CFOによる投資家との
エンゲージメント

中外製薬の目指す姿や、
非財務面も含めた企業活動と
その実態をご理解いただけるよう
株主・投資家の皆さまとの
積極的な対話に努めてまいります。

上席執行役員 CFO
財務統轄部門長 兼 IT統轄部門長 兼 財務経理部長

板垣 利明

中外製薬の目指す姿や、非財務面も含めた企業活動とその実態をご理解いただけるよう株主・投資家の皆さまとの積極的な対話に努めてまいります。

3月22日付でCFOに就任いたしました板垣でございます。中外製薬に入社以来の35年間、企画系と財務系の職務に携わってきました。ここ数年間は、前CFOのもとで財務経理部の責任者を務めてまいりましたが、これからは私自身がCFOとしての責務を果たしていくことになります。

当社は、革新的な医薬品とサービスを持続的に提供し続けられるトップ製薬企業として、これからもあくなき挑戦をしてまいります。そのような中外製薬であり続けられるよう、戦略を企画・推進し、資源の効果的かつ効率的な配分・使用に努め、ありのままの姿とありたい姿を社内外のステークホルダーと共有できるように対話の機会をつくっていきたいと思います。引き続き、皆さまのご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

エンゲージメントアジェンダ1:
財務・資本戦略

Q.財務目標についての考え方を教えてください。
マージン向上による絶対収益の持続的成長が、
当社ビジネスモデルにおける重要な財務KPIです。

ROE(*1)という財務指標が日本でも重要視され、株主・投資家の皆さまからもご質問を受けることが多くなってきました。しかし、当社は、中期経営計画IBI 18の財務目標としては「Core EPSのCAGR」(*2)を掲げています。その理由は、中長期にわたる持続的な絶対利益成長を目指しているからです。

ROEは、「売上高利益率(マージン)」×「総資産回転率(ターンオーバー)」×「財務レバレッジ」に分解できます。中外製薬の場合、製造工程が比較的長いバイオ医薬品の割合が高く、万全の供給責務を全うするために相応の安全在庫を保有することもあって、ターンオーバーの短縮には一定の制約があります。また、ロシュとの戦略的アライアンスに基づく自主独立経営を維持していくには、ロシュ持分比率を一定範囲内にとどめておくことが肝要であり、自己株式の取得・消却により株主資本を圧縮することは他社に比べて容易ではありません。

したがって、ROEの改善には、マージン向上が一番のドライバーであり、その絶対額の持続的成長を株主目線で示したのが「Core EPSのCAGR」ということになります。

*1 自己資本利益率(Return on Equity)
*2 Core: IFRSベースでの実績に当社が非経常事項ととらえる項目の調整を行ったもの。当社ではCoreベースでの実績を、社内の業績管理、社内外への経常的な収益性の推移の説明、ならびに株主還元をはじめとする成果配分を行う際の指標として使用している
EPS(Earnings Per Share):当社株主に帰属する1株当たりの当期利益
CAGR(Compound Average Growth Rate):一定期間における年平均成長率


Q.では、ROEについては目標とせず、資本コストも意識していないということでしょうか?
ROE概念や資本コストについては、
社内の経営判断プロセスやメカニズムにビルト・インされています。

リスクマネーの提供者である株主に対して、資本を効率的に利用して期待するレベル以上の利益を獲得することは、企業の当然の責務です。当社も、在庫量やCCC(*3)の管理によるターンオーバーの最適化や、利益還元と成長投資のバランスを踏まえた配当政策による株主資本の適正化の努力をしっかりと行っています。

また、資本コストを加味したOPAC(*4)での管理を行っており、中長期計画の策定時においては、資本スプレッドを加味した目標とのギャップを明確にして、戦略を立案するなどしています。投資案件や開発テーマの事業性評価もWACC(*5)で現在価値に割り引くなど、社内の経営判断プロセスやメカニズムには、資本コストの概念が当然のようにビルト・インされています。

公表している財務目標指標はCore EPSだけですが、ROEや資本コストを軽視しているわけではありません。

*3 仕入から販売に伴う現金回収までの日数(Cash Conversion Cycle)
*4 資本コストを加味した税引き後営業利益(Operating Profit After tax and Capital charge)
*5 加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital)

エンゲージメントアジェンダ2:
戦略投資と配当方針

Q.キャッシュ・フローの現状と今後の使途について教えてください。
豊富な営業キャッシュ・イン・フローを、
企業価値向上のため設備とR&Dへ戦略的に投入していきます。

2017年末時点で、2,400億円強のネット現金を保有しています。Core EPSが持続的に成長している限り、営業活動からのキャッシュ・イン・フローも増加していくことが期待されます。

新製品の市場導入や自社創薬・開発への資金投入は都度、損益計算書(PL)に費用として計上されますが、技術や開発品の導入や資本提携、設備投資など将来の成長への投資の多くは貸借対照表(BS)に計上されたまま、多大な資金支出が必要となってきます。中外製薬は、こうした分野への投資を積極的に推し進めてまいります。

当面、大きなものとしては、施設・設備への投資があげられます。独自の抗体技術の活用などを通じ、今後も革新的なプロジェクトが続々と生まれてきます。そうした複数プロジェクトの同時開発と高速上市に対応すべく、ここ数年間かけて、抗体原薬生産能力の増強に向けての投資を行ってきました。浮間工場の新プラント(UK3)がその一例で、2018年中に試作製造を開始し、2019年から商用生産を本格化していく予定です。

