CEOメッセージ(対談)

中外製薬では、2018年3月22日に
CEOが交代しました。
ここでは、同日までCEOを務めていた
代表取締役会長の永山と、
新たにCEOに就任した
代表取締役社長の
小坂による対談形式で、
ステークホルダーの皆さまに
メッセージをお届けします。

代表取締役会長
 

永山 治

代表取締役社長
最高経営責任者(CEO)

小坂 達朗

中外製薬では、2018年3月22日にCEOが交代しました。ここでは、同日までCEOを務めていた代表取締役会長の永山と、新たにCEOに就任した代表取締役社長の小坂による対談形式で、ステークホルダーの皆さまにメッセージをお届けします。

革新的な医薬品を届けるため、自らを変革する。

永山

病気に苦しむ方々に、革新的な医薬品を届け続けること。これが私たちの使命です。

1925年の当社の創業は、関東大震災後の深刻な薬不足を契機としています。優れた薬で医療に貢献したいという思想は当時から変わっていません。創業の精神を脈々と受け継ぎながら、その実現のため、時代や社会の要請に応じて自らを変革してきたことが、持続的な成長の理由だと思います。

小坂

確かに、90余年の歴史の中で、中外製薬のビジネスモデルは大きく変わってきました。社会や事業環境の変化に対応し、大衆薬中心から医療用医薬品へ事業を転換したこと、他社に先駆けてバイオ医薬品に着手したことなど、リスクを恐れず変革に挑んできました。

特に、現在のビジネスモデルの礎となったターニングポイントは、2002年のロシュとの戦略的アライアンスです。私は永山さんの指揮のもと、実働部隊の責任者として交渉にあたりましたが、中外製薬が創り出す薬による医療への貢献がグローバルに広がることに、非常に意義を感じていました。

永山

疾患に国境はありません。中外製薬の存在意義は、アンメットメディカルニーズ(*1)を満たす革新的な医薬品の創製にありますが、その価値を世界の患者さんにお届けしなければ、役割を果たすことはできません。また、新薬開発に伴う莫大なコストを一社でまかなうことには限界があります。ロシュ・グループのメンバーでありながら、日本で上場を維持して自主経営を続けるこのユニークなアライアンスは、研究開発型企業として独自にイノベーションを追求し続けるための決断でした。

2017年でアライアンス15周年を迎えましたが、提携前の中外製薬と比べ、売上収益・営業利益は3倍以上、時価総額は約9倍(*2)にまで拡大しました。これはアライアンスを通じて実現したビジネスモデルの価値を証明するものだと考えています。

*1 いまだに有効な治療方法がなく、十分に満たされていない医療ニーズ
*2 2017年末時点

疾患に国境はなく、
中外製薬はグローバルに価値を
届けていかなければなりません。
革新を続け、世界の患者さんに
貢献することで企業価値の向上を
実現していきます。

独自のビジネスモデルの構築が、グローバル成長を実現。

小坂

そうですね。アライアンス締結パーティーの際、「中外製薬は一夜にしてグローバル企業となった」とある方からスピーチをいただいたのですが、まさにそのとおりでした。

この15年間は、大きく3つの時期に分けられます。第1フェーズである2008年までは、新生・中外としてグローバルレベルの経営の実現に奔走した期間。ロシュが世界で展開する製品を日本で上市すべく、複数の大型プロジェクトの臨床開発・申請・発売を同時並行で進めましたが、これはかつてないチャレンジでした。同時に、プロジェクトライフサイクルマネジメントシステムや専門MR制の導入、ビジネスプロセスリエンジニアリングの推進など、事業規模の拡大に応じた体制整備も行っています。

この時期に事業基盤が確立されたことで、第2フェーズとなる2009年から2014年は、「トップ製薬企業像」の実現に向けてアクセルを踏み込むことができるようになりました。

永山

2009年に経営の基本目標として「トップ製薬企業像」を策定したのですが、その背景には人財の成長があります。

企業価値の源泉は、尽きるところ「人財」です。2002年以降、アライアンスを通じて経験したグローバルレベルの仕事の質と量が、人財を大きく育てました。事業においても、がん領域や抗体医薬品研究でトップポジションに至りましたが、その一方で、事業の急速な拡大に社員の意識が追いついていない面がありました。

