える基盤はロシュとの戦略的アライアンスであり、ロシュ・グループの一員でありながら上場企業として自主独立経営を続けるという、非常にユニークなビジネスモデルです。
創薬面で言えば、ロシュ・グループ全体で年間1兆円規模の研究開発費を投じ、ロシュ、ジェネンテック社、中外製薬の3社が各々の強みを発揮した活動を行える体制です。これにより、中外製薬は世界でも有数の抗体改変技術を確立し、あわせて低分子創薬基盤を獲得したほか、次世代技術として中分子医薬品の創製に挑戦するまでになりました。
開発・生産面では、複数品目の開発を迅速に行う体制を整えるとともに、ロシュと共同での後期開発を視野に、early PoC*3と呼ばれる早期の開発段階までに経営資源を集中できるグローバル開発体制を構築。マーケティング面では、個別化医療*4の普及や地域医療への貢献などが高く評価され、国内市場におけるプレゼンスは一層高まっています。
業績面でも、アライアンスから15年を経て、売上収益、営業利益、時価総額のいずれも約3倍となるなど、確たる成長を遂げることができました。2002年当時、前例のない形でのアライアンスへの不安も耳にしましたが、現在、成功をステークホルダーの皆さまと分かち合い、高く評価していただいていることを大変喜ばしく思っています。
このように独自の強み、成長基盤をつくり上げた私たちですが、今後の課題はさらなるイノベーションの実現です。製薬産業を取り巻く環境はますます厳しくなるでしょうし、人工知能(AI)やIoTを含めた破壊的技術*5の出現や他業種の参入は、創薬アプローチの大きな変化をもたらしうるものです。
2016年から始まった中期経営計画I B I 18においても、各機能がグローバルトップクラスの競争力の獲得・発揮に向けた取り組みを進めています。私は、I B I 18のスタート時、全社員に向けて「海図のない航海に乗り出していこう」という決意を共有しましたが、初年度から事業活動の多くの場面で、新しい挑戦が行われています。
2016年の業績は、5.5%の薬価引き下げという環境下で大きな成果を収めました。今後の最重要成長ドライバーであるエミシズマブ(「ACE910」)、アテゾリズマブ(「RG7446」)の開発も着実に進展し、自社でグローバル開発を進めてきた「SA237」、nemolizumab(「CIM331」)の導出契約も締結することができました。
将来の成長に向けても、神奈川県横浜市に事業用地を取得し、研究開発の中核的拠点整備への布石を打ったほか、IFReC*6との包括連携に関する契約を大阪大学と結ぶという、新たな取り組みも実現しました。