また、次世代の研究開発基盤の拡充に向けた大規模な投資も控えています。2018年末には17万㎡の事業用地(神奈川県横浜市)を買取り、2019年から新研究所の建設に着工する計画です。

加えて、外部との提携や導入などの戦略投資もあります。IFReCとの免疫学研究活動にかかわる包括連携に、10年間で100億円を拠出します。科学技術の飛躍的な進展に伴い、これまでの技術やビジネスモデルによって形成された業界構造を劇的に変化させる破壊的イノベーションが起こりうる時代のとば口に我々は立っています。その動向を察知し、自ら機会を創造し、成長シナリオを描くことが必要です。そうしたインテリジェンス機能を担う専任組織として、科学技術情報部を2017年4月に新設しました。

新技術の獲得や、革新的技術を有する企業との提携など、積極的に外に目を向け、オープンイノベーションの機会も探索していきます。


Q.株主への利益還元についての方針を教えてください。
事業による企業価値の増大で期待に応えます。
利益配分は、当面、配当金と内部留保で折半します。

まずは、画期的な新薬と革新的なサービスの創出によって企業価値を継続的に増加させていくことで株主価値を向上させ、株主の皆さまの期待に応えていきたいと考えています。そのうえで、獲得した利益は、安定的かつ継続的に増額していく配当金で還元していきます。

ここ数年間は、Core EPS対比で平均して50%の配当性向を目処としています。Core EPSの持続的成長が果たされている限り、増配していくことは可能ですが、さらなる持続的成長のためには、戦略的投資の手を緩めるわけにはいきません。当面は、ネット現金を現水準に維持しながら、毎年の営業キャッシュ・イン・フローで投資資金は賄える見込みです。

エンゲージメントアジェンダ3:
投資家との対話方針

Q.投資家をはじめとするステークホルダーとは、どのように接していきたいですか?
ありのままの当社を知っていただき、
双方向の対話を通じて価値の共有化を図っていきます。

中外製薬を一言で表現するなら、私は迷わず「Integrity」という言葉を選びます。英和辞典で「Integrity」を引くと、高潔・誠実・清廉などの訳が出てきますが、私は、「自分自身・所属組織・社会全体に対して、余すことなく真摯に向き合って、ベストであると思うことを正直に推し進めていく姿勢」がIntegrityの本質だと考えています。

35年前に入社したとき、企業3原則といわれる「経済性の追求」「社会性の追求」「人間性の追求」が当社の行動理念だと教わりました。社会の公器としての企業は、そのどれが欠けても成り立たず、特に生命に携わる当社は、社会性と人間性の追求が重要であると教育を受けてきました。

最近になって注視されているESGも、Integrityな経営や、社会性と人間性を尊重した経営を意味しているのだと思います。当社に綿々と引き継がれている行動理念を追求すれば、ESGは企業が社会とともに共存しながら持続的に成長していくために絶対に忘れてはならないことです。そうした非財務面も含めた活動実態もステークホルダーの皆さまにお伝えしていきたいと思います。

適時適切に定性・定量情報を提供していくことで、当社のありのままの姿をステークホルダーの皆さまにご理解いただき、ご支援していただけるようにすることは、CFOとしての重要な責務です。一方向の情報発信にとどまることなく、双方向の対話を通じて、皆さまの当社への期待をしっかりと受け止め、経営にも反映していきたいと考えています。皆さまからの忌憚ないご意見・ご要望をお待ち申し上げております。

主な設備・R&Dなどへの投資状況と計画

着手~完成年(予定)投資額(予定)事業所名内容
2012~2021476百万SGDCPR(シンガポール)抗体改変技術を活用した開発候補品の創製
2013~201529億円浮間工場バイオ治験薬の製造能力の倍増(複数同時開発への対応)
2013~201860億円宇都宮工場少量多品種のプレフィルドシリンジ製造
(トレイフィラーの導入)
2015~201760億円藤枝工場固形剤製造設備などの増強(高速上市および安定供給への対応)
2015~2018372億円浮間工場少量多品種の抗体原薬の初期商用生産
(UK3新設による生産能力の拡充)
2016~2018434億円-神奈川県横浜市戸塚区の事業用地購入
2017~2027100億円-IFReCとの免疫学研究活動にかかわる包括連携
着手~完成年(予定)
2012~2021
投資額(予定)
476百万SGD
事業所名
CPR(シンガポール)
内容
抗体改変技術を活用した開発候補品の創製
着手~完成年(予定)
2013~2015
投資額(予定)
29億円
事業所名
浮間工場
内容
バイオ治験薬の製造能力の倍増(複数同時開発への対応)
着手~完成年(予定)
2013~2018
投資額(予定)
60億円
事業所名
宇都宮工場
内容
少量多品種のプレフィルドシリンジ製造(トレイフィラーの導入)
着手~完成年(予定)
2015~2017
投資額(予定)
60億円
事業所名
藤枝工場
内容
固形剤製造設備などの増強(高速上市および安定供給への対応)
着手~完成年(予定)
2015~2018
投資額(予定)
372億円
事業所名
浮間工場
内容
少量多品種の抗体原薬の初期商用生産(UK3新設による生産能力の拡充)
着手~完成年(予定)
2016~2018
投資額(予定)
434億円
事業所名
-
内容
神奈川県横浜市戸塚区の事業用地購入
着手~完成年(予定)
2017~2027
投資額(予定)
100億円
事業所名
-
内容
IFReCとの免疫学研究活動にかかわる包括連携