他社に追随するのではなく、自分たちで高い目標を掲げ、リーディング・カンパニーとしての自覚と誇りを持って業務に取り組むマインドセットの醸成が、次の課題でした。そこで「トップ製薬企業」という目標を掲げたのです。

目指す姿を明確にし、個々の社員の自律的な変革が促されたことで、その後、活動の水準は一段と高まりました。革新的プロジェクトの連続的創出や、個別化医療の推進、安全性マネジメントの高度化など、リーディング・カンパニーとして、各機能が患者さんや医療従事者に対し、これまでにない価値を発揮できるようになったと思います。

小坂

そして、2015年から現在までが第3フェーズ。「トップ製薬企業」という目標は社員に定着し、グローバルトップクラスの競争力の獲得・発揮を通じ、自ら新たな分野にチャレンジしていくことを目指しています。「INNOVATION BEYOND IMAGINATION ― 創造で、想像を超える。」というメッセージを取り入れた中期経営計画IBI 18は、前例のない挑戦に取り組む経営計画となっています。

永山

アライアンス後の成長を振り返ると、徹底したイノベーションの追求と、中外製薬ならではの収益構造に支えられてきたと思います。

中外製薬は、2つの成長エンジンを有しています。一つは「ロシュ導入品」。ロシュ・グループが創製した画期的な新薬を国内で独占販売することで、安定的な収益基盤となります。これにより、もう一つの成長エンジンである「自社創製品」、その研究活動では、よりチャレンジングで革新的なプロジェクトに挑戦できます。こうして生まれた革新的医薬品を、ロシュ・グループを通じてグローバル市場に展開。これが成長を牽引する収益基盤となり、さらなるイノベーション追求の原資となるのです。

トップ製薬企業の定義(2010年代後半に実現を目指す企業像)

ファーストインクラス(*1)・ベストインクラス(*2)の革新的な医薬品とサービスにこだわり、
世界の患者さんと医療従事者に新たな解決策を提供し続ける会社
ーすべての革新は患者さんのためにー

*1新規性・有用性が高く、これまでの治療体系を大幅に変えうる独創的な医薬品
*2標的分子が同じなど、同一カテゴリーの既存薬に対して明確な優位性を持つ医薬品

定量面

1.国内大手製薬企業 上位3位以内

  • 国内シェア
  • 連結営業利益率
  • 従業員1人当たり連結営業利益額
  • MR1人当たり国内売上高

2.国内戦略疾患領域プレゼンスNo.1

  • 戦略疾患領域(がん/腎/骨・関節/リウマチ):売上シェア、ステークホルダー満足度トップクラス
  • 医療連携をベースとした病院市場でのトップブランド確立

3.グローバルプレゼンス拡大

  • 海外売上比率増加
  • グローバル大型製品保有数
  • グローバル後期開発品保有数
  • ファーストインクラス・ベストインクラスの自社グローバルプロジェクト年平均ポートフォリオイン数

定性面

1.各ステークホルダーに高い満足を提供し、積極的に支持される信頼性の高い会社

2.グローバルレベルの主体的な活動ができる会社

  • 臨床的に競争優位性の高い製品を継続的に創出/開発/国内外市場へ上市
  • 製品の適切な育成・販売を通してロシュ・グループの業績に貢献
  • 製薬業界の活動をリード
  • 社員一人ひとりがトップ製薬企業としての責任を自覚し、誇りと自信を持って活動

業界屈指の創薬力を背景に、大きな価値創出を実現。

永山

中外製薬の創薬力は、ロシュ・グループにとっても大きな成長の原動力となっています。自社創製品である「アクテムラ」や「アレセンサ」は、ロシュを通じて世界の患者さんに届けられ、グループの収益に貢献しています。また、ロシュ・グループ全体で19(*3)のBreakthrough Therapy指定(BT指定)(*4)のうち、5つ(*3)が中外製薬の創製であるという事実は、当社がイノベーションを生み出す力の高さを示すものでしょう。

日本でいち早くバイオテクノロジーを応用した創薬研究に参入した中外製薬は、独自の抗体改変技術をはじめとする、世界でも有数の技術基盤を確立し、現在、抗体を中心とする自社創製品が続々と臨床段階に入っています。さらには、次世代技術として中分子医薬品の創製にも取り組んでおり、高度なサイエンスとテクノロジーによる価値創出を追求しています。

