リアルワールドデータ(RWD)活用で産官学を巻き込む

ヘルスケア産業のトップイノベーターを目指す中外製薬の挑戦〜DXでビジネスを革新し、社会を変える

代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)奥田修氏 / 執行役員 デジタルトランスフォーメーションユニット長 志済聡子氏

より良い薬をいち早く市場へ。デジタルを活用した革新的な新薬創出によってヘルスケア産業のトップイノベーターを目指す中外製薬。代表取締役社長 最高経営責任者である奥田修氏と、執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長の志済聡子氏が中外流DX、産官学を巻き込んだRWD活用の戦略と意気込みを語る。

対談

──あらゆる産業においてDXが欠かせないキーワードになっています。ヘルスケア産業界におけるDXの現状をどのようにご覧になられていますか。

奥田修社長(以下、奥田):この数年間でDXが急速に進んだと感じています。ヘルスケア産業には製薬会社や医療機器メーカー、医療機関、流通・卸、保険会社、さらに国や自治体など、さまざまステークホルダーが存在し、そこにデジタル・IT企業やデータ会社が加わることでディスラプション(創造的破壊)が起きつつあったのですが、COVID-19がこの流れに拍車をかけました。ヘルスケアにおけるデジタルの活用は、コミュニケーション領域と情報・データ領域に大きく分けられます。医療関係者と患者さんが場所を問わずにつながれる遠隔診療はコミュニケーション領域の一例と言えます。情報・データ領域では、予防から診断・治療・予後に至るペイシェントジャーニーに紐づいた多種多様なデータを収集・解析して、患者さんにとってのアウトカムを明確にしていくことが潮流の1つと言えるでしょう。

製薬会社には研究から生産、マーケティングまでデータが豊富にあり、その活用は創薬の競争優位性だけでなく、バリューチェーンの効率化にもつながります。さらに、多様なアプリやデバイスを活用したリアルタイム性・連続性・遠隔性等を備えた新たなソリューションやサービスの開発にも期待がかかります。DXはもはや必要と言うよりも、必然。今後、より高い精度で患者さんにとっての価値が可視化・定量化されると、ヘルスケアはVBHC(Value-Based Healthcare)に収れんされ、真に価値のある医薬品やソリューションのみが選択される時代になるでしょう。

写真:奥田修

──御社では数年前からDXに取り組んでおられます。

志済聡子執行役員(以下、志済):医薬品産業における新薬開発のR&D費用はこの10年間で1製品あたり2.5倍に上昇し、そのR&D生産性は低下し続けています。ここにAIなどデジタル技術を活用し、多種多様なデータを解析すれば、開発期間の短縮やコスト抑制、成功確率の向上が図れると考えました。そこで、2019年に全社デジタルおよびIT戦略を一元的にリードする部門を新設すると共に、弊社が推進すべきDXとは何かを経営陣と議論して『CHUGAI DIGITAL VISION 2030』を策定しました。

写真:志済聡子

このビジョンには2030年に目指す姿として「デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーター」を掲げています。「ビジネスを革新」するとは革新的医薬品の継続的な提供の実現で、そのためにはバリューチェーンの効率化や革新的なサービスが提供できる体制の構築、さらには社員の意識や組織・風土も変えていく必要があります。また、「社会を変える」とは、個々人に寄り添った最適な個別化医療の提供や、超早期診断・予防・治癒の実現による高いQOL(生活の質)の実現、持続可能な社会保障制度の実現を指しています。

奥田:DXに注目するなかでモノからコトへとビジネス対象の広がりを感じる一方、革新的な医薬品へのニーズは引き続き高く、現時点ではデジタル治療等のソリューションは既存のモダリティを補完するもの、付加的なものと考えています。そこで弊社では2030年をゴールに据えビジネスの中核である医薬品事業をさらに強化するという観点でDXを検討しました。この議論は新成長戦略 『TOP I 2030』の策定と同時に進められ、DXは新成長戦略におけるキードライバーの1つに位置付けられています。

志済:新成長戦略に組み込まれたことで、より一層全社的にDXを推進しやすくなりました。特に注力している戦略の1つが「デジタルを活用した革新的な新薬創出(DxD3*)」です。真の個別化医療の実現を目指して「AI技術の活用×デジタルバイオマーカーの開発×リアルワールドデータ(RWD)の利活用」を推進しています。