小坂

IBI 18の2年目となる2017年は、中外製薬の強みが成果として実現し、今後の中外製薬を占ううえでも転換点となる一年でした。収益では過去最高の業績を残し、トップ製薬企業像として掲げる定量・定性目標も、手の届くところまできています。

戦略面でも、最重要成長ドライバーである自社創製品「ヘムライブラ」が、日・米・欧の同時申請を経て、インヒビター保有の血友病Aを対象に米国で世界初の発売を果たしたことは、極めて大きな成果です。「ヘムライブラ」は、当社独自のバイスペシフィック抗体技術により創製された革新的医薬品であり、ロシュ・グループのネットワークを通じ、迅速なグローバル開発・上市を実現しました。まさに、当社の強みであるビジネスモデルを体現するプロジェクトです。血友病治療に革新をもたらす医薬品として、世界の患者さんに大きな貢献ができるものと考えています。

また、同じく重要成長ドライバーである「テセントリク」の着実な開発進捗、少量多品種生産に対応したバイオ原薬生産体制の整備、営業・メディカルアフェアーズ・医薬安全性の3本部が連携した新ソリューション提供体制の展開など、重点テーマが順調に前進しました。

2018年は、IBI 18の最終年度です。薬価改定をはじめとする厳しい環境変化が予想されていますが、創薬、臨床開発、製薬、ソリューション提供の全機能で戦略を完遂し、3年間の集大成として成果の拡大を果たす一年としていきます。

*3 2018年2月1日時点
*4 重篤または致命的な疾患や症状を治療する薬の開発および審査を促進することを目的に、2012年7月に米国食品医薬品局(FDA)が導入した制度

ヘルスケア産業の構造変化が
想定される中、患者さんに貢献する
ためには人財が鍵となります。
人財の力でイノベーションを追求し、
中長期にわたる成長を
果たしてまいります。

産業構造変化への対応策は、イノベーションの追求のみ。

小坂

今後の展望として、AIやIoT、ナノテクノロジーといった破壊的技術により、第四次産業革命ともいうべき転機の訪れが予想されます。また、少子高齢化、地球環境悪化、公的債務拡大といった持続可能性の危機も叫ばれており、これらの相互作用により、これまでにない速く激しい変化の時代が到来するでしょう。

ヘルスケア産業においても、新しい医療技術による新需要の創出が期待される一方で、異業種の参入による競争激化や、世界的な社会保障費の増大や財政基盤の脆弱化を背景とする医療費抑制策が一層進展することは必至です。

中外製薬が将来にわたって価値創出を続けるためには、強みを最大限に活用しつつ、産業構造の変化に布石を打っていかなくてはなりません。そのための道、それはイノベーションの追求しかありません。

永山

まさに、中外製薬の原動力はイノベーションです。一方で、イノベーション、すなわち新薬の創製は、ますます難しくなっていることも事実です。開発難易度が上がり、技術革新に伴うコストが高騰する中、グローバルの新薬開発競争は熾烈を極めています。

一つの新薬の成功には、その陰で失敗するプロジェクトのコストも含め、約25億米ドル(約3,000億円)の投資が必要だとする研究(*5)もあります。それだけの体力を確保しなければ、製薬会社の成長や存続は難しくなるのです。

しかし、医薬品開発はその高い専門性ゆえに、事業に伴うリスクやイノベーションが起きるプロセス、必要となるさまざまな技術や投資額の規模について、社会に十分に理解されているとは言えません。イノベーションが正当に評価されなければ、治療法のない病気を治す革新的な医薬品を生み出すことはできません。

製薬産業をはじめとするライフサイエンスは、緻密かつ高度なサイエンスとテクノロジーを駆使する分野です。今後の世界の産業構造においても、成長領域であり続けるでしょう。

開発期間とコスト(米国・タフツ大学による調査結果)(百万米ドル)

出典:DiMasi, J.A., Journal of Health Economics (2016) 47: 20-33
*1 前臨床開発にかかるコスト
*2 臨床開発にかかるコスト
*3 前臨床、臨床開発にかかるコストの合計
小坂

医療経済性やイノベーションとコストのバランスに関する議論は、製薬産業全体で取り組むべき課題です。中外製薬も、業界をリードする存在として、その働きかけに力を注いでいきたいと思っています。

また、当社は独自のビジネスモデルや技術基盤を背景に成長を続けていますが、それが将来にわたって安泰なわけではありません。先ほどお話ししたとおり、社会に根本的な変化をもたらしうる技術革新が進んでいます。従来の枠を超えた発想がなければ、イノベーションを生み出し続けることはできません。

こうした中、製薬による高度な医療の実現、「The Pill」を中核としながら、言わば「Around/Beyond the Pill」といった、これまでの産業の枠を超えた取り組みが必要になると考えています。The Pillの医薬品の創出では、これまでの強みに加え、次世代中核技術である中分子創製技術や、IFReC(*6)との包括連携を通じた最先端の免疫学研究をはじめとするオープンイノベーション(*7)などにより、革新的な医薬品の連続創出を果たしていく考えです。

さらにAround the Pill、医薬品を取り巻くソリューションとして、2018年に本格的に着手するFMI 事業(*8)における、次世代シークエンサーを用いた遺伝子診断による情報サービスを手始めとして、医薬品事業とのシナジーを図りつつ、個別化医療・ゲノム医療の進展に貢献していきたいと考えています。

そして、医薬品を超えた領域としてのBeyond the Pillも含めたより大きな革新に向かって、異業種との連携などを行いながら、第四次産業革命とも言うべき変化をイノベーションのチャンスとして取り入れていきたいと考えています。その先駆けとして、2017年4月に新設した科学技術情報部を起点に未来への変化を捉え、成長シナリオに結び付けていく計画です。

現在、次期中期経営計画を策定中です。具体的な成長戦略は、この発表時にお示しする予定です。

*5 米国・タフツ大学の調査では、開発の成功確率を踏まえると、1品目の医薬品開発に約25億米ドル(約3,000億円)の投資が必要と見込まれている(開発期間とコストのグラフ参照)
*6 大阪大学免疫学フロンティア研究センター(Immunology Frontier Research Center)
*7 自社のみならず、外部の技術や開発力を活用することにより、革新的で新たな価値をつくり出すこと
*8 Foundation Medicine社製品の国内展開

疾病メカニズムの解明と最先端創薬技術の進歩

*1 遺伝子やたんぱく質などの生体内分子をさまざまな手法で網羅的に解析して記録、活用すること
*2 遺伝子の塩基配列を高速で読み出せる装置(Next Generation Sequencer)

新CEOの体制で、連続的なイノベーションと企業価値向上を目指す。

永山

2017年は、中外製薬にとって大変意義深い年でした。これまでの取り組みが結実し、ロシュとのアライアンスは15周年を迎え、私自身にとっても、社長就任から25年という節目でした。

そして、2018年は、トップ製薬企業のゴールが近づくとともに、次の中期経営計画を策定する年です。CEO交代の良いタイミングと考え、小坂さんにCEOの職を引き受けていただきました。私は取締役会議長として経営の監督に注力し、トップ製薬企業としての、ESGの視点も踏まえた企業価値向上を実現していきたいと思います。

小坂

CEO交代の話を聞いたときは、非常に驚きましたが、大きな責任とやりがいを感じています。

イノベーションを追求し、患者さんと社会に貢献していく。先ほど永山さんがおっしゃったとおり、その鍵が人財であることは間違いありません。IBI 18でも、次の経営層の育成を視野に、私自らがコミットして人財戦略およびタレントマネジメントの刷新を進めています。7つのグローバルコンピテンシーを人財像の軸とし、生産性、ダイバーシティ、ワークライフシナジーの連環を図ることで、優れた人財が自己の能力をのびのびと最大限に発揮できる会社にしていきたいと思います。

私が最も大切にしたいのは、明るく、楽しく、前向きな企業風土の形成です。こうした風土こそがイノベーションを可能とし、挑戦を育む土壌だと考えています。

中外製薬は、今後も人財を最大の資産とし、イノベーションを続けることで、企業価値を高めてまいります。今後の中外製薬に、ぜひご期待ください。