具体的には、AIの活用では深層学習による抗体創薬支援技術「MALEXA」の自社開発、デジタルパソロジーと呼ばれる病理画像診断、論文解析などを推進しています。デジタルバイオマーカー開発ではウェアラブルデバイスを用いた子宮内膜症の痛みの可視化や、血友病患者さんの運動状況と出血との因果関係の評価など、複数のプロジェクトが進行中です。RWDは日常の実臨床から得られる医療データの総称で、医薬品の承認申請に寄与し得るエビデンスの創出や、社内意思決定における根拠情報としての活用を進めています。

*DX for Drug Discovery and Development

──RWDにはどういったデータが含まれ、それをどのように活用されるのでしょうか。

志済:電子カルテやレセプト、健診結果などのほか、ウェアラブルデバイスから得られるデータなどが含まれます。収集目的が明確な臨床試験等のデータと比べると目的とするアウトカムが取得できないことが多く、また正確性や信頼性に劣るほか、データ利活用のための環境整備やデータの構造化なども現時点では十分ではありませんが、RWDはデータの種類が豊富でリアルタイム性を持ち、量も膨大であり、創薬や医薬品開発に大きく貢献しうるものです。たとえば、患者さんのゲノム情報と生活習慣、既往歴、医療行為の有効性などのデータを解析すれば、アンメット・メディカル・ニーズの把握や新薬の承認申請の効率化などに生かせる可能性があります。

日常の実臨床で得られる医療データであるリアルワールドデータの例として、健診データ、レセプトデータ、DPCデータ、患者レジストリデータ、電子カルテデータ、ウェアラブルデバイスから取得されるデータなどがあります。

リアルワールドデータ(Real World Data、RWD)とは?
日常の臨床の現場から生み出される患者由来のデータ。健診データ、レセプトデータ、診療情報全国統一データ(DPCデータ)、患者レジストリデータ、電子カルテデータ、ウェアラブルデバイスから得られるデータなど、臨床試験以外で得られた患者・医療行為の情報

奥田:医療関係者にとってRWDの解析から導かれたインサイトは、提供すべき適切な医療行為や治療薬を決める際の大きなサポート(Clinical Decision Support)になるはずです。また、適切な医療の浸透により余剰な医療がなくなれば、国や自治体にとっては医療費削減や医療資源の適正配分といった課題の解決が期待されます。創薬では開発段階からRWDを活用することで臨床試験等の簡略化が期待でき、より良い医薬品をいち早く市場に届けられるようになるでしょう。国民は最適な医療を受ける機会が広がって健康寿命が延び、QOLの向上にも繋がります。このように将来的には三方どころか四方よしの医療が実現するのです。

──そのための課題はどういったところにありますか?

奥田:やはりデータそのものに課題があります。国内ではMDAS(Meaningful Data At Scale)という高品質かつ大量のデータが不足していますし、RWDは個人情報に位置付けられるため、二次利用・三次利用を含めたデータ利活用のガイドライン等を整備しなければなりません。併せて、さまざまな規制緩和も必要です。そのためにアカデミアや医療機関、データ事業者といった様々なパートナーと協働を進めていきます。また、今後規模・質ともに担保されたアウトカム情報のあるRWDがペイシェントジャーニーのなかで統合化され、信頼できる大規模データベースとして意味を持つようになれば状況は変わってくると思います。そのためにも弊社はRWDによる価値創出の先進事例を積み上げてまいります。

志済:欧米では新薬の承認申請にRWDを活用した事例が多数ありますが、日本はまだこれからです。弊社は米国ファウンデーションメディシン社のがんゲノムプロファイリングを活用して、日本と欧米のコホート比較を実施するなど、RWD活用の研究を進めています。今後はほかのステークホルダーとも連携しながら、国や当局へ働きかけていくことも必要だと考えています。国や自治体が管理するデータベースにはアカデミアによる学術研究なら使えても、製薬会社では規制により使えないものがあるので、国民の皆さまの健康のために我々ができることを伝えて状況を変えていきたいです。

奥田:新成長戦略 『TOP I 2030』では2030年に目指す姿として3つの具体像を掲げています。第1に、世界最高水準の創薬力を有し、世界中の患者さんが「中外なら必ず新たな治療法を生み出してくれる」と期待する会社。第2に、世界中の情熱ある人財を惹きつけ、ヘルスケアにかかわる世界中のプレーヤーが「中外と組めば新しい何かを生み出せる」と想起する会社。第3に、事業活動を通じたESGの取り組みが評価され、社会課題解決をリードする企業として世界のロールモデルである会社。これらをドライブするものがDXという位置づけです。弊社は『TOP I 2030』を実行することで、イノベーションによる持続的な社会の発展と自社の成長を追求してまいります。

2022年3月作成

CAREERS

中外製薬は、デジタル技術を活⽤し、ヘルスケア産業のトップイノベーターを⽬指す仲間を募集しています